前編
誰も、好きで人を憎みはしない。
今や人でなき者となった我とて同じ。
かつては人であったのだから。
訳もなく人々を憎み復讐するなど、思いつくはずもない。
◆
――あれは遠い過去。
「あいつ、気味悪いよな」
「暗いしな」
「それに魔法使うんだろ? しかも邪悪なやつ」
まだ我が齢十にも満たなかった頃から、我は嫌われておった。
理由はただ一つ。
闇魔法を使えるから、それだけ。
魔法を使えるだけでも異端とされる世の中よ、その使える魔法が闇魔法ともなれば居場所があるはずもない。
無力な者ほど、力ある者を恐れる。
「近寄っちゃ駄目よ!」
「彼と遊ばないで、何されるか分からないから」
また、同年代の子のみならず、その母親たちですら我をあからさまに嫌っておった。
「ねえ、これ、落し物……」
友人に拾ったハンカチを渡そうとしただけでも。
「げっ! 近寄んな、悪魔!」
「ハンカチ……」
「お前が触ったやつなんて要らねぇよ! 渡してくんな!」
拒否される。
――それが現実よ。
ただ、それでも、そんな中でも我は大人しく生きておった。
闇魔法が使えるから仕方ない。
そうなるのは当然のこと。
そう思って。
――だが、時が過ぎた、ある日。
「お前が噂の男だな?」
「やっちまえって言われててよ」
「悪いがな、死んでもらう」
地区のすみっこで一人小さな家に住んでおった我の前に現れた男たちは武器を手にしていた。
「……来ないで、ください」
逃げることはできなかった。
既に入口は完全に塞がれていて。
そのうちに、男に両腕を掴み押さえ込まれ、刃物を突きつけられ――死を間近に見たその時、意識するより先に魔法を発動していた。
そうして何とか我は命拾いしたのだが。
思えば、あの時死んでおいた方が良かったのかもしれなかった……。