泣き虫ホワイトデー
雄一にずっと好きだと言い続けたけど、上手くあしらわれてる。
バレンタインのチョコもめちゃくちゃ頑張って作ったのに雄一は「ありがとう。」と素っ気なく言うだけ。
彼女がいるわけでもないし、好きな人がいるわけでもないのに、私の好きには応えてくれない。
せめてデートがしたい。付き合わなくてもいいから、一度だけでもデートがしたい。
「ホワイトデーさ、お返しいらないからデートしてよ。」
「デート?」
雄一は目を細める。
「いいじゃん。私が好きって言ってるのに全然構ってくれないし、いいじゃん!」
「デートってさぁ…柄じゃないよ俺。」
雄一は面倒臭そうに答える。
「でもどうせ暇でしょ、日曜日。」
「暇だけどその日は貯め撮りしてたアニメを見ようと…」
「いいじゃん!一緒にデートしよっ!!」
「外まだ寒いしやめとこう。」
「一生のお願い!」
「うーん…」
雄一は腕を組みをして首を捻る。
「分かったよ…。」
「本当??やったぁ!!」
雄一はあまり乗り気じゃなかったけど、約束は守る男だ。デートできるだけ嬉しい。
「じゃあ朝7時公園に集合ね!」
「どんだけ朝早いんだよ。13時位からでいいよ。」
「遅いよ!せめて9時にしよ!」
「9時はどこの店も何もやってないだろ。朝練でもする気か?」
「…それもそうか、じゃあ11時で。」
「分かったよ。11時な。」
面倒くさそうに言う雄一。でも会ってくれる!嬉しい!
雄一は「トイレ」と言って教室を出た。
「田中のどこがそんなかっこいいわけ?」
「別にかっこいい訳じゃないんだけどさ、なんか好きなんだよね。」
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雄一のことが好きになったのは小学2年生の時。家が近いから、良く帰り道が一緒になった。雄一は当時ハマっていたアニメのノベル版を読みながら歩いていた。
「雄一くん、本読みながら歩いたら危ないんだよ?」
「美香ちゃん、そんなのは知ってるよ。危ないけど面白いから読むんだよ。」
「そんなのダメだよ。」
「ダメでも面白いからやるんだよ。面白ければそれでいいんだよ。」
雄一は確固として自分の意志を曲げなかった。
しかし、帰り道偶々雄一のお母さんと遭遇し、
「こらっ!雄一!何漫画読みながら歩いてんの!」
と案の定怒られた。
まだ小学生だった雄一は怒られるとすぐに泣いた。
「ごめんなさい。」
「何回怒られたら気がすむの!もうやらないでね!」
雄一はお母さんが怒り終わるまでずっと泣いていた。私は雄一のお母さんが怒るのが怖くて、雄一が泣いているのが悲しくて、自分が怒られてるわけじゃないのに雄一以上に泣いた。
雄一のお母さんは
「美香ちゃんは悪くないのよ、美香ちゃんには怒ってないから安心してね。」
と飴をくれた。飴を貰うと私は怖いという感情が一瞬で消え、すぐに楽しい気持ちになった。泣いた後に舐める飴はいつもより美味しく感じた。不思議もので、泣いた後に笑うとそのギャップでなんだか普通の楽しい時よりも何倍も楽しくて幸せな気持ちになった。
まるで世界一ハッピーなのは私なんじゃないかと思うくらいに。
雄一はそんな私を見て、
「僕も飴が欲しい。」
と雄一のお母さんに懇願するが、
「あんたはダメっ!」
と言われてまた泣いた。
その日以降も雄一は懲りずに怒られることを何度もした。
行っては行けないところに行っては怒られ、やってはいけないことをやっては怒られ、喧嘩をしては怒られ、学校の宿題をサボっては怒られと、とにかく毎日のように怒られては、毎日のように泣いていた。泣いてもすぐけろっと泣き止み、また怒られるようなことを平気でする。悪気があるわけじゃないだろうし、悪いやつじゃないのだけれど、自分の本能に忠実で、怒られると分かることをいつも平気でしている。私はそんな雄一を馬鹿だなぁと思いつつ、怒られても怒られても変わらない純粋な雄一と、雄一と一緒に泣いた時に貰える飴が大好きだった。
「明日何着てこうかなー。」
明日のホワイトデー、いつも好きと言っても中々伝わらない想いをしっかりと伝えて、雄一からも好きって言ってもらって二人は結ばれる、そんな展開にならないだろうか。
「メイクも少し濃いめにしようかな。」
いつもと違う私を見せれば雄一だってきっと振り向いてくれる。
「どこ行こうかなー。」
ロマンチックな雰囲気になれば雄一も少しは真剣になるだろう。
「雄一は私のことどう思ってるのかな。」
興味が全くないのかな、ずっと一緒にいるけど少しも気にならないのかな私のこと…
そんなこんなで考えていたら全然寝れず夜は明けた。頭が痛いし喉も痛い。鼻水が滝の如く出るし、熱っぽい。
「…嘘じゃん。」
風邪をひいてしまった。あんなに楽しみにしてたのに。こんなのってあんまりだ。
「雄一、ごめん、今日体調悪くてデート無理になった…」
メールでそう告げると
「そっか、それはまぁお大事に。」
と返信が来た。
雄一はやっぱり冷たい。浮かれて熱出して。私、馬鹿みたいだ。
「ごめんね。本当」
もう一度メールを送ると、
「別に大丈夫。溜まってたアニメ見ようと元々思ってたし。」
とまた素っ気ない返信が来た。
「馬鹿っ」
雄一が私に興味持つわけないじゃん。私にだけじゃない。雄一は他人にそんなに興味がない。ぼーっと自分の好きなことを好きなだけやって満足してる。私がいようがいまいが雄一には関係ないんだ。
私はふて寝した。もうどうでもよくなった。元々雄一と私は一緒にいるようで一緒いたわけじゃない。私が勝手に一緒にいただけだ。デートがあろうがなかろうが、雄一はいつも通りマイペースにいつも通り過ごすだけ。私のことなんて毛ほども気にしてないんだ。そんなこと分かってた。分かってたけど、
「少しは心配しろよ馬鹿っ。」
雄一の馬鹿野郎。
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「おはよう。」
「えっ、雄一?」
目が覚めると雄一が私の部屋でゲームをしていた。
「なんでいるの?」
「お前んち行けってお母さんが。これお土産。」
雄一はスティック型ののど飴を渡してきた。
「あっ、ありがと。」
「風邪は落ち着いた?」
「ゴホッゴホッ。」
「ダメそうだな。」
雄一は私には目を向けず、ずっとゲームをしている。
「雄一、風邪移っちゃうから帰ったほうがいいんじゃない?」
もう少し一緒にいたいけど、このままだと雄一も風邪をひいちゃう。
「別に移っていいよ。風邪ひいたら学校休んでアニメ観れるし…ほどほどに移してくれ。」
優しいんだか、優しくないんだか分からない男。
「雄一。」
「うん。」
「好き。」
「うん。」
雄一の持ってきた飴、美味しい。
やっぱり悲しいことの後の飴は美味しいし、世界一ハッピーな気持ちになるね。




