裏切る物または者、そして....
裏切る物または者、そして....
もうボロボロだ。
こんな闇夜の霧が支配する世界なんて知らない。
仲間はと周りを確認すれば、力を使い果たし気を失っている。
「はぁ…はぁ…」
煩わしいほどの呼吸音が私から漏れる。
息を吸うためだけに胸は拡張と収縮を繰り返す。
防御魔法の施された甲冑は重く胸を圧迫するから、手っ取り早くそれを外し、息を吸いやすくした。
「終わりにしよう」
眼の前、異形と化したかつて愛した人へ、呪われた剣を向ける。
終わりにしよう。
憎しみも、悲しみも、こんな、ボロボロになるまでお互いに譲れ無い物を抱えるのも、全部これで最後にしよう。
さもなければ、共に還ろう。
剣に自分の血が染み込む度に自分が人から離れて行く感覚を感じた。
そうして私の流した血を吸い込み続けたコレは今や貴方を殺す為だけに動いている。
青白い文字が血塗れの剣から放たれた。
幾度か剣を合わせ、つかず離れず。
間合いを詰めては消耗戦を繰り返す。
同じ師から習った同じ流儀。
鏡の様、剣舞のようだと言われた。
こんな所で、ひどく皮肉に聞こえる。
剣が合わさり体力に押し負け瓦礫に投げ出される。
ボロボロの身体に額からは血が吹き出した。
カツンと硬質な踵がゆっくりと近づき私の腹部に容赦なく剣が突き刺さった。
肉を刺す為に上から私を見下ろしている目を見て、あぁ、もうこの人はかつて、私がどんなに手を伸ばしてでも手に入れたいと願った人ではもう無いのだと思い知った。
だからこそ剣から放たれた青い光の位置を確認してグローブを瓦礫に擦り付け外し、彼の足元を掴んだ。
「離さない、今度は離さないから」
一瞬彼は怯み、腹に突き刺さった剣のまま立ち上がり彼の懐へと飛び込む。
最期を与えるのは私の役目。
他の誰でもない愚かな私の役目。
「我の名の元に聖なる光よ」
青い光だと思っていた者が彼を背中から切り裂くそして貫く。
確実に命を落とすだろう所を狙って。
それは青いかつて空を総べる者と呼ばれ今はもう居ない真なるものの残影。
それらが貫き、彼が倒れる。
「お前を、倒す為に、遠い旅をしたよ………お前を愛してたと何故気が付かなかった?人一倍忠義に厚いくせに、どうして、私からの思いは受け入れてはくれなかったの?」
随分と穏やかな顔にその身を覆う悪しき物が消えて行く。
全部お前が連れて行くのか。
今座ったら立てなくなる。
膝立ちして彼を看取っていた足に力を入れる。
腹に突き刺さってる物は邪魔だけれど今は抜くわけには行かない。
この長ったらしい階段の先、大聖堂の隠れた扉のその奥、お前が守りたかった物を私は壊す。
お前の守りたかった物が、例えば王族、例えば国の有り方、例えば騎士道そういった物だとしても、これからはもう必要無い。
それらは立ち去るべき産物に過ぎない。
ソレの前に立つのは二度目だ。
一度目は、最中襲われ不成立の契約により国が滅ぼうとした。
今はそれらを正すときだ。
「正統なる最後の王の名を刻め」
聖杯に呪術を唱える。
「我が名はエト」
ボタボタと垂れる血を聖杯は吸い込んでいく。
『認証にデータが不足しています』
今それを言うかなと目の前のグリーンで表示されている文字盤を追いかける。
『あなたを王と認証するためのデータが不足しています、作業を続けますか?』
YESの文字を連打する。
そしてご丁寧に引き抜けば溢れ出るだろう腹部のそれを僅かに捻りながら抜く、全部抜いたら恐らく作業は終わらない。
『あなたを王と認定するためのデータが不足しています、作業を続けますか?』
非常な文字だなと苦々しく思いながら、利き手とは逆の腕の付け根をベルトできつく縛り上げてから腕を自分の力や意思とは全く関係なくよく斬れる自分の剣で切り落とし、その中の液体をそこに注ぐように持ち上げた。
片腕一本。
未来の為ならなんてことはない。
『データを認証します、新王の名前はエトで間違いありませんか?』
「YES」
『システムを構築します』
機械的、いや、機械なんだけど、事務的というべきかな。
文字が浮かび上がる。
『新王エト、帝国のシステムを構築しなおしました、システムを再設定しますか?』
「YES」
『システムを再構築する場合、予期せぬエラーが出ることがありますが、続けますか?』
「YES」
『システムのエラー回避の為の緊急設定を実行しますか?』
「No」
『システムの管理権限を譲渡しますか?』
「YES」
『王から管理権限を異動できる者が設定されていません、管理権限を有する者を登録してください』
「管理権限者は都度変わる、設定はしない、だからNoだ」
『管理権限者を設定してください』
「…管理権限者は民衆によって選ばれる、以降は王の指名はない、よって管理権限は撤廃する」
『…』
『システムを再構築します』
低く唸る機械音の最中階下の声が聞こえる、彼らはきっと私がこうしている事を止めに入るだろうか。
「…」
考えるより口が動いていた。
「扉をロック、設定が終わるまでは扉をロックしろ」
『了解しました』
低い唸る機械音とは別のスライドする音を聞きつけ駆け上がってくる音。
こちら側から最後に見た顔は誰だったか。
「…ガーディアン…何故、最初の王はお前を作ったんだ?」
うつらうつらする。
体が冷えてきたな。
「どうして、自分の体を痛めつけてまで、この国を護りたかったんだろう、お前なら知っているのではないか?」
『システムの構築まで、少しだけ昔話をしましょう』
「寝物語になるかも」
『エト』
[chapter:構築者]
それは、私のどれかの記憶。
いつかの記憶。
忘れ得ぬ記憶。
最初の記憶。
私がここで自我を保つために持たされた記憶。
歴代の彼らの記憶。
私がガーディアンとしてこの国を護るように名付けられた記憶。
私を生んだものは人界においては深い茨の谷にあると言われている国の者でした。
慈悲深い男でもなければ、愛に餓えた男でもなく、繊細でもなければ、大雑把でもない、そんな普通の男です。
もっとも、その国の者が人であるかと問われると、人とは少しばかり違います。
卵で生まれ、少年期は幼い竜として育ち青年期は人として過ごし、壮年期においては自由にその身を変えることができるそのような者たちですから、普通の人とは少し違います。
また、長い年月を生きることを運命づけられています。
それはこの星が生まれたころ、神と呼ばれる存在にこの星を護るためのガーディアンとして長きにわたり人の行く末を見守るために、時に、それらを滅ぼすために長い年月を生きます。
一番長く生きるものは1000年生きるともいわれます。
人よりはるかに長い生を生きますので、彼らは人とはできるだけ接触しないようにして生きてきました。
ですが、好奇心は探究心はどの時代においても彼らにも勿論あります。
その中でとても強い好奇心を持ったものが、人として生きてみようと人界に下りました。
彼は一つの所に4年5年だけ過ごし別の場所に行くという事を繰り返します。
最初は何十年も同じところに居ましたが、友と呼べる者が短い生を終える事に耐えられなくなったのです。
少しの傷やケガでもそうですが、一番にやはり耐えられなかったのは、その生命の潰える時を見守るしかできずまして、自分の体は人でいえば25歳前後で姿が変わらなくなります。
ですので、長くとどまれば老いない事を訝しがられるし、まして友を何十人何百人を見送れば、人との接触を避けるようになるでしょう。
そうして彼は一どころに長くとどまることはせず旅を続けていったのです。
そうしてこの左右を深い森に囲まれたこの地にたどり着きました。
未開の地です。
開拓者もあまり来ません。
彼はそこに定住しようと決めたのです。
家を作り、畑を耕し、そこで生活を始めました。
そうすると夜には森から獣がやってきます。
獣は大切にしていた家畜を食らいます。
彼は家畜を追い払う術式を敷地に展開する事にしました。
そうこう50年余りの月日が過ぎてようやく開拓者の一団がこの地にやってきたのです。
疲れ果てた彼らに食事をふるまい、しばらくはいてもいいと許可しました。
何時までとは言わなかったのは彼の落ち度でしょう。
その開拓者の中に私の最初が居ました。
彼の穏やかな性格に私はただ惹かれていったのです。
家畜を放牧し、暇さえあれば本を読み、バーリューという楽器を弾く。
晴耕雨読。
時折家畜の毛で機を織り、そして機織りの歌を歌う。
そんな人を好きにならないわけがなく。
ただ、見ているだけで幸せだったのです。
彼は開拓者達が居付いてしまったので一度だけ言いました。
「周囲には獣除けの魔術が施されているから、それより奥に行ってはいけない、僕は少し人より長く生きるけど君たちが後から来たのだから、それについては何も聞いてはいけない、それが守れるのなら今少しだけ一緒にいてもいい」と。
俄には誰も信じられませんでした。
でも私が17の誕生日の日、少しだけ長く生きるは本当なのだなと理解しました。
それは彼が行ってはいけないといった範囲の少し先にある滝まで、薬草を採取しに行った時です。
彼の美しい羽根を見ました。
最初とても驚いた顔と悲しそうな顔をしたのは彼でした。
きっと私が開拓団に何か言ってしまうのだろうと思ったのでしょう。
酷く悲しそうな顔とは裏腹に、広げられた翼はとても優雅に数度羽ばたき水を振り落とし、その水滴の一つ一つが太陽の光を反射させて美しいというよりも何よりも神々しいとさえ思いました。
「きれい」
私から出た声に彼はその羽をどこへやってしまったのか目の前からはすでになく、名残のように私の足元に羽が一枚落ちていました。
瑠璃のような色の羽です。
「ここは、獣除けの魔術の外だよ、君らが来ていいところじゃない」
「でも、あそこにある薬草が欲しいの」
「あぁ、君は薬屋の娘か…取ってきてあげるからそこを動いてはいけない」
本当に優しくてそう言って私が欲しい分を籠に取ってきてくれた。
そして籠を渡すときに開拓団の人に見たことを言うかと尋ねられ、私は顔を横に振りました。
少し悲しそうな顔は強張ったまま町へと一緒に戻りました。
私はその手にその羽をもって。
「後生大事に持っているつもりかい?」
彼が農作業から帰ってきて、麦藁帽を押し上げながら羽を手の中でくるくると回していた私を見止めそう声をかけてきた。
私は建物に背を預けて座っていたから見える範囲に他の人がいないことを見てから口を開いた。
「だって、きれいなんだもの…私、不器用だから貴方みたいに服も作れないし飾りにもできないから」
「貸してごらん」
そういうと手に持っていた暇つぶしで彼がよく作る組紐にその羽を通し、彼が身に着けていたピアスを外して、そこに付いていたいくつかの穴の開いた磨かれた鉱石と合わせていった。
「それ、大事なものじゃないの?」
もっと子供のころ、ここに来た頃、とても綺麗だから触ろうとした私に、彼はやんわりと、これがないと家に帰れなくなるからと触れさせてはくれなかった。
「あぁ、でも、もういいんだ」
何処か諦めたような口調とどこか寂しそうな口調でそう続いた。
「…もし、帰るときは私も一緒に行けば帰れる?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
でも彼は続けたわ。
もう、帰らないから。
何かを決めていたのだと思う。
大人たちが彼を囲んでよく話をしているのを知っている。
顔を覆って泣いているような彼の姿を時折、森の深い場所でも見たことがあったから。
開拓団は一団の街を作るようになったのは私がそこに付いて15年目のころだった。
「エト、何をしているんだ?」
機の織り方を彼が教えてくれ、薬草摘み以外にも私ができることが増えた。
機織り機は彼が細かく幾重もの部品を組み立てて作ってくれた。
人より長く生きるから、失敗しても作り直す時間があったからね、何度も何度も作ったことがあるよとそれを作るときに教えてくれた。
「じゃーん。新作です!」
透かしのような布を彼の頭にかぶせてみる。
日に焼けた肌と反するほど白い布をまじまじとみんなが見る。
「エトは機織り名人だな」
「これ売れるかな?」
「売るって、どこに?」
「決まってるじゃないか王都にだよ」
「王都?」
「王様の居るところ」
「ふぅん」
彼を除いて周りの大人たちは私のその布のとりこになりました。
そうして20歳の誕生日を迎えたころには、私の布は王都で大流行し、毎日毎日機織りに追われる日々が続きました。
「そんなに沢山は織れないわ」
聞いたこともない数字に私は顔を横に振ってできない事を強く言いましたが、大人は誰も聞いてくれません。
そんな調子でしたから、彼とは暫く会話する事さえままならない日々が続きました。
その間、彼が何をしていたかといえば、今のこの国の国土のおおよそ半分ほどまでに広げられた術式を維持する為に殆ど寝たままの状態が続いていたとは知らなかったのです。
術式を広げるように懇願したのは開拓者達でしたが、彼の事なんてお構いなしです。
動ける日は彼は遠くの泉で羽を広げて水浴びをするのが日課で、私はといえば、機を織ることに既に嫌気がさしていて、逃げ出そうとしたときに見たのです。
瑠璃色の羽は光を失い。
少し黒いような艶のないそれを見ました。
ですから慌てて彼に駆け寄ると、ひどくやつれて居た事をそこで知りました。
酷くやつれて疲れ果てていました。
私たちは疲れ果てていたのです。
「君、こんなところに来て、危ないから早く帰りなさい、二股の大杉のあるところまでは私の式が働いているからそこまで戻るんだ」
「戻らない!」
初めて反抗しました。
少し驚いた顔をしてから、あきらめたように笑いました。
「私も、もう疲れてしまったんだ」
ぽつりと零した言葉と、少し空を見てから彼は言いました。
「ひどく疲れて時折、目覚めることが難しくなってきた、きっと私の時が近いのだろう…お前たち人の子が困らぬように色々考えてはいるから、だからいい子だから戻りなさい」
何故だか離れる事さえ嫌で、私はその日ただ彼にしがみついて戻らないと押し問答を繰り返したのです。
最後の方はあきれ返るほどで、彼がでは私は戻るが、お前はここにいるんだなとまで言い出す始末です。
そんな遣り取りが続きいい加減戻ろうとなりそのころには村や町といってもおかしくない広さの一団の所へと戻ると王都からの使いの者という者が私たちの戻りを待っていました。
私を王都でお城で雇いたいという話でした。
私は嫌だといったのですが、そのころにはお金に執着していた一団の者が私を殆ど売るような形で彼らへと私てしまったのです。
私の意志なんてほとんどありません。
王都に召し上げられる。
それだけで名誉な事なのだと。
珍しい機を織る娘としてではなく召し上げられたと知ったのは、着いたその夜でした。
彼とは全然違う。
穏やかさのみじんも感じない男の人が私の部屋だと言われて通された部屋のベッドの上に座って待っていたのです。
何か良くない。
そう思って扉を振り返ると、目の前で閉ざされ鍵が落ちる音が聞こえました。
その人が王様だと知ったのは翌日です。
ほとほどボロボロの状態の私を女中たちがお手付きになったのだから喜ぶべきだと言っていました。
それを私はただ薄く笑うしかありませんでした。
たった一晩で私は壊れてしまったのです。
たった一晩で。
持ってきたはずの衣服のほとんどは無くなっていて。
あの羽飾りの組紐だけが手元に残りました。
もう帰れない
あの日の彼の言葉が頭をよぎりました。
私ももう帰れぬのだと。
でも帰りたいのだと。
強く強く願えば願う程、どれほど彼を好きだったか思い知れば知るほど手元のそれに力が入っていきます。
私の涙を幾重にも吸い込んだ羽が黒くなってまるで炭のようにボロボロと手の中で崩れ落ちました。
とたん、空が薄暗くなりガタガタと窓を揺らす突風となり、胸騒ぎがするほどの空になりました。
誰もが空を見上げていて、私もその方向を見つめると、真っ黒いドラゴンがそこに居ました。
おとぎ話の生き物だと思っていましたので、その姿に目を見開きましたが、それが何か私はわかったのです。
解ってそれに手を伸ばしました。
下からは大砲の砲撃音がします。
2,3の砲撃を受けた後、彼はゆっくりを羽ばたき次に嘶きました。
水の柱と炎の柱が城のあたりを覆います。
逃げ惑う人々の声。
私は城のせん塔へと昇り彼に手を広げます。
「帰ろう」
私を見止めた彼がうなずいたかのように見えました。
お互い随分ボロボロでした。
彼が困らないようにしたからと言っていた処へと足を踏み入れると、今のこの私のシステムの最初の姿がありました。
彼を模した姿です。
ですが、私たちは二人とも随分ボロボロでした。
作業をしていた男性がこちらを振り返りひどく一度驚いてから彼のもとに膝を折りました。
「兄上、なぜ人の娘などをお助けに?」
「…知れば、お前も同じことをするよ…」
「うーん、いずれ判るときがくればいいのですが、さて、兄上、まさかと思いますがその状態でこれを起動しよとお思いですか?一応弟としては止めますよ?」
「はは、うん、お前はそうだね、でも、見ての通り…どうも止まらないんだ」
砲撃を受けた体からはだらだらと流れる血があります。
私もほとんど同じと言えました。
「時間がないんだ」
切迫した言い方に弟と言ったその人は私の物とも彼の物とも解らない状態で床に広がっている液体を術式で一つの球体にまとめました。
「兄上、何故とはもう聞きませんが、最後に教えてください、人とは面白いものですか?」
「…」
私の意識が遠のく中、少しだけ力を彼が私の体に込めながら、きっと悲しいような笑顔を浮かべて何かを答えたのでしょう。
私の肉体としての意識はそこで終わりました。
ガーディアンとして、私がここにいる間、彼は私を護るための術式を展開したのです。
誰にも虐げられることのない世界を弟である、この国の初代の王となった構築者ディルフォーダルに託して。
『システムを構築します』
「…ふむ、兄上は術式の展開に使われたか、人格としてはお前が残ったのか?」
独り言のようにグリーンの文字盤と同じ音声に問いかける。が、勿論答えなど返ってくることもなくごく理解しているという様子で動いているという事を確認する。
『システムを構築します』
「あぁ、そうしてくれ」
『システムの管理者を登録してください』
「ディルフォーダル」
自分の名前を告げたとき、少しだけ握った手のひらに力が入った。
『ディルフォーダルで登録していいですね?』
「あぁ」
『ディルフォーダルで登録されました、術式を展開します』
「してくれ」
『術式を展開しました』
「お前の名前は?」
ディルフォーダルが起動したばかりの、いわば生まれたばかりの人工知能へと問いかける。
『私の生前の名前はエト、またはフレイヤ』
「…わからぬな、何故人のために命を賭せるのだろうな…エト、お前の名前は今日からガーディアン・エトだ、この国を護り慈しみ育てよ、兄の愛した土地をお前が守るのだ」
『畏まりました、ディルフォーダル』
治世80年帝国として最大の栄華を極めたとされる王、ディルフォーダルの話へと続く。
愛無き王と呼ばれる王の物語は、私を構築する次のエトによって紡がれます。
『システムを再構築しました、エト、ようやくあなたが救われるのですね』
ふっと笑って意識を失うと同時、閉ざされた扉が開き外で扉を叩き続けていた者たちが流れ込んでくる。
エト!と幾度も繰り返しその名を呼ぶ。
これまでの私たちは誰も愛する人からその名を呼ばれることはなかった。
最後のエトあなたはどうだったのか、私たちの中に取り込まれたときにお教えください。
ですがまだ少しだけ、私たちと一つになるのは早いようです。