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05下:<VR>素材クエスト 中野


5階から上の住宅エリアに入ったところで外壁に窓ガラスが付いた。外から降り注ぐ日差しに解放感がパネェ。

ホッとする3人。そして3人同時にため息をついて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「よしっ! この調子でガンガン行くぞ!!」

ダッシュしそうな勢いのショウを、カザオリが慌てて止めた。

「どうしたんだよ兄ちゃん」

「3枚目の窓ガラス、あそこ行くと窓ガラス割ってガーゴイルが襲ってくるから」

「うそだろ!」

「大変!!」


薄暗い洞窟から明るい場所に出て、ホッと油断したところに敵が襲ってくる、よくできたゲームデザインである。

が、事前に敵が出現する場所が分かっていれば対処の仕様もある訳で、カザオリの指示のもと双子たちは確実に敵を倒しレベルを上げながら、上階へ上階へと上がっていった。


10階にあるエレベーターに乗って屋上へ出る。

そこに待ち構えていた中ボスは、全身熊の様な毛並みに胸筋と腹筋は爬虫類の様な鱗を生やした、蝙蝠翼を羽ばたかせて襲い来るレッドアーリマー。

カザオリは敵の翼を叩き斬って弱らせると、双子にトドメを刺させて無事倒し、軌道エレベーターに乗り込んだ。


乱立する東京の高層ビル群を眼下に眺めながら、軌道エレベーターは上空6000mにある空中ステーション『サンプラーザ』へ向かって上がってゆく。

「すっげー」

「わぁーっ」

双子たちが驚きの眼差しで、遠ざかる東京の街並みを眺めてる。

「なあなあ兄ちゃん」

「どうしたの」

「30世紀って本当にこんな感じになってんのかな」

「どうだろうなぁ。でも本当になってそうなきがするよね」

「だよなあ」

「もう、キサラったら」

生意気盛りのショウにミレイは頬を膨らませた。


まるで無菌室のような、視界に入る物全てが真っ白なサンプラーザ内を進んでゆく。

と、前方から他のパーティーの戦闘音が聞こえてきた。

巻き込まれない様に1本手前の通路に入ろうとしたら、緊迫した雰囲気と共に傷だらけの女が一人、こちらに向かって逃げてきた。背後からはTレックスが追いかけてくる。

ヤバイ!!

そう思った瞬間、カザオリの身体は動いていて、ふわりと宙に舞い上がったかと思うと風のサイキックを利用した衝撃波斬で、Tレックスを斬り伏せていた。


「大丈・・・」

ぶ? と言おうとして言葉を飲むカザオリ。

「オマエ!」

傷だらけの女だと思ったアバターは、駅前で双子を恐喝していた3人組の一人の男の娘だった。


向こうもこちらに気がついたようで、いきなり土下座して詫びを入れると哀れみを誘う様な言葉を並び立て、カザオリ達の武勇を褒めたたえ始めた。

そして、仲間がやられて一人になってしまったから是非とも一緒に行動させてくれと頼みこんできた。


カザオリとしては無視して先に進みたかったのだけれど、ショウが男の娘のお追従にすっかり参って有頂天になってしまって、結局行動を共にすることになった。男の娘は自分の事をカズタカと名乗った。


これまでの武勇伝を得意気に語るショウと「すげぇ」とか「そう、わかるわぁ」だとか言いながら、やたらとお追従してくるカズタカ。カザオリはその言動に胡散臭いものをビンビンに感じ、気を引き締めた。


「あれ、ボスの部屋こっちじゃないの」

「ショウにボスを倒させてやるために、バスターランチャーを取りに行く」

「え? 兵器研究室の解除コード持ってんの?」

思わず素で驚くカズタカ。それもそのはず、解除コードは他の素材クエスト『BC2280 祈宙』の中野サンプラザ内で隠しエネミーを倒さなければ手に入らないのだから。

隠しエネミーのレベルは90、上級プレイヤーしか倒せず、中堅以下のプレイヤーには決して倒せない相手だった。

「バスターランチャー? なんか凄そう」

のんきな声でショウ。

「ばか! バスターランチャーってレア武器だぞ」

興奮気味にまくし立てるカズタカ。その眼が胡乱な輝きを帯びた。


兵器研究室の扉に手をかざすと、カザオリの討伐データを読み取って扉が開く。そして、テーブルの上に横たえられた黄金のバスターランチャーが視界に飛び込んできた。

「すげぇ」

駆け出そうとするショウを慌てて止めるカザオリ。

「ここの床、崩れるから、入り口からテーブルの上を移動してあそこまで行かないとだめなんだよ」

「マジで! あぶねぇ」

ショウがそう言って胸を撫でおろした時だった、カザオリは、突如背中に強い衝撃を受けて前につんのめった。そして床に倒れ込み、そのまま崩れ落ちる床に飲まれて上空6000mから地上に落下してゆく。振り返ると、カズタカの嘲笑する顔が見えて、カザオリは己の迂闊さを呪った。


成り行きに呆気にとられ、そして怒る双子。

「てめぇ何しやがるッ!!」

カズタカの虎爪短剣がショウを切り裂いた。吹っ飛び、壁に激突するショウ。HPが半分持っていかれた。

「うっせえんだよガキ。散々俺に恥かかせやがって。じっくりなぶり殺してやるから待っとけ」

カズタカがショウに襲い掛かる。ショウの顔面に虎爪短剣を斬りつけるえげつない攻撃だ。両手で顔を覆うショウ。カズタカは鼻で笑うと短剣を(ひるがえ)して彼の喉元に改めて短剣を突き立てた。

残虐な笑みを浮かべるカズタカ。それは一方的な強者であることを確信した笑みだった。


が、その短剣がショウにとどくことはなかった。突如床から出現した岩杭によって阻まれたからだ。予想外の出来事にギョッとしバランスを崩すカズタカ。

「ショウ、今のうちに逃げてー!!」

岩杭はミレイの放ったサイキックだった。

ミレイの言葉に我に返ったショウは、カズタカに向かって火粉波斬を放つ。舞い散る火の粉に驚き眼元を覆うカズタカ。

その隙にショウはミレイの手を掴むと逃げ出した。

「くっそ、待ちやがれクソガキィィィィ」

カズタカの怒号を背に二人は全速力で施設の奥へと走り去ってゆく。


「どうしよう、カザオリさんやられちゃうし、もうリタイヤしよ」

泣きながら恐怖に震えるミレイをショウが勇気づける。

「何言ってんだ、やられっぱなしでいいのかよ。絶対仇をとるんだ。兄ちゃんから戦い方教わっただろ、二人でならやれる」


が、現在レベル17でろくな装備やアビリティを持たない双子では、レベル38でバスターランチャーと小ズルい暗器を持ったカズタカに敵うはずもなく、双子たちはただ、サイキックを使いながら逃げ回ることしか出来なかった。

猫がネズミをいたぶるように面白半分な攻撃を繰り返し、舌なめずりしながら二人の後を追うカズタカ。彼の心は最高にハイだった。



「おいおいクソガキ共、もう逃げねぇのか」

大きな空間に追い詰められた双子、カズタカの眼がランランと輝いている。絶対的強者を信じて疑わない眼だ。

「ちっくしょ~」

ショウの顔がくやし気に歪む。HPはすでに残り3分の1まで減っていた。ミレイは震える手でショウの腕をしっかりと掴みつつ、しかし強い眼差しでカズタカを睨みつけていた。


「お~怖、おーコワ」

バスターランチャーの銃口を向けておどけるカズタカ。ニタニタ笑いは最高潮に達していた。


と、暗がりから獣の唸り声が聞こえてきた。それは胆を冷たくする、地獄の底から響いてくる様な唸り声で、ギョッとした3人が思わずそちらを向くと、暗闇からこのクエストのボス、魔狼フェンリルと戦闘ヘリ・エアーウルフが悪魔合体した空魔獣ブルーサンダーがその禍々しい姿を現した。


どうやらたどり着いた先はボスの部屋だったらしい。反射的にブルーサンダーに銃口を向けるカズタカ。ブルーサンダーは奇声ともプロペラ音ともつかぬ爆音を上げながら襲いかかってきた。

「くたばりやがれーッ!!」

バスターランチャーが発射される。

が、その破滅の光はフォースシールドバリアによって遮られてしまった。

「なんで?!」

驚きと恐怖でカズタカの体が固まった瞬間、彼の死角からブルーサンダーの使い魔、ホークとジョンが襲い掛かった。

「くそっ、なんだこいつ等」

ちょこまかと素早く動く使い魔相手では、図体がデカく、チャージが必要なバスターランチャーは不向きだ。みるみるHPを削られてゆく。

「くそがぁっ!!!」

カズタカはバスターランチャーを投げ捨てると虎爪短剣を手に持って応戦を開始した。しかし、使い魔に気を取られている間に襲いかかってきたブルーサンダーに丸呑みされ、喉奥に装備されたチェーンガンによってハチの巣にされてHP0となり消滅した。


カズタカの断末魔を聞いて身体を震わせるミレイを守る為に、ショウはありったけの勇気を振り絞った。物陰から飛び出してバスターランチャーを手に取ると、ブルーサンダーに向けて発射した。しかし又してもフォースシールドバリアに遮られて攻撃が届かない。

使い魔を倒さなければフォースシールドバリアは消えないことに、恐慌状態のショウは頭が回らなかった。


襲いかかる使い魔、絶体絶命のピンチ。

ミレイの叫びがこだまする。


その魔爪が今まさにショウを切り裂こうとした瞬間、突如巻き起こった火焔旋風が使い魔を飲み込み、上空に放り投げる。そして、そのまま態勢を立て直す暇など与えずに、使い魔は切り捨てられた。


「大丈夫だった?」

双子のピンチを救ったのはカザオリだった。

カズタカに空中ステーションから突き落とされたカザオリは、装備セット、太陽勇者"ファイバースター"のボーナススキルである『ファイヤージェット』を使って火の鳥と化すと、何とか空中ステーションの入り口までたどり着き、再びここまで来たのだ。

双子たちの顔が喜びと安堵にほころぶ。

「兄ちゃん!!」

「カザオリさん!!」


威嚇の雄叫びを上げるブルーサンダー。すくむ双子。

カザオリは、赤金色の剣を構えた。それは全ての哀しみを砕く太陽の剣。

「一気に決める! フォームアップ!!」

カザオリが太陽の剣(フレイムソード)を天高くかざすと、彼の鎧が光に包まれ、やがて胸に太陽のエンブレムをあしらったトリコロールカラーの鎧に変化した。

装備セットのボーナススキル『フォームアップ』、3分間だけステータスを3倍にしてくれるスキルである。


「チャージアップ!!」

正眼に構えた太陽の剣(フレイムソード)が光り輝き、炎に包まれた。その輝きは恐怖を乗り越える太陽の鼓動。熱く(まばゆ)く煌めくその輝きに、双子たちは心を強くした。


容赦なく掃射されるチェーンガンを右に左にかわしながら、ボスに肉薄するカザオリ。そして・・・

「バーニングッッッスラァァァッシュ!!」


BREAK OUT!!


ブルーサンダーを一刀両断した。


そして鳴り響く勝利のファンファーレ。

「兄ちゃん、ミラクルカッケェー!!」

カザオリに駆け寄る双子たち。みごと、クエストをクリアした。




インターミッションルーム


「俺、絶対強くなって足引っ張らない様になるからな」

「おう、待ってるぞ」

「カザオリさん、アリガトウございました」

「こちらこそ。まあ、たまに頭がおかしいのもいるけど、このゲーム好きになってくれたら嬉しい」

「はい」

「兄ちゃん、また一緒に冒険してくれよな。約束だぞ」

「おう、約束な」


カザオリと双子は互いにフレンド登録すると別れた。

そしてカザオリは、ベルゼルガ・シールド作成に必要な素材、クエント鉱石を手に入れたのだった。


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