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05上:<VR>素材クエスト 中野

風のサイキックを手に入れた勢いで、そのまま水の幻獣ウンディーネ討伐クエストもこなしてしまおうと決めたカザオリは、装備を変更するために新宿駅に戻ってきていた。


預かり所カプセルに向かう途中、何となく電光掲示板の素材クエスト一覧を見たら、ベルゼルガ・シールドを作るのに必要な素材の一つ、クエント鉱石を手に入れる為のクエスト『BC2816 凱昏』が発生していた。


素材クエストは完全ランダムで不定期発生するため、必要な素材クエストを見つけたら、直ぐにトライするのが鉄則だ。

カザオリはウンディーネ討伐を止めて素材クエストに行くことに決めた。


券売機でクエストチケットを手に入れると、預かり所カプセルで装備を変えた。

今回の装備セットは太陽勇者"ファイバースター"、火属性よりのバランス剣士タイプ装備だ。

セット装備ボーナスは、10秒間だけ火の鳥と化して無敵モードになる『ファイヤージェット』と3分間ステータスを3倍にする『フォームアップ』だ。



チケットを自動改札機に入れて改札をくぐると、そこは中野駅前だった。

前方には、雲に届く程にそびえ立った全長2000mのメガストラクチャービル『中野ブロードウェイ』が大迫力で鎮座していた。

まずはあそこの屋上にある軌道エレベーターまでたどり着かなくてはならない。


気合を入れて一歩踏み出そうとしたところで、右前方のロータリーで揉めている一団が、目に入った。

「うっせえ、とっとと渡しゃあいいんだよ」

「てめーらガキだろ、生意気なんだよ」

「なめんじゃねーぞ」

3人組の野郎達が、男女のペアを囲んでどやしつけていた。

「ふざけんな、お前らのやってること、カツアゲじゃねーか」

女をかばいながら男が3人組を睨みつけてる。女は助けを求める様に改札方面に視線を彷徨わせているが、改札から出てくるプレイヤー達は厄介ごとに巻き込まれないようにと、彼らを見て見ぬ振りしてブロードウェイへと続くサンモール商店街へと消えて行く。


そして、カザオリと女の目が合った。助けを求める怯えた子犬のような眼差し。

いままでの昂一カザオリならば見て見ぬ振りをしていたのだけれど、ビル火災から姉達を救った事が自信になっていたのかもしれない、彼は揉めている一団に向かって一歩を踏み出した。


「どうしたの、揉め事?」

あくまでフラットに、善意の第三者を装って話しかける。

「何だお前」

野郎のうちの一人、長髪美少年キャラが鬱陶しそうに舌打ちした。

「うぜぇな」

闇キャラっぽいのが眉間に皺をよせ

「正義の味方気取りかぁ? だせぇ」

男の娘キャラが小馬鹿にしたよう鼻で笑う。

「さっさとあっち行け、俺らはコイツ等とはなしてんだよ」

長髪美少年キャラが威圧するように凄む。


気がつくと男女ペアがカザオリの隣りに移動していた。

「いきなり初心者ウェルカム特典寄こせとか、横暴じゃないか」

「初心者狩りでしょ、あなたたち」

カザオリの存在に勇気を得たのか、抗議する男女。

「ビギナー狩りとか、だせぇのはどっちだよ」

野郎達の物言いに不快感を感じ、カザオリもついつい喧嘩腰になってしまった。


「レベル42程度で調子に乗ってるよコイツ」

男の娘キャラが着けている片眼鏡(モノクル)はスカウターになっているのだろう。彼はカザオリを値踏みしながらニヤニヤと笑った。人を小馬鹿にした嫌な笑いだ。

長髪美少年キャラが胸を反らし、顎を上げてこちらを見下し、闇キャラは武器をチラつかせてこちらを牽制してきた。


素材クエストでのPK(プレイヤ-キル)は禁止されていない。

自分に向けられた悪意による恐怖と湧き上がる怒り、カザオリは脚を踏ん張って睨み返した。背後では、怯える女を男が庇い、同じように野郎たちを睨み見つけてる。


周りがざわついてきた。

いつの間にか野次馬ギャラリーが出来上がっていて、事の成り行きを面白そうに、遠巻きにして眺めていた。

「なあみんな、こいつ等ビギナー狩りみたいなんだけどさ、許しちゃっていいと思う?」

カザオリは先手必勝とばかりに大声で叫んだ。

こういう時はオーディエンスを味方につけた方が勝ちだ。

個々としては小さなノイズでも、それが寄せ集まって(スイミー)状態になると、それは岩をも砕く超音波になる。


正義感に燃えた目が一斉に野郎達に向けられた。

そしてあちこちからヒソヒソ話が巻き起こる。

野郎3人組を弾劾するように。


さっきまでのニヤケ面はどこえやら、正義感に燃えた群衆の圧に気圧された野郎3人組は、舌打ちをすると足早にブロードウェイに向かって去っていった。



群衆の中のイキった何組かは野郎3人組の後を追い、その他の人々は波が引くように自然とバラけていった。何事もなかったかのような中野駅前。なんとも呆気ないまくぎれだ。


「ありがとうございます」

男女コンビの女キャラが、頭をさげながら嬉しそうに礼をのべる。

「兄ちゃん助かったよ」

男キャラが元気いっぱいに親指を立てた。

「に、兄ちゃん?」

成人男子アバターに兄ちゃん呼ばわりされて戸惑うカザオリ。

少し会話を交わしてみると、どうやら中の人はリアルキッズっぽい。

戸惑いつつも心配になって、結局、クエストを一緒にこなすことになった。


二人は二卵性の双子の姉弟で、名前はミレイ〈土属性〉とショウ〈火属性〉と言い、サイキックレベルはまだ1段階目のままだった。それぞれウェルカム特典の魔導士装備と剣士装備を身にまとっていて、そんな初心者丸出しの格好で、他のプレイヤーと関わることになる素材クエストに挑むなんて危ないなと思うカザオリだった。


「え、今日始めたばかりなの?」

驚くカザオリ、

「はい、二人でまずは初心者用クエスト行こうっていってたんですけど・・・」

「そんなのまどろっこしいよ、男ならいきなりガツンといかなきゃ」

「でもなぁ、さっきみたいなのが居るから、まずはある程度強くなっといた方がいいんだよなぁ」

「ほら、カザオリさんもそういってるじゃない」

「姉ちゃんウザイ。さっきまで泣きそうだった癖に」

「もうゥ、ショウったら」

自分たちにもこんな時期があったなと、姉弟喧嘩を微笑ましく眺めながら、カザオリ達は中野サンモール商店街へと足を踏み入れた。


まずは戦闘経験を積んだ方がいい。そう判断したカザオリ。


駅からブロードウェイの間に在る中野サンモール商店街をのぼってゆく。建物の造りが意外と古風で、2階部分には昭和の名残がチラホラみられた。昭和初期を思わせる煉瓦造りの窓のいくつかに人影が揺らめいて……


窓ガラスを割って敵が襲い掛かってきた。

それは棍棒を振りかぶったコボルトで、カザオリは着地地点の大地をサイキックで割った。足場を無くしてバランスを崩し、横転するコボルト。すかさず割った大地で出来た岩礫をぶつけて敵を倒す。

双子は今の出来事をポカーンと眺めていた。


土属性のサイキックは、直接攻撃よりもトラップとして利用した方が威力を発揮する。ビル火災救出劇の時に壁や柱を修復・破壊していて思いついた土サイキックの利用法だ。


「さあミレイ、こんな感じでやってみて」

「え?! 出来るかな」

「余裕余裕、落ち着いてやれば大丈夫だから」


色々とレクチャーしている間に3分経って、破壊された床が元に戻ってコボルトが蘇った。

再び窓ガラスを割って襲い掛かってくるコボルト。

ミレイがカザオリの行動を真似る。しかしレベルが低いためにコボルトを倒すには至らなかった。すかさずショウが火のサイキックと斬撃でもってとどめを刺した。見事なコンビネーションプレイだ。

褒めるカザオリと嬉しそうな双子。

何回か同じことを繰り返して経験を積んでから先に進む。出てくる敵を確実に倒しながら一歩ずつ歩みを進め、やがてブロードウェイ入り口に到着た。


ブロードウェイ内部は外壁部分に窓ガラスが無いために圧迫感が凄い。ダンジョン感とでもいうのだろうか、天井が低いこともダンジョン感を増し増ししていた。


立ち塞がる敵たちを丁寧に倒しながら進む。初めはおっかなびっくりだった双子たちも次第に慣れ、コツを掴んで戦い方をモノにしていった。


「へっへーやったぜ。何でも気やがれ」

オークを火粉波斬で倒し得意気のショウ。

「コラ! 調子に乗んないの、カザオリさんのお陰でしょ」

ミレイが弟をたしなめる。

「そんなのわかってらい。兄ちゃんありがとな」

「いいってことよ。それより本番はこれからだからな、気をぬかずいくぞ」

「オー!!」

双子が元気よく返事をし、キラキラと羨望の眼差しでカザオリを見る。なんだかこそばゆい。カザオリの心に嬉しさがこみ上げ、テンションも上がった。そして、なんとかしてこの子たちをクリアさせてあげたいなと思った。



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