04:<VR>風の幻獣シルフ討伐クエスト
あれから1週間たった。
まさに怒涛の1週間だった。父親にはこっぴどくしかられ、学校では噂好きの生徒たちに質問責めにされたが、適度にフィクションを混ぜて誤魔化した。
姉の態度が柔らかくなったのが意外だった。前は顔を合わせれば剣呑な雰囲気を出してきたのに。
念のために超能力のことはしっかりと口止めした昂一。人外の力を持ったことを他人に知られるのがなんだか怖くなってしまって。
興味本位で見たハゲが校長を務める超能力集団物の映画のせいかもしれない。
あの時現場にいた人たちのことはこの際しょうがないと割り切る。
下手に口止めしようとしたら騒ぎが大きくなりそうな気がしたからだ。バレたらバレただ、そう思うことにした。
一週間ぶりに『神々の黄昏戦記』にダイブする。
中途半端な状態で無力感に苛まれるのはもうたくさんだ、そんな思いから出来るだけ早く超能力を全て修得してしまおうと心に誓う昂一。
今回も隠密忍者"児雷也"装備で外に出ると、転送施設から風の幻獣シルフ討伐クエストに跳んだ。
シルフ討伐クエストは、いきなり全長50mの戦闘機の上からステージが始まる。あらかじめ攻略サイトで予備知識を入れていても、実際に体験すると何気に脚が震える。何せここは地上3万m、成層圏なのだから。
メタリックな青空を飛行する全長3Kmの超巨大ジャンボジェット。それを護衛するように、50m級の戦闘機が7機飛んでいる。この戦闘機の上を移動しながら、超巨大ジャンボジェットに乗り込まなくてはならない。
上を見れば手が届きそうな距離に暗黒の宇宙、眼下には雲の絨毯がF1並みのスピードで流れていた。
落ちたら死ぬ、いくらバーチャルだからってリアル過ぎてショック死する。カザオリの背中に冷たい汗がつたう。
モンスターの鳴き声に我に返ると、ジェット推進を埋め込んだサイボーグガーゴイルが襲い掛かってくるところだった。あだ名は002、厄介な相手だ。
敵がマシンガン化した左手をこちらに向けると同時に、カザオリは光学迷彩を発動した。目標を見失って敵がまごついている間に、背後にまわってジェット推進を破壊する。そしてバランスを崩した隙に戦闘機の外へ蹴り飛ばした。
空を飛ぶ手段を失ったサイボーグガーゴイルは、そのまま高度3万mから地表に向かって落下していく。
「いっちょ上がり!!」
チェーンコンボが極まって思わず笑みがこぼれた。
時速120kmのダッシュジャンプ。
閃光が駆け抜ける。
光学迷彩の弱点は時速60km以上で動くと、光学迷彩が勝手に解除されてしまうところで、結果的にカザオリは残像を残しながら敵を蹴散らし、次々と戦闘機の上を移動してゆくこととなった。
なんとか超巨大ジャンボジェットの船尾に到着すると船内に潜入した。全長3Kmの超巨大ジャンボジェット。両翼に原子力発電所を搭載し、それをエネルギーとして永久的に飛び続ける空の要塞。
原子力発電所を破壊してしまうと墜落してゲームオーバーになってしまうため、気を付けなければならない。カザオリは船頭の指令室にいる幻獣シルフ目指して行動を開始した。
まるでカプセルホテルの寝室の様な、もうちょっといい風に言えば九龍城内の様な建物の街並みを抜けて船頭を目指す。物陰から回転式拳銃で狙い撃ちしてくる蜥蜴人間が地味に厄介で、サイキック:石壁で防ぎながら進む。空間が狭くて機動力をうまいこと生かせないのが辛い。
なんちゃって九龍城を抜け、防犯レーザーが張り巡らされた通路を抜けると広い空間に出た。宇宙開発用重機に憑依した中ボス、ジンの登場だ。ぱっと見の印象はガンタンクで、無機質なモノアイが赤く輝いた。
ここをスルーしてシルフの下へ向かうことも可能なのだが、ジンを倒しておかないと30分後に原子力発電所が破壊されて超巨大ジャンボジェットが墜落してしまうので、ボス戦をじっくりとやりたい場合はキッチリとジンを倒しておかなければならない。
ジンが巨大アームを大きく開き、襲いかかってきた。慌てて横っ飛びにかわすと、元居た場所が抉れ、床の破片が飛び散る。
「問答無用ってか」
キャタピラの軋る音が響く。素早く繰り出される巨大アームとドリルの波状攻撃を火炎剣で捌きながら、隙を見てキャタピラに攻撃を加え続けて破壊する。バランスを崩して横に倒れたところを超必殺技:超弾動・双炎斬でとどめをさした。HPゲージがゼロになって敵が完全に消滅したことを確認してから、先に向かって歩き出す。
事前に攻略サイトで確認した情報では、後はこの先にある長い長い一本道の桟橋を抜ければボスの下へたどり着けるはずだ。
ただし、逃げ場のない一本道でサイボーグガーゴイルの大群、そしてボス部屋前に陣取るオリハルコンで造られた人造生命体デーモンシグマと戦わなければならないのだが。
桟橋に出たカザオリは、手すりに紐を括りつけると100m下にあるもう一つの一本道に降り立つ。
攻略サイト情報では、こっちの通路を使えば敵は出現しないらしい。突き当りまで一気に駆け抜ける。左右を見ると両方に扉があった。さてどっちだ?
正解はそのまま直進である。実は目の前の壁はホログラフになっていて、通路はまだ先まで続いていた。
突き当りにあるエレベーターシャフトに乗り込み上に登ってゆく。いよいよボス戦だ。
学校のプールくらいの大きさの部屋の真ん中、髪の毛の代わりに電気ケーブルを頭にいくつもブッ刺したヤジロベエが鎮座していた。カザオリが室内に足を踏み入れると、精気を失っていた眼孔に光が点る。
ジャイロバランサーの起動音とともに鋼風鬼:又三郎が起動した。
敵の先制攻撃!
いきなり6万ボルトの火花を散らす電気ケーブルを振り回した。それは唸りを上げてカザオリに襲いかかる。俊敏な動きで右にジャンプしてかわすカザオリ。だが、待ってましたとばかりにそこへ他のケーブルが唸りをあげた。横っ腹をしたたかに打ちつけられたカザオリは、吹っ飛ばされて転倒した。
その隙に貯水タンクを破壊する又三郎。床が水浸しになる。
「やっばいッ!!」
カザオリが跳び上がるのと、又三郎が床に6万ボルトの電気を走らせるのはほぼ同時だった。間一髪、からくも電撃攻撃を回避することに成功した。
「あっぶね」
アンカーワイヤーを天井にブッ刺して空中に逃げたカザオリは、眼下に広がる目も眩むようなエレクトリックパレードに胆を冷やした。
息つく暇もなく襲い掛かってくる電気ケーブルの群れ。それはメデューサの蛇の様にオドロオドロしい動きでカザオリを絡めとり、感電させようとする。
カザオリはサイキック:石壁で眩いスパークを放つ電撃をかわしながら、宙を舞い、電気ケーブルをかいくぐりながら又三郎に肉薄した。
ヤジロベエ型をした又三郎が回転した。左右の先端に取り付けられた鉄球が唸りを上げる。そして回転による遠心力で勢いの乗った鉄球が真っ向から襲いかかってきた。
カザオリは右手に持った忍刀:光龍丸でそれを弾きながら、稲妻の如き速さでもって左手で黒龍丸を抜き放つとジャイロバランサーを破壊した。バランスを維持できなくなり、床に倒れ伏す又三郎。
そのまま自らの電撃で感電し、鳩尾の核が砕けた。
左上にボス敵のHPゲージが出現した。
いよいよ本体、『風の幻獣シルフ』の登場だ。
鋼風鬼:又三郎が爆発し、その爆炎が渦を巻いて何やら形を成してゆく。
やがて全長150cm、全身を白銀に煌めかせた六枚翼の鳩[ガウォーク形態]が姿を現す。
風の幻獣、シルフだ。
「いざ、参る!!」
ちょっと時代劇がかったセリフを発すると、カザオリは火炎手裏剣を左右時間差で放つ。それは狙いたがわずスーッとシルフのどてっ腹に吸い込まれて・・・行きはしなかった。
火炎手裏剣はシルフが発した、まばゆい光輪に絡め取られると、そっくりそのまま投げ返された。
キンッ! キンッ! キンッ!
あわてて光龍丸で火炎手裏剣を弾くと、後ろに跳んで距離をとる。
スパイダーマッ・ポーズをとりながら、忍刀:光龍丸を水平に構えた。
くちばしを開けてソニックウェーブを放つシルフ、耳障りな超音波と共に粉々に崩落する床。
上空に跳び上がったカザオリは、背面宇宙返りしながら刀身に炎を纏わせた。火炎剣。
そして・・・
時速120km、一筋の閃光が垂直にシルフを貫いた。
シルフのHPが一気に3分の2減る。あと一息。
カザオリはたたみかける様に、必殺技『岩鉄砕』を放った。
床が砕け、その破片が礫となって真上に居るシルフ目掛けて襲いかかる。シルフのHPが一気にゼロになった。
討伐成功、シルフは断末魔をあげながら光の粒子となり、カザオリの中に吸収されていった。風属性のサイキック入手成功だ。
勝利のファンファーレを聞きながら目を瞑るカザオリ。やがてその姿は光りに包まれていった。
【ABILITY】
幻獣サラマンダー||〈火〉〈炎〉〈紅蓮〉[MASTER]
幻獣ノーム ||〈土〉〈岩〉
幻獣シルフ ||〈風〉
転送施設から外に出て噴水広場の石垣に腰かけるカザオリ。アビリティ欄を確認してため息をついた。てっきりノーム因子がレベルアップすると思っていたのにそのままで、面食らう。
きっとサラマンダーは初期選択ボーナスで経験値が多く入るようになっているのだろうな。そう思った。
純粋に、サイキックのレベルアップの為に再び島崎トラップに挑む。
八つ当たり気味に、出てきたゴブリン共を蹴散らした結果
【ABILITY】
幻獣サラマンダー||〈火〉〈炎〉〈紅蓮〉[MASTER]
幻獣ノーム ||〈土〉〈岩〉
幻獣シルフ ||〈風〉〈嵐〉
シルフ因子が1段階レベルアップした。
現在のレベル42。