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02:<VR>土の幻獣ノーム討伐クエスト


 ギラつくネオンが巨大な地下空間を照らし出し、閉鎖空間特有の陰鬱さを吹き飛ばす。にぎやかな街並みが広がる地下都市の路上にカザオリは降り立った。


 それに気がついた魔物が3体、低身長でおでこと歯が飛び出した魔物ゴンジがハンマーを振り回しながら襲い掛かってきた。


 カザオリは素早く忍刀:光龍丸を抜き放つと電光石火、瞬く間に1体を斬り伏せる。

 悲鳴を上げて消滅するゴンジA。他の2体が歯を剥き出しにして怒号と威嚇の雄叫びを上げた。忍刀を眼前にかざす。


 忍刀は通常の長剣ブロードソードと比べて刀身が少し短い七分丈の刀だ。その分リーチは短くなるが、その代わりに素早い連撃が可能になる。


 刀身に火をまとわせてファイヤーソードにした瞬間、ゴンジがハンマーを振り上げて2体同時に襲い掛かってきた。

 カザオリは俊敏な動きで間合いを詰めると、唸るハンマーをかいくぐって下から斜めに斬り上げた。体を捻り、返す刀でもう1体も袈裟斬りに一刀両断する。

 それはまさに一陣の疾風だった。


「さすが児雷也。体がメッチャ軽いや」

 久しぶりに身に着けた隠密忍者"児雷也"の感触を反芻する。これならノーム攻略も楽々いけそうだ。

 自信を深めたカザオリは額のバイザーを下ろして両目を覆うと、光学迷彩を発動した。姿を消し、一気に幻獣ノーム目指して突っ走る。



 虚飾に彩られた歓楽街を疾駆するカザオリ。東南アジアの雑多でカオスで不潔な夜の街の雰囲気を模して作られた魔物たちの街を。


 たどり着いた先は東京ドーム10個程もある巨大な廃工場で、砲台やトラップを処理しながら鋼鉄の迷宮を最深部へと進んでゆく。一度攻略済みクエストの為、罠や敵の配置も分かっており余裕をもって対処してゆくカザオリ。


 姿を消したままメタルコボルトの集団をやり過ごして、排気口から格納庫へと滑り込んだ。いよいよボス戦だ。

 


 ハンガーに固定された全長21mの巨人、鉄甲鬼デビルマンソン。カザオリは空中に大きくジャンプすると、額のコアめがけて忍刀を突き立てた。彼のカラダが弾丸の様にコア目掛けて突っ込む。

 その距離あと3m。


(もらった!!)


 そう思った瞬間、辺りが帯電して磁気嵐が巻き起こり、光学迷彩が破られた。

 鉄甲鬼デビルマンソンの瞳に命が宿る。凶悪な真っ赤な眼がカザオリを見据えた。

(ヤバイっ!)

 そう思った時には鉄甲鬼デビルマンソンの口から放たれた超音波砲デスボイスが、カザオリを吹っ飛ばしていた。

 体を回転させて超音波砲デスボイスから逃れると、クレーンの一つに着地する。

 やはりボス戦、一筋縄ではいかないようだ。


 間髪入れずに繰り出される鉄甲鬼デビルマンソンの鉄拳。

 カザオリがダッシュジャンプすると同時にクレーンがひしゃげ、吹っ飛んだ。ドミノの様に倒れてゆくクレーンたち。鋼鉄同士がぶつかり合う大音響をBGMにして、カザオリは壁を疾走しながら鉄甲鬼デビルマンソンに近づいた。


 放たれるミサイルと鉄拳の波状攻撃。

 が、図体が巨大ゆえにその動きは緩慢で、カザオリはミサイルをかいくぐりながら繰り出された鉄拳の上に着地すると、そのまま額のコアめがけて疾駆した。


 鉄甲鬼デビルマンソンの瞳がカザオリを捉えてバルカン砲を掃射し始めた時には、彼は既に頭頂部に到達し、両手を上げて頭上のカザオリを押し潰そうとした鉄甲鬼デビルマンソンの額のコアを刺し貫いていた。


 鉄甲鬼デビルマンソンが断末魔の叫びをあげ、全身から火花を散らす。


 いよいよ本体登場だ。


 敵のHPゲージが出現すると同時に、鉄甲鬼デビルマンソンの左胸部が開いて幻獣ノームが飛び出してきた。パンダがサンタのコスプレをしたような愛らしい外見とは裏腹に、何気に凶悪な幻獣ノーム。


 すかさず炎弾を放つカザオリ。が、ノームが古木の槌を振るうと土壁が現れて、炎弾は全て防がれてしまった。ノームはニヤリと嗤うと磁力バリアを張った。


 初見殺しの磁力バリア。鉄製の装備を身に着けていると、格段に動きが鈍くなってしまう技だ。が、忍び装束のカザオリには全く効果がなかった。オリハルコンで出来た忍刀、光龍丸と黒龍丸も影響を受けることはなかった。


 ノームが放つ岩礫弾攻撃を右へ左へかわしながらノームに近づくと、颯、颯、颯と連撃を繰り出す。

 ノームはダメージを受けながらも岩礫をパチンコ玉大に小さくするとマシンガンのように掃射。よけきれずに吹っ飛ぶカザオリ。HPが3分の1削られた。


 一進一退の攻防を繰り返す。


 突如ファンファーレが鳴り響き、サラマンダー因子がランクアップして火のサイキックパワーが『火』から『炎』になった。ここぞとばかりに炎攻撃を繰り出すカザオリ。ノームは槌を器用に操ってそれを(さば)く。


(ノームってこんなに強かったっけ)

 カザオリの心に焦りの気持ちが巻き起こる。そして前回は臨時パーティーを組んで7人がかりで倒したことを思い出して、思わず舌打ちした。


 殺気!!

 意識より先に体が動く。気がつくと、カザオリが立っていた大地がごっそりと(えぐ)れていて、ノームが鉄甲鬼デビルマンソンの破片を使って電磁砲レールガンをうち始めたようだ。HPが残り25%になると始まる電磁砲レールガン攻撃。

 あと少し!!


 疾風かぜが舞う。

 時速7240キロで発射される鉄片を縦横無尽にかわすさまは正に疾風だった。

 電磁砲レールガンをかわしながら敵に肉薄すると、カザオリは左手に忍刀:黒龍丸を抜き放った。二刀に炎を纏わせ、必殺技『双炎斬』を放つ。二つの炎が旋風となって敵を切り裂く。上空に吹っ飛ぶノーム。


 ここぞとばかりに一気呵成にたたみかける。

右に左に前に後に上に下に縦横無尽に駆け巡り斬撃の波状攻撃を繰り出しノームを刻んでゆく。敵のHPがゴリゴリ減ってゆき、遂に、討伐に成功した。


 勝利のファンファーレが鳴り響く中、光の粒子となった幻獣ノームがカザオリの中に吸収され、彼は土属性のサイキックの取得に成功した。

 大きく息を吐いて勝利の余韻に浸るカザオリの姿が、光りに包まれて消えた。


 ミッション:コンプリート!!



 転送施設から外に出たカザオリは、目の前の噴水広場にある石垣に腰かけるとステータス画面を開いて、アビリティ欄をタップした。


【ABILITY】

幻獣サラマンダー||〈火〉〈炎〉

幻獣ノーム   ||〈土〉


 確かに土のサイキックを習得している。試しに掌を上に向けて理力を込めたら、石の塊が出現した。思わず顔がほころぶ。

 と、聞きなれた声が風に乗って微かに聞こえてきた。


「1時間8000円、1時間8000円・・・」

「そう言えば、島崎トラップってここからすぐそこにあったっけ」

 独り言をつぶやき、そして沈黙。 少ししてから再び独り言をつぶやき始めた。

「どうせならノームのサイキックパワーも〈岩〉まで上げときたいよな。でも、都庁行ってもLV1~3の雑魚敵しか出ないしな。時間かかるな。そこいくと島崎トラップのゴブリンはLv30が16体出てくるって話だし、経験値効率いいよな」


 彼はいったい、誰に言い訳しているのだらうか?


 他意はない、あくまで経験値稼ぎだ。まあ、仮にもしムフフイベントが発生したらそれはそれでしょうがないじゃないか、と自分に言い聞かせて、カザオリは島崎が呼び込みをしている風俗店へと足を踏み入れていった。

「でも俺、ラスボス戦で魔王が冥王になるっていうレアイベント引き起こしちゃったしな。運は持ってる方なんだよな」

 などとぶつぶつ言いながら・・・



 結論から言おう。出てきたのはゴブリンだった。

 緑の皮膚、耳まで裂けた口、どこをどう見ても、まごうことなきゴブリンだった。パンフレットを持ってきたボーイの皮膚が割れゴブリンへと姿を変える。それを合図に個室の扉が開いて、ゴブリンたちがワラワラと姿を現した。


 個室への通路は狭い為、そこでなら1対1で戦えるが、待合室で戦う場合は1対多数になってしまう。

 カザオリはサイキック『自然発火』でボーイゴブリンを燃やして怯ませると、忍刀でとどめを刺す。そのまま素早く通路に移動して残りのゴブリンを迎え撃った。


 こういう展開になって正解なのだが、心のどこかでガッカリ感がハンパなかった。八つ当たり的にゴブリンを始末していく。丁寧に丁寧に袈裟斬りに、撫で斬りにして。


 ゴブリンは、装備やアイテムドーピングでレベル60相当になっているカザオリの敵ではなかった。あっという間に16体倒しきる。


 いつの間にかノーム因子がランクアップしてサイキックパワーが『土』から『岩』になっていた。当初の予定は果たされた様だ。


 と、階段をゆっくりと降りてくる足音。それは呼び込みの島崎で、彼の皮膚がみるみる腐食してただれ落ちると、その姿をゴブリンロードに変えた。


 先程のゴブリン達とは違う気迫に気合を入れなおし、忍刀を正眼に構える。よだれしたたる奥歯を剥き出しにして、こちらを威嚇してくるゴブリンロード。こいつは火に耐性があるために自然発火が効かない。 


 カザオリは間合いをとりながら岩礫をぶつけるが、そのことごとくを戦斧ではじかれた。次の戦略をどうしようか気を取られた隙に、戦斧から繰り出された衝撃波が観葉植物を真っ二つにし、その勢いのままカザオリを襲う。


 忍刀で受けるが、その重厚な威力に耐えきれず後ろに吹っ飛ばされ、もんどりうって倒れるカザオリ。

 ゴブリンロードが会心の笑みを浮かべ、戦斧を振り上げ襲いかかってきた。


 慌てて石壁を作るカザオリ。ゴブリンロードがそれをたたき割り、そのままカザオリが横たわる地面に戦斧を叩きつけた。唸りを上げていかにも凄まじい勢いだ。

 その威力に床が割れ、コンクリートが飛び散った。


 会心の笑みが怪訝な表情に変わる。

 カザオリの姿が見当たらず、キョロキョロと辺りを見回すゴブリンロード。

 カザオリは石壁で姿を遮った隙に光学迷彩を発動させて姿を消していた。

 そうとは知らないゴブリンロードは、突然姿を消したカザオリに驚き戸惑い、地団駄ふんで苛立ちを露わにした。


 戦斧を力任せに振り回して、近くにある物を片っ端から粉砕し始めるゴブリンロード。しかしその刃がカザオリに届くことはなかった。増々発狂するゴブリンロード。

 と、その喉から突如剣先が生えたかと思った瞬間に、その頭を真っ二つに切り裂いた。


 断末魔を上げながら消滅するゴブリンロード。その跡にはブタの鼻を模したアイテムが出現した。運よくアイテムがドロップしたらしい。


 辺りにファンファーレが鳴り響き、サラマンダー因子がランクアップした。


【ABILITY】

幻獣サラマンダー||〈火〉〈炎〉〈紅蓮〉[MASTER]

幻獣ノーム   ||〈土〉〈岩〉


 EXPダブラーのお陰で、かなりのハイペースでアビリティのランクが上がっている。ついでにレベルの方も確認したらLV36になっていた。いい調子だ。ニンマリ顔のカザオリ。


 光学迷彩を解除して姿を現したカザオリが、そのアイテムを回収する。そしてアイテム欄でその効果を確認した。


・アイテム『ヘイト』

 敵味方関係なく、周りから憎悪を集めるアイテム。


 と解説されていた。

 いまいち使いどころが難しいアイテムである。


「今日はここまでかな」 

 ホッと一息ついたところでドッと疲労感が襲ってきて、カザオリは駅に戻ってセーブすると、ログアウトしてその日の冒険を終えた。



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