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01:<VR>ReSTART

 泥の中をもがくような感覚、上手く動けないもどかしさ、バラバラだった意識が再構築されてゆく。

 この感覚、懐かしい。


―――汝、エレメントの輝きを示せ


(本当に最初の最初からなんだな・・・)

 昂一は妙に感動した。

 初めてヘッドギアをして、グローブと心臓の鼓動を計測するプロテクターを装着し、ドキドキしながらこのゲームにダイブインした時の事を思い出す。あの時は、まさか自分がここまでこのゲームにハマるとは思いもしなかった。


 『神々の黄昏戦記』に最初にログインすると、まずはサイキックパワーの属性を決める。

 初期属性は4つ

・サラマンダー<火>

・ウンディーネ<水>

・シルフ<風>

・ノーム<土>

 4体の幻獣の中から1体を選び、その因子を取り込むことによってサイキックが使えるようになる設定だ。


 前回は風属性でスタートした。

(あいつら、今度はどなん風にするのかな)

 カザオリは"ヴァルキリーの翼"の仲間達が今度は何を選ぶかに思いを巡らせた。

「ドラクルはスナイパーとか言ってたし、風属性選びそうだよな。

ファングはまたガンマンだろうからこれまた風属性か・・・

ヒリュウは頭脳戦専門だから、防御主体の土属性っぽいし。

ムラサメはどっからスタートしても、結局4属性全部修得しちゃうんだろうな。そういえば上位属性も制覇したいっていってたから深く考えなくていいか」

 独り言を言いながら考えをまとめてゆく。

 結局、なんかカッコよさそうなので今回は火属性からスタートした。近接戦闘用のスキルが多いのも彼の決断の後押しをした。これでパーティーのバランスがとれるはず。


 辺りが光りに包まれ、やがてぼんやりとした色の混濁がしっかりとした風景へと形を成していく。いよいよゲームスタートだ。

 アバターのメイキングがスキップされたということは、今まで使ってた"カザオリ"でRe:STARTということなのだろうと昂一は思った。


 カザオリは新宿駅構内に降り立った。


 火属性を選択すると、最初は新宿駅からスタートすることになる。駅構内は一種の中立地帯になっており、敵は襲ってこない。RPGでいう街みたいなものだ。


 ワイワイガヤガヤと賑わう構内を抜けて喫茶店に入るとステータス画面を開いた。そこで驚愕するカザオリ。

「うそだろ!」

 仲間達と連絡とろうとフレンドリストを開いたら、見事にフレンドゼロになっていて目の前が真っ暗になる。あの時システムは初期状態に戻ると言っていた。それは装備やアビリティのことで、まさかフレンド登録までリセットされるなんて、カザオリは己の迂闊さを呪った。

「こんなことなら、早めにリアルの連絡先交換しておくべきだったな」

 仲間達との連絡手段を完全にロストしてしまったカザオリ。ラスボス倒したらオフ会やろう、と盛り上がってたことを思い出して歯噛みする。

 ネットで仲良くなってリアルの連絡先交換した途端に犯罪に巻き込まれて・・・そんなニュースが多くて彼らとリアルで友達になる事を躊躇ったことを後悔した。


 レベル1の貧弱な自分のステータスをみながら大きくため息をつくカザオリ。そこでふと、ひょっとして誰か火属性選んで、今、駅構内を彷徨ってるかも何て考えが頭に浮かんで、慌てて駅構内の探索を開始した。


 が、それっぽいキャラが見当たらない。みんな火属性以外を選んでしまったようだ。

「どうする」

 そう言いながら窓ガラスに写る自分の姿を見て絶句する。

 なんとそこには、アバター"カザオリ"ではなくて、天宮昂一の姿が写っていた。自分の姿をマジマジと見つめ、慌ててステータス画面を開く、名前はカザオリのままだ。そして、ステータス画面を開けたということはここはゲームの世界で間違いない。

 視界に映るファンタジーな格好やサイバーパンクな衣装に身を包んだキャラを見て安堵。新宿駅の造りがリアル過ぎて、一瞬どっちかわからなくなってしまうのもバーチャルあるあるか。

 それにしてもなぜアバターではなくてリアルな自分の姿になっているのだろうか、

「ひょっとして『リアル』ってそういうこと?」

 あの時のシステムの声を思い出す。

「『リアル』は現実世界でアビリティを使用することが出来るようになります。」

 システムはそう言っていたが・・・カザオリは急いでログアウトした。


 気がつくとVR装備をした自分がベットに横たわっていて、無事ログアウトできたようで、どうやらゲームの世界に閉じ込められた、とかは無さそうだった。


 昂一はグローブを外すと、いつもゲーム内でサイキックを使う要領で掌に意識を集中してみる。


 ボッ!!


「マジか」

 本当に火が出た。

 あまりにも驚きすぎて、逆に冷静にその火を見つめる昂一。

 その火を眺めていたら、どちらかというと出来て当たり前、そんな感情の方が次第に強くなっていって、昂一は案外すんなりとサイキッカーになった自分を受け入れた。


 火のアビリティは『火』『炎』『紅蓮』と三段階に進化するのだが、ゲームスタートしたばかりの昂一はまだ『火』しか使えない。

「待って、てことはゲーム内でアビリティを進化させてけばもっと凄いサイキックが使えるってことかい?」

 自分を納得させるように独り言をつぶやく。

 昂一は思わずニヤリと顔をほころばせると、再び『神々の黄昏戦記』の中へとダイブした。


 取りあえずレベルとアビリティを上げて装備を整えよう。

 自分の姿がリアルと同じものになっているということは、仲間達の姿もきっと同じに違いない。リアルの姿を知らない以上、どう探していいか分からないカザオリは、クエストでばったり出くわすことを期待して、今はアビリティ上げに専念することにした。

 正直、再会した時に仲間のお荷物にはなりたくない。



 とりあえずレベル上げしてステータスを上げようと駅の出入り口に向かったところで、預り所が目に入った。

「いや、さすがに無いだろ。初期状態に戻されてるわけだしさ」

 そうはいいながら、ひょっとして、まさかのまさか、一縷の望みをかけて、そんな感情に突き動かされてカザオリは預かり所カプセルの中に入った。

 青白い空間にスキャナーの光みたいな走査光線がカザオリの頭からつま先までをスキャンするとIDを認識し、預かりBOXが開く。するとそこには・・・


「・・・あった」


 ラストダンジョン攻略前に装備を整える時に使った後の状態のまま、アイテムが残っていた。まさか本当にあるなんて思っていなかったので面食らうカザオリ。


『今持っている装備やアビリティーははく奪され、ステータスは初期状態に戻されます。』


 天の声のセリフを思い出す。『【今】装備している・・・』、つまりは預けてあったものはその限りではない、ということらしい。

ラストダンジョンで使ったSSS装備とまではいかないが、それでもS級装備は残っていたので、これでゲームRe:STARTにかなりブーストがかけられるはずだ。カザオリは何だか嬉しくなって、テンションが上がった。 


 まずは戦略を立て直す。最初はパーティー組んで皆でゲーム進めていくこと前提で考えていた。しかしこれからしばらくは、仲間を探しながらソロプレイをしていかなくてはならない。


 近接戦闘用に火属性強化はいいとして、後は空を飛ぶために風と土属性を習得しマスターしたい。空を飛ぶためのアビリティ『重』は上級属性の一つ"幻魔クロノス"が所持しているからだ。

 幻魔クロノス討伐クエストを解放させるには土と風を習得し三段階進化させて属性修得マスターにしなければいけなかった。

 果てしなきロードマップ。が、カザオリの心は軽い、なぜなら今まで苦労して集めてきた装備やアイテムのお陰でかなりドーピング出来るからだった。


 そんな様なことをつらつら考えながら装備を物色していて、はたと気づく。脳裏に浮かぶのは、先ほど現実世界で使った掌で揺らめく炎。

 てことは、アビリティ『重』を修得したら現実世界でも空が飛べるようになるってことじゃないか。ゾワゾワしたものが全身を駆け抜けた。それは武者震いに変わり、その瞬間を想像しただけでワクワクが止まらない。俄然やる気が出てきた。


「ベルゼルガ・シールド、欲しいよな」

 空が飛べるようになったら、やはり使い慣れたあれが欲しい。

 気流に乗って空中をサーフィンして、敵に突っ込みトドメのパイルバンカー!! 

 あの爽快感は一度覚えたら癖になる。一種の麻薬だった。素材集めにかなり苦労したが、やっぱり欲しい。欲しいものは止められない。もう一度作ろう。


 方針は決まった!


 ソロプレイ用に装備の組み合わせをあれこれ考えて、最終的には忍びセットの一つである隠密忍者"児雷也"を選んだ。

 このゲームの装備は『兜<理力>』『鎧<防御力>』『小手<器用さ>』『脚靴<俊敏さ>』そしてアイテムスロットが2つ、〈ゲームを進めてゆくと3つになる〉である。

 そして特定の組み合わせの装備はボーナスがついた。

 有名な組み合わせとしては王道勇者セットである天空勇者"ハイランダー"、格闘技主体の重闘士"グラップラー"、拳銃使いに人気な銃拳流"リベリオン"などがある。


 カザオリが選んだ隠密忍者"児雷也"の装備ボーナスはスピードアップである。100mを3秒で走れるようになる。そしてもう一つ、光学迷彩によって透明人間になれた。これで無駄な戦闘はさけて、ボス的に不意打ち強襲が出来る。 

 アイテムスロットに『ステータスアップLv20』と『EXPダブラー』を装備する。現在のステータスに+20レベル分のステータスを上乗せするアイテムと獲得経験値を2倍にするアイテムだ。


「よし、いくぞ!」

 カザオリは気合を入れると、駅の外へ向かって歩き出した。



 このゲームはストーリークエストを進めてゆくと時代が進み、街の様子が変わってゆく。ゲームを初めからやり直したばかりのカザオリは、駅を出て2104年の新宿の街を歩きだした。ラストバトルが待つ3081年と比べたら、かなり現代に近い街並みに親近感を覚えながら。


 目指すは歌舞伎町の噴水広場の先にある転送施設。まずは土の幻獣ノームを討伐して『土』のサイキックを手に入れるためだ。推奨レベルは20だが、アイテムでドーピングしているし、攻略方法も分かっているので問題なく攻略できるだろう。


 天高くそびえるビル群を眺めながらアルタ横を下ってゆく。後80年もしたら、本当にこんな景色になっているかもな、なんて思いながら。


 ゲーム開始直後の2104年には、まだ街に魔物は出現せず、御苑エリアや都庁エリアなど魔物が出現する専用のエリアでレベル上げをする必要があるのだが、アイテムブーストしているカザオリはクエストをこなしながらついでにレベル上げもすることにした。


 映画館に近づくと、

「1時間8000円、1時間8000円」

 もみ手をしながら風俗店の呼び込みをしている、頭皮が後退して糸目の男が見えてきた。

「島崎トラップか、懐かしいな」

 思わず苦笑するカザオリ。


 通称『島崎トラップ』

 初心者が最初に陥りやすいトラップである。

島崎とネームプレートをした男の、甘いうたい文句に騙されて、スケベ心丸出しで店に入るとゴブリンの大群が待ち構えている、という罠イベントだ。

 罠だと分かっている筈なのに、千回に一回ムフフイベントが発生するという攻略サイトの掲示板に書かれた都市伝説を信じたスケベ野郎たちが、今日も懲りずにゴブリンの餌になっている。ある意味で人気のイベントラップだった。


 カザオリは、そんな島崎トラップを通り過ぎると噴水広場の先にある転送施設に入っていった。

 そして、土の幻獣ノームの因子を手に入れるため、地下都市クエストを開始した。


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