ステータスカンストサラリーマンが致死級デバフ新人の教育係になりました。
首から下げていたお守りから、乾いた音がした。
中のお札が割れたらしい。
「すみません、先輩。わたし、昔からもの凄く運が悪くって……巻き込んじゃったみたいっす」
入社一年目のわたしは、職場の先輩について外回り営業に出た。
先輩は滅茶苦茶美形で、美声で、スタイル抜群で、スーツが似合って、仕事もできる、職場のアイドル。そんな男性がわたしの教育係になると聞いて、不運続きだったわたしの人生、上向いて来たかな、と思った矢先だった。
乗った電車が、五十メートルくらいの巨大怪獣に襲われた。
巨大怪獣て。いくら何でもわたし不運過ぎん?
先頭車両が怪獣に持ち上げられ、繋がったこの車両も四十五度くらいの角度に傾いている。悲鳴と怒号に満ちる車両のなか、わたしと先輩は座席横の手すりに掴まって身体を支えていた。
「別に巻き込まれたなんて思っていませんよ。仕事にトラブルはつきものです」
先輩は腕時計を見やった。
「早めに出て正解でしたね。少し急げばアポイントには間に合うでしょう」
「せ、先輩、この状況でアポイントって……」
先輩に真正面から顔を覗き込まれてどきりとする。
「いいですか城崎さん。これから向かう取引先の方々は我々のために大事な時間を割いていただいている。状況はどうあれ、そのお約束を厳守するのは社会人として当然のことです。信頼とはそういったことの積み重ねで築いていくのです。分かりますね?」
「は、はい! でも先輩、今はお約束より自分の命すら守れるか危ういと思うっす!」
「そこは私に任せてくれて構いません。可愛い後輩一人守るぐらい、社会人として当然のことです」
「可愛い……後輩」
先輩はやおらビジネスバッグを掴み、傾斜した電車の通路を駆けると、車両連結部分をバッグで切り裂いた。持ち上がっていた車両が音を立てて水平に戻る。
さらに先輩は跳躍し、振り下ろされる怪獣の巨大な腕を踏み台にしてもう一度跳んだ。綺麗に磨かれた革靴で、目の前に迫った怪獣の顔面を蹴り飛ばす。怪獣の悲鳴が辺りを震わせた。
先輩は三点着地で電車の屋根に降り立つ。スーツのジャケットをなびかせ、ネクタイを締め直した。
電車の中から歓声が上がった。
「城崎さん、これならあと一撃で倒せそうです。電車を降りる準備をしておいてください」
ひとりで巨大な怪獣と渡り合うなんて……社会人ってスゲー……!
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
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