8.天使落第 ~(7)
「あのさ、私ってどうして子供の姿なのかな?」
その問いにジャンクは思わず引きつった。
「大人になる前に死んだってことだ・・・・・」
「え?」
「召喚したものは肉体が死んだその時の姿でそのまま天界に昇るんだ」
「じゃあ、私は子供の時、死んじゃったんだの?」
「ああ・・・・・そういうことだろうな・・・・・」
パレルはちょっとショックを受けたように俯いた。
ジャンクもパレルの顔を見ることができなかった。
「私ってどうして死んじゃったのかなあ? 病気かなあ? ジャンクは知ってるの?」
ジャンクは一瞬、言葉に詰まる。
「いや、知らねえよ。今は故人情報保護法ってのがあってな。他の人の死の理由とかについては簡単に分からないようになってるんだ」
「コジンジョーホーホゴホー? 何か早口言葉みたいだね」
どうやら個人の情報保護の波は天界まで広がっているようだ。
「私さ、現世の時のこと全然覚えてないんだ」
「みんなそうだ。現世の時のことは天界では憶えていない。逆に天界でのことは現世に生まれ変わったら全て忘れてしまうんだ」
「私達って生まれ変れるの?」
パレルは思わずびっくりする。
「知らなかったのか? 天界での成績によって現世に戻れるまでの期間が決まるんだ」
天国に召喚された人=死んだ人間は一定の時間を天国で過ごし、その後また現世に生まれ変わることができる。
これを召還と呼んでいる。
召還できるまでの期間は人によって違う。
がんばっていい成績を取ると数十年で現世に召還されることもあるし、成績が悪いと数百年以上現世に戻れない人もいる。
「そっかあ。じゃあ私、試験成績悪かったからダメだね・・・」
「そんなことはねえぞ。死神だって頑張れば、いずれ現世に召還できる」
「だったら何でジャンクは何百年死神やってんの?」
「俺はこの死神を好きでやってんだ」
「はいはい。そうだったね」
パレル皮肉いっぱいという顔で笑った。
「ほれ、次行くぞ」
「えっ、もう次行くの? 休憩とか、もぐもぐタイムとか無いの?」
「そんな暇あるわけねえだろ。一日に何人の人が亡くなってると思ってんだ? ちなみにもぐもぐタイムって何だ?」
「死神って、けっこうブラックなんだね」
「ブラックって、この服のことか?」
どうやら二百五十年という時間の溝を埋めるのは難しそうだ。
パレルはそう思いながら大きくため息をついた。