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5.天使落第 ~(4)

「うん、見える見える。このおじいさんの人生が・・・・・」

「よし、いいぞ。できるだけ楽しい思い出を捜してやれ」


「小さい時はまだ戦争中で、生活はけっこう大変だったみたいだね」


パレルの脳裏にその老人の人生が映画のように映し出されていく。


「あっ!女の人と出逢ったよ。奥さんみたい。初めてのデートかな。おじいさん緊張しまくってるけど、すっごく楽しそうだよ。これキープね」


しばらくすると、なぜかしら突然に記憶の映像がボヤけ始めた。


「ジャンク、どうしたんだろう・・・・・だめだ、映像きおくが見えなくなっちゃったよ」

「もうかなり齢がいってるから記憶が固まってるんだろう。頑張るんだパレル」


人間、歳をとると記憶は固まって塊のようになる。


人の記憶というのは決して消えることはない。

だが、使っていない記憶ほど塊のようになり、読み取りづらくなるのだ。

これが忘れるというメカニズムだ。


パレルはもう一度老人の記憶の中へと入り込み、懸命に塊となった記憶を溶かそうとする。

しかし、コチコチに固まった記憶を溶かすのは容易ではなかった。

その記憶が古ければ古いほどそれは困難で、集中力と根気が必要になる。


「あっ、見えてきた見えてきた。よかったあ!」


何とか記憶の塊を溶かすことに成功したようだ。


赤ちゃんの誕生、息子さんとのキャッチボール、家族みんなでの旅行、初孫、その老人からいろいろな思い出が流れ出てきた。


空襲、戦地での辛い戦い、戦争中の苦しい記憶もあるが、これには触らないで置こう。

パレルはこの記憶の中から楽しそうな思い出を懸命に集めて老人に見せ始めた。


「よーし、いいぞ。その調子だパレル」

「おじいさん、見えてるかなあ?」


老人の顔は優しく微笑んでいた。


『父さん。笑ってる・・・・・』


息子が嬉しそうな顔で呟いた。


老人につながれたケーブルの先にある医療機器の警報音アラームが大きく鳴り響く。


付き添っていた医師が老人の目の中を確認する。


『ご臨終です・・・』


医師は静かに囁いた。


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