13.天使落第 ~(12)
「あれ?・・・・・」
その名前はパレルの心の奥底にあった記憶の塊をゆっくりと溶かし始めた。
「ゆうな・・・・・ゆうな?・・・・・」
「この家・・・・・この庭・・・・・憶えてる・・・・・」
まるで雪溶け水が流れ出した川のように、溶かされた記憶がどんどん溢れ出てくる。
「ゆうな、私の名前だ! これ私の記憶だ!」
そう、これはパレルの前世の記憶。
この子はパレルの前世だった。
パレルの記憶が甦る。
パレルは思い出した。
パレルが誰よりも大好きだったパパとママだ。
二人が今、目の前にいる。
「パパ! ママ!」
声にはならない。
けれど心の中で叫んだ。
「パパ、ママ、私だよ! ゆうなだよ!」
パレルはパパのママに抱きつこうと二人のほうへ行こうとする。
しかし体は振り返り、なぜか反対のほうへと向かった。
「えっ、何? そっちじゃないよ」
遊んでいたボールがてんてんと外へ転がっていく。
そして、そのボールは庭から飛び出し、外の道路へと転がっていった。
映像はそのボールを追いかける。
「あっダメ! そっちへ行っちゃ!」
もちろん声なんか出ない。
でもパレルは心の中で必死に呼びかける。
『優奈っ! 止まって!』
母親が大声で叫んだ。
「ダメだってば!」
パレルは懸命に止めようとするが、その体は全く言うことを利かない。
映像はそのままボールを追いかけて道路へと飛び出した。
「あぶないっ!」
映像が転がっていたボールに追いつき、手に取った瞬間だった。
視界が大きな影に覆われた。
すぐ横を見ると、目の前の大きなトラックが獣のように襲いかかってきていた。
体は凍りついたように全く動かない。
『優奈っあああ!』
母親の悲鳴のような叫び声が響いた。
次の瞬間、その映像は真っ暗になった・・・・・。