第93話 封印
『や、やりましたか……』
「ロードス様!」
長老が叫んだ。その声にキングも思わず振り返る。そこで気がついた。動けるようになっている。
「動ける――ジャッジが倒されたからか」
「私も動ける。でもロードス様が……」
「キュッ! キュ~~~~!」
「いてて、て、おいおい何がどうなってるんだよ?」
キングとウィンが駆け出しボールもどこか慌てている様子だった。ジャッジにふっ飛ばされたハスラーも戻ってきたようだが怪訝な顔つきだ。
「うぅ、ロードス様はお前たちを救うために力を振り絞り……折角戻ったと思ったというのに」
立派な巨木に戻っていた筈のロードスの姿はとても弱々しい物に変わり果てていた。まさに今にも枯れそうな様相である。
「ロードス様、すまない。俺たちの為に」
「だ、大丈夫です! 私が回復しますから!」
申し訳無さそうにするキングの横でアドレスが叫んだ。そして治療魔法をゴルフを通じて放つが――ロードスに変化は見られなかった。
「……ロードス様は御神木。人に効果がある治療魔法も効かないのだ」
「そ、そんな……」
長老の話を聞きアドレスが肩を落とした。全員がロードスを心配していたがそれに答えるようにロードスの声が聞こえてくる。
『気に、しないでください。それに大丈夫です。大分パワーを使いましたがまだなんとか維持でき――』
「レッドカード――」
その時だった。全員の耳に聞こえてきた絶望の響き。根に飲み込まれた筈のジャッジの声が。そして――突如地面が燃え上がり舐めるようにロードスへ伝いあっという間に炎に包まれた。
「ロードス様ぁあああぁあ!」
「は、はやく消さないと! ウンディーネサーブ!」
ウィンが精霊を宿したサーブを打った。テニスボールが当たると同時に水柱が上がるが炎の勢いは止まらない。
「だ、駄目――私の力じゃ足りない」
「無駄だ。私のジャッジは覆らない。最後に見せた力には多少驚いたが私を倒せるほどではなかった。正直失望したぞ。だから最終ジャッジを下したのだ」
魔王ジャッジがいつの間にか姿を現し冷徹な表情で言い放つ。その間にもロードスに纏った火は勢いを増していた。
「くそ! 何とかならないのかよ!」
「クッ、俺の球技に何かないのか――」
キングが必至に頭を振り絞るが――
『ジャッジ――封印が一つ解かれた。よくやったな。やはりお前に行かせて正解だった』
森全体に響き渡る声。それを聞きジャッジが静かに瞑目した。
「どうやらロードスの命も尽きたようだな。封印が解けたのがその証拠だ」
「ロードス様ぁああぁあ!」
長老が悲痛に満ちた悲鳴を上げる。炎は既に消えておりロードスの姿はなかった。ウィンは絶望した顔をしアドレスは祈るように両手を組んでいる。
「……魔王ジャッジ貴様――」
キングが静かなそれでいて怒りの籠もった声を発した。圧倒的な感情の高ぶり――背中から炎が吹き上がっているかのようであった。
「その目――悪くない」
ジャッジが満足げに言い放つ。そして次の行動に移ろうとしたその時だ。
『茶番は終わりだジャッジ。お前にはまだ仕事が残っている。今すぐに戻ってきてもらわねばな』
どこの誰ともわからない声がジャッジに命じた。ジャッジが構えを解く。
「……やれやれ。いいところだったというのに。そのジャッジには不満があるが――仕方ない。命拾いしたな」
「何?」
眉を顰めるキングだが、その瞬間ジャッジの足元に魔法陣が広がりジャッジの全身が光に包まれた。
「クッ、逃げる気かジャッジ!」
『キング。お前のジャッジは先延ばしにしておいてやろう。ハハハハッ』
そしてジャッジはその場から消え失せた。残されたキングたちは愕然とした。
「なんてことだ――」
「ロードス様が、ロードス様ぁああ!」
長老とアドレスが泣き叫びウィンもその場に力無く膝をつく。
「キュッ! キュ~! キュ~!」
突如ボールが声を上げポンポンっと飛び跳ねていった。ボールは御神木が生えた場所に向かっていた。その様子にキングが何かを察したようにボールの後に続いた。
「まさか!」
「キュ~! キュ~!」
必至に地面の一点を見ながら訴えるボール。キングは急いでその場所の地面を掘った。そこで見つけたのだった手のひらに乗る程度の大きさの幼女を――




