第77話 ボールはボール
「では使徒スライム様では如何ですかな?」
「悪いがボールが気に入ってるようなんだ。そう呼んでやってくれ」
「キュッ!」
長老は神様扱いにこだわっているようだが肝心のボールはキングにつけてくれた名前が好きなようで拘っていた。
ボールの意思を尊重させるなら気に入っている名前で呼んであげるべきだろう。
「……仕方がない。ではボール様どうぞこちらへ」
「キュ~?」
長老が呼びかけるもボールはどうして~? という顔を見せた。
「一体ボールをどこへつれていくつもりだよ」
不思議に思ったのはハスラーが問いかけた。長老は面倒くさそうな顔を見せる。
「神の使徒なのだからそれ相応の席を用意しなければならないだろう」
「そういうのはいいわよ。それより私たちはいていいのよね?」
長老が答えるとウィンが眉を顰め別な質問をぶつけた。キング達はここに素材を求めてやってきている。
「……使徒であるボール様の付き人なら仕方あるまい」
「キュ~! キュッ! キュッキュッ!」
「わ、ちょ、何をなさるのですがボール様!」
ボールがキングの肩から長老に飛びかかり跳ね回ってぶつかっていった。
「そこまでだボール」
「キュ~……」
「俺たちが付き人扱いされて怒ったのか? はは大丈夫だ気にしてないからな」
「キュ~♪」
キングが撫でるとボールが期限良さそうにプルプル震えた。
「ボールにとってキングは欠かせない友達よ。付き人扱いとかわかってないわね」
ウィンが腕を組み諭すように長老に言った。
「ぬぬぬ……」
「長老。滞在を許して貰えるならどうか願いを聞いてもらえないだろうか?」
ウィンに指摘され歯ぎしりする長老にキングが問う。ここまできたのはそもそもウィンのラケットに必要な素材を見つけるためだった。
そして今はハスラーやアドレスも素材を必要としている。
「願い? それはボール様に関係あるのか?」
「うむ。十分関係があるな」
「キュ~!」
素材が必要なのはウィン、ハスラー、アドレスの球技に活かすためだ。球技であれば当然ボールが関係してくる。
「それなら仕方あるまい。話を聞いてやろう」
こうして結果的にボールのおかげで話を聞いてもらえることとなった。
長老の家に招かれることとなりキングは事情を話して聞かせる。
「……それでウィンの魔法が使えるレベルになると?」
「使えるどころではない。今後頼れる戦力となるのは間違いないだろう」
「むぅ……」
長老がとても信じられないといった顔でジロジロとウィンを見た。
「僕たちは全員キングに救われた。球技を教えてもらって活路が見いだせたんだ」
「はい。後は素材が見つかればウィンは勿論私たちもキングの手助けになれます!」
「いや、俺はもう皆に十分助けてもらっている。むしろ俺から恩返ししたいぐらいだ」
一行の話に耳を傾けていた長老が、フンッ、と鼻を鳴らした。
「人間なんてものは口ではいくら小綺麗な言葉を重ねてもいくらでも手のひらを返すものだ」
「ちょっと、そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「ならば聞くが、お前らは素材を得るために危険を顧みることができるか? お前たちも見たと思うが現在この里には驚異が迫っている。仲間もあのような化け物に姿を変えた。素材を探しに来たようだがその問題を解決しない限り叶わることだぞ」
長老の話を聞きキングの顔が真剣なものとなった――




