第69話 0.1%に賭けろ
目の前のフレッシュゴーレムを倒すためには、成功確率0.1%の可能性に賭けるしかなかった。
アドレスの残り魔力を掛けてキングに聖属性を付与する。それはただの付与ではなくキングの生命力を糧にすることでより強力は付与を可能とする物だ。
場合によってはキングの選手生命もとい冒険者生命が断たれるかも知れないという状況。
しかしキングの決心は固かった。
「キングの気持ちはわかりました。ですが私も勿論失敗しないよう精一杯努力します。キング前に」
「わかった」
「キュ~!」
アドレスに言われキングが少し距離をおきアドレスの正面に立ち背中を見せた。ボールもいつでもシュート出来るようサッカーボールの姿に変化する。
「ふぅうう。この付与の為、精神集中します。ヘッドの一点に魔力を集めそれをインパクトの瞬間に込め打つ――」
アドレスは自分に言い聞かせるように説明した。非常に繊細な魔力コントロールが必要な上、二打目はない。この一打で成功できなければ全てが終わる。
「こんなの前の私ならもう吐いてます。ですがゴルフを知ったことで不思議と不安がありません」
そしてアドレスが精神統一を始めた。
「アドレスとキング大丈夫よね……」
「大丈夫だ二人ならきっと」
ウィンとハスラーが二人を見守っている中、オーガスターが鼻を鳴らし声を上げる。
「フンッ。何をしようとしてるか知らないが、この私が黙って見ているとでも思ったか。征けゴーレムよ!」
オーガスタの命令どおりフレッシュゴーレムが再び動き出す。それを認めウィンとハスラーが前に出た。
「アドレスとキングはそこで集中して! あいつは私達でひきつけておくわ!」
「こんなときこそ僕たちの出番さ!」
「ウィン……ハスラー……」
二人の協力に感慨深い顔を見せるキング。
「あのゴーレム、さっきの攻撃をすぐには使えない筈です!」
アドレスが二人に助言する。二人は頷き攻撃を開始した。
「サラマンダーショット!」
「ナインボールプリズン!」
ウィンの炎のショットとハスラーの囲うようなブレイクショットがフレッシュゴーレムの動きを鈍らせる。
ゴーレムがうざったそうに殴りかかってくるが、ゴーレムの攻撃を掻い潜りながら二人は足止めの為、翻弄し続ける。
「面倒な奴らめ。仕方ないブラックジャベリン!」
オーガスタが自ら魔法を行使した。漆黒の槍がウィンとハスラーに迫る。
「舐めるな!」
「はぁああぁあ!」
ハスラーは槍を回し黒槍を防ぎウィンもスマッシュを決め見事漆黒の槍をブレイクした。
「この程度でやれると思うなよ!」
「そうよこんなもの」
「二人ともフレッシュゴーレムだ気をつけろ!」
強気に声を上げる二人だったが、オーガスタの魔法によって意識がフレッシュゴーレムから外れてしまっていた。
その隙を見逃すこと無くなんとフレッシュゴーレムがタックルを仕掛けてきたのだ。
「しま、ぐぁぁああぁああぁああ!」
「きゃぁああぁああぁあ!」
「ウィン! ハスラー!」
地響きを起こしながら繰り出されたフレッシュゴーレムのタックルで吹き飛ばされ、ウィンとハスラーの体が宙を舞った。
キングが悲痛な声を上げる。
「くっ!」
「駄目よキング……」
「そうだぜ。キングあんたが命がけでやろうってんだ。僕たちにだって意地ぐらいみさせてくれよ」
動き出そうとしたキングを二人が止めた。フラフラになりながらも立ち上がりフレッシュゴーレムに挑んでいく。
「馬鹿が無駄なあがきを」
「無駄なことなどない!」
呆れたように口にするオーガスタにキングが圧を込めて言い返す。
「無駄だ。大体貴様らの切り札など成功率の低い博打でしかない。奇跡でもおきなければ不可能だ。いい加減無駄なあがきはやめてアンデッドになるがいい」
「断る! 奇跡は自ら引き寄せる物! アドレス!」
「はい準備が整いました! いきますキング」
「バッチこーーーーーーい!」
クラブを強く握りアドレスが言葉を返すとキングも気合を入れて掛け声を発した。
「少し痛いかも知れませんがお許しを! ハァアアアァアア! 聖包ショット!」
アドレスがフルスイングでショットする。ゴルフボールは一直線に向かいキングの背中に命中した。
「ウォオォォオオォォォオォォォォォオオ!」
キングが雄叫びを上げる。体中に血管が浮かび上がりキングの目が白く染まる。
その直後だった――キングの全身から大量の血しぶきが舞った。
「カッカッカ! ほら見たことか! 奇蹟など起こる筈がない無駄死にだ愚か者――」
勝ち誇ったように指を突きつけ笑い出すオーガスタ。だが、その表情が一変した。
キングの全身から黄金の光が吹き出していたからだ。それはまさに聖なる光。
「どうやら賭けは俺の勝ちのようだ。言っただろう? 奇跡は自ら引き起こすものだと!」
「ば、馬鹿なありえん! こんなことが」
驚愕するオーガスタ。そしてキングがボールに向けて走り出す。
「やっちゃってキング!」
「ぶちかませキング!」
「ウォォォオオォォオォォォオオオ! 聖龍蹴弾!」
強烈なシュートだった。勢いを増して加速するボールは途中で聖光を放つ龍と化しフレッシュゴーレムとオーガスタを飲み込んだ。
「ぐ、ぐぉおぉおぉぉぉぉぉおぉぉおぉおおおぉおお!」
そして――聖龍が駆け抜けた先にフレッシュゴーレムの姿はなかった。アドレスとキングの黄金のコンビネーションにより完全に消滅させたのだ。
「やったか!」
「やったわね!」
「キングよかった!」
三人が声を揃える。だが――ゴーレムこそ消滅したがオーガスタはまだそこに立っていた。
「そ、そんなオーガスタが……」
ウィンがわなわなと肩を震わせる。一方でオーガスタも損傷が激しく怒りを顕にしていた。
「はぁ、はぁ。糞が! これまで溜め込んだ魔力の多くを失ったぞ!」
「そ、そうか。オーガスタはきっと障壁を展開させて――」
アドレスが目を見開き呟く。オーガスタもアンデッドである以上聖属性に弱い。だからこそいざという時の為の防御手段を用意していたのだろう。
「くそが! こうなったら仕方ない。アンデッドにこそ出来なくなるが死の魔法で貴様ら全員あの世に送ってやる! 忌々しいクソどもが! さぁあのキングという馬鹿はどこにいきやがった!」
「キング? そうだキングが」
「いない?」
ハスラーとアドレスがキョロキョロと周囲を確認するがキングの姿がない。そんな中ウィンが呆然とした顔で空を見つめ指を向けた。
「あ、上、キングは上だ!」
「何ッ!?」
オーガスタがハスラーの声に釣られて上を向く。そこに確かにキングがいた。
「そうか障壁で跳ね返ったボールが!」
「そう、まだだ。ボールはまだ生きている! これで終わりだ!」
空中でキングの全身がまるで太陽のように光り輝く。
「太陽王波宙転蹴弾!」
そして放たれたシュートによって太陽光の如く輝くボールがオーガスタに命中した。光の中でオーガスタの体がボロボロと崩れ落ちていく。
「馬鹿、な、この私が、くっ、だが覚えておけこの私を倒したところでまだ――」
そしてオーガスタは不穏な言葉を残し灰となって散っていった――




