第64話 死臭が迫る時
「もうすぐ日も落ちるわね」
「今日はそろそろ戻った方がいいんじゃないかキング?」
ウィンとハスラーが空を見上げ戻るよう持ちかけた。キングもウムとうなずく。
「大分方向性も見えてきたようだしな」
キングがアドレスの様子を見ながら語る。丁度アドレスがショットを終えたところだった。ボールが落ちた位置に魔法陣が浮かび上がる。
「よし! やりましたよキングさん! 狙い通りドンピシャです!」
アドレスが笑顔を綻ばせる。余程嬉しかったのだろう。
「うむ。いい感じだ。ならそろそろ戻ろうか。お腹も減ってきただろう?」
「え? あ、もうこんな時間! ごめんなさいこんなにつき合わせちゃって!」
アドレスがペコペコと頭を下げる。練習により随分と頼りがいはあがったが控えめな性格に変化はない。なんとなく全員から笑みが溢れた。
それもつかの間、ウィンが神妙な顔を見せる。
「キング、何か精霊がざわついてる」
「精霊? あぁそうか。ウィンはエルフだもんな」
ハスラーが思い出したような返しを見せる。何だと思ってたのよ、と言いたげにウィンが目を細めた。
「それでウィン。何があったんだ?」
「邪悪な意志を持った存在が向こうからやってくるみたい――」
ウィンが指を指した方をキング見る。今は町から離れた場所の森にいる。比較的見晴らしのよい場所ではあるが、目視では何が来ているかわからない。
「ボール頼めるか?」
「キュッキュ~♪」
キングに言われボールがラグビーボールに変化した。地面に落としてバウンドしたところを蹴ることでボールが上空高く打ち上がる。
「フンッ!」
そして落ちてきたボールをジャンプしながら受け止めキングがゴロゴロと転がった。
「……いや凄いと思うけどそんな派手な受け止め方必要だったのか?」
「いやすまん。つい」
ハスラーに冷静に突っ込まれ照れ笑いを浮かべるキングだった。
「とにかくこれでかなり遠くまで見れたはずだ。どうだったボール?」
「キュ~! キュッ! キュッ! キュ~! キュッキュッキュッキュ~! キュキュ~! キュ~!」
「やだすっごい可愛い」
キングから見るとかなり緊迫した様相で状況を伝えてきてるボールなのだが、その必死さがウィンからはより可愛らしく見えてしまったようだ。
「ボールが可愛いことに異存はないが」
「キュ~♪」
ボールを撫でながら真剣な目を見せるキング。ボールは心地良さげだ。
「ボールによるとこっちからアンデッドの集団が近づいてきてるらしい。かなりの数でしかも武装したアンデッドだそうだ」
「え、えぇええぇえええ!?」」
「あ、アンデッドが来てるのかよ!」
「道理で精霊がざわつくはずよ――」
キングから話を聞いた三人が驚く。
「でもそれなら納得だわ。精霊は死の気配を嫌うから」
ウィンが呟くように言う。周囲に死の空気を撒き散らすアンデッドを精霊は毛嫌いしているようだ。だからこそざわついているのだろう。
「どうするキング。戻ってギルドに知らせるか?」
「う~む。だがもうアンデッドはそこまで来ている。これから戻って伝えてもパニックを引き起こすだけで準備をする時間もない」
ハスラーが今後について聞く。だがキングは状況的に戻って伝えるのは芳しくないと思っているようだ。
「だからって放っておくわけにはいかないよね??」
「勿論だ」
ウィンが不安そうに眉を顰めている。キングは勿論黙って見過ごすつもりはないようだ。
「うむ、やはりこれしかないか。ここで出来るだけやってくるアンデッドを叩く。だが、これには恐らくアドレスの協力が不可欠だ」
「わ、私が……」
それがキングの判断だった。名指しされたアドレスには戸惑いの色が見られた。
「アドレスの魔法はアンデッドに有効だ。アンデッドはただ倒しても死なないからな。死なないまでも俺たちで出来るだけアンデッド共を崩していきそこにアドレスの魔法で浄化してもらう。だが、練習からいきなりのぶっつけ本番になってしまうが、行けそうか?」
キングがアドレスに問う。出来るか否かを。勿論キングは最初から無茶だと思ったことを要求したりはしない。
アドレスのゴルフに対するひたむきな姿勢から、可能だと判断したのだ。それに対するアドレスの答えは――
「――はい。今こそ特訓の成果を見せるときですね! 私、やります!」




