第63話 ゴルフの成果――出ず!?
「うん! やっぱりこの形にしたら凄く使いやすいです!」
アドレスが嬉しそうにクラブに変えた杖を振った。キングはふむと顎をさすりつつ頷いた。確かにアドレスのショットはただの杖だったときより遥かに良いものとなった。
「あのさキング。確かに私から見てもアドレスのショットは上手くなったと思うんだけど」
「そうですか!」
「う、うん」
アドレスがウィンに顔を近づけ喜色満面に尋ねた。褒められたのが余程嬉しいのだろう。
「でも肝心の魔法はどうするの?」
「あ……」
「そうだ! 僕もすっかり忘れてたわ」
「忘れないでくださ~い」
笑いながら口にするハスラーにアドレスが突っ込み気味に叫んだ。
「そう言いながらアドレスも忘れてたっぽいよね」
「ギクッ!」
ウィンの鋭い指摘にアドレスの頬に汗が滴った。
「でも実際どうなんだキング?」
「うむ。もともとの目的はゴルフによるメンタルの強化だ。実際アドレスのショットを打つまでの集中力は格段に上がってる。今ならきっと上手く魔法が扱えるんじゃないか?」
「キュッキュッ~♪」
キングはこれまでのアドレスの変化を思い浮かべながら言った。彼女の自信に繋がるような言葉だった。
そしてキングの肩ではボールも鳴きながら跳ねている。一緒にアドレスを応援してくれているようだった。
「い、今の私なら魔法が……」
「そうだ。だったら僕の傷治してみてくれよ」
ハスラーが腕まくりすると爪で引っかかれたような痕が残っていた。
「これどうしたの?」
「いやぁ猫を見つけて追いかけてたら引っかかれた」
「一体あんた何してるのよ……」
頭を描いて苦笑するハスラーをウィンが呆れた目で見る。とは言え練習には丁度よかったのかもしれない。
「わ、わかりました! や、やってみます!」
そしてアドレスがハスラーの傷に目を向けてムムムッ、と唸った。
「こ、ここ、この傷を、わ、わたしゅが、な、なおひてみせます」
「お、おいおい大丈夫かよ?」
「アドレス落ち着いて!」
目玉がぐるぐる回ってそうな顔つきを見せるアドレス。そしてハスラーに向けて回復魔法を唱えた。
「こ、ここ、こ、この物をい、癒やし給え――ヒール!」
アドレスが魔法を行使。だが――
「……治ってないな」
そうハスラーの傷は治ってなかった。アドレスがガーンっとハンマーで後頭部を殴られたような顔を見せた。
「そ、そんな……」
「うん? ウィンちょっとマントを見てみてくれ。何か気づかないか?」
「マント?」
キングに言われウィンが羽織っているマントをマジマジと見た。
「あ! 解れが治ってる!」
「マジかよ」
そう。ウィンのマントの傷が何と治っていたのである。
「良かったじゃないかアドレス。魔法が失敗したわけじゃないぞ?」
「失敗ですよぉ。私はハスラーくんの怪我を治そうとしたのですからぁ」
泣きそうな顔を見せるアドレス。確かに魔法こそ発動したが対象を間違っていてはいざという時に役立たない。
「しかしヒールで物を治すってのも普通に凄いと思うけどな」
「まぁね。でも、狙いは決めたいところよね」
「うむ……アドレス。ゴルフでボールを打つときには集中できていた。だけど今魔法を扱うときには以前と変わらず随分と慌てていた。どこに違いがあったか自分でわかるかな?」
「うぅ。もういいのです。これだけやっても駄目だったのだからきっと私に才能が」
「諦めるなアドレス! 諦めたらそこで試合は終了だぞ!」
キングが叫ぶ。その言葉にアドレスがハッとした顔になった。
「そうです、私はまた同じ過ちを――でもキングさん。私、魔法が使いたいんです!」
「うむ……」
アドレスの熱い思いを受け止めキングが頷く。
「でも、やっぱり魔法を使うと緊張して……クラブでボールを打つときにはそっちに集中出来るのですが」
「う~ん。難しい物ね。例えばショットと魔法を同時に扱うとか出来たらいいのに」
「イヤイヤ今でも出来なかったのにそんなことしたら更に難しくなるだけだろ?」
「いや待て! それだ! それならいけるかもしれないぞアドレス!」
「え?」
キングが閃いたとばかりにアドレスに詰め寄った。アドレスが驚いているがキングがそれを説明する。
「今ウィンがいったやり方は実際ウィン自身がやってることだ。ようはクラブを通して魔法をボールに込め打てばいい」
「いや、だからそれが難しいんじゃないか?」
ハスラーが怪訝そうに告げた。
「確かに普通なら。だが恐らくアドレスに足りてないのは魔法を使う時の集中力だけだ。それ意外で言えば物を回復するというとんでもない効果も発揮できる程。ならば可能性はある!」
キングが声を上げ、そしてアドレスに目を向けた。するとアドレスも真剣な眼差しでコクリと頷く。
「わかりました! 私それでやってみます!」
こうして再びアドレスはクラブを通して魔法を扱う訓練を続けていく。
一方宿場では大変な事件が勃発していたわけであり――
「な、なんだとアンデッドの群れだと?」
「は、はい。しかもその中には行方不明になっていた大量の冒険者の姿やアンデッド退治に向かった筈の冒険者パーティーの姿もあるということです!」
「な、なんてこった――」




