第57話 アドレスの悩み
「そ、そんな。ここを追放されたりなんてしたら私……」
「黙れ。これは決定事項だ。お前みたいな使えない治療師なんて必要ないんだよ。じゃあなアバよ
」
「たく、白けちまったどっか別なとこで飲み直そうぜ」
「さんせ~い」
そしてアドレスと呼ばれた白ローブの少女を残しパーティーメンバーだったと思われる冒険者たちは去って行ってしまった。
残された少女は暫く呆然となりペタンっと力なく席に座り両手で顔を塞いだ。
「ね、ねぇ私ちょっと行ってくるね」
「は? おいおい待てって。余計なことに首をツッコむもんじゃないと思うぜ」
ウィンが立ち上がるがハスラーがそれを止めようとする。
「何言ってるのよ放っておけないじゃない」
「キュ~!」
そしてウィンがアドレスの席に向かった。ボールもウィンの肩に乗ってついていく。
「はぁこっちはそれどころじゃないだろうが」
ハスラーが頭を掻きながら眉を落とした。キングは微笑しつつ彼の肩を叩く。
「ま、そう言うな。それがウィンのいいところだ。それに俺も少し気になるしな」
そしてキングも後に続き、やれやれと肩を竦めハスラーも追いかけてきた。
「ここいい?」
「キュ~♪」
「……え?」
ウィンに問いかけられアドレスが顔を上げた。視線がウィンと肩の上に乗っているボールに向けられる。
「えっ! え、エルフ! それにスライ、ム?」
「キュ~」
「あはは。この子はボール。私はウィンよ。その、今のやり取りを見ていてちょっと気になっちゃってね」
そう言いながらウィンが彼女の正面の席に座った。
「み、見られて……お恥ずかしい」
「別にそんなことはないんじゃないか。色々事情はあると思うが」
キングがウィンの横に立ち声をかけた。アドレスが、誰? と目をパチクリさせる。
「あ、彼はキングと言って私の仲間。この子の飼い主でもあるのよ」
「キュ~♪」
ボールはウィンからキングの肩に飛び移る。
キングが撫でると嬉しそうにぷるぷると震えた。
「ちなみに僕はハスラー。二人と旅を一緒にしている冒険者だ」
最後にハスラーがやってきて自己紹介した。
「あ、あの私はアドレスです。治療師やってます」
「うん。さっき見てた。でも酷いよねあんな一方的に追放なんて!」
ウィンがぷんすかと怒りを顕にした。そういえばウィンもパーティーを追放されたことがあるなとキングが思い出す。
もっともあの時はウィンの魔法にも原因があった。ただその後ウィンはキングの元仲間ったビルに狙われて嫌な目にあっている。
そういった事も影響してアドレスを放っておけなかったのだろう。
ただ、かつてのウィンを追放した相手と比べると今の連中は少々横暴な気もしたなとキングは思い出す。
「だけど、あんた治療師なんだろ? 治療魔法なんてそうそう使える者はいないぜ。それなのに追放されるなんてよほどのことじゃないか?」
「ちょっとハスラー! あんたにデリカシーってものはないわけ!」
「いや、だけどそこを誤魔化しても仕方ないだろう?」
「は、はい。貴方言うとおりです。実は私、治療魔法が下手で……それで何度か追放されているんです」
しゅんっとした顔でアドレスが答えた。ハスラーは頭をポリポリ掻く。
「治療師が治療魔法が下手だって言うならなぁ」
「ふむ。しかし、俺はかなりの魔法だと思ったけどな。そのジョッキも治療魔法で直したのだろう?」
キングが一度は割れた筈のジョッキを指差して聞いた。彼女が使った魔法で見事に元の形に戻っている。
「は、はい。でも本当は怪我を治したかったのに……」
「いや、そもそも治療魔法でジョッキを直すなんて初めて聞いたんだが……」
「物体も直せるものなのね……」
「キュ~」
ハスラーが頬を掻き、ウィンとボールも感心していた。
「確かに俺もそこまでの治療魔法は初めて聞いた。だから魔法の腕は十分だと思うのだが、下手と言うのは?」
「は、はい。実は私すごく緊張する質でしてメンタルが弱いというか……だから実践で治療魔法を扱おうとしてもどうしても見当違いの相手を治したりしちゃうんです~」
そう言ってテーブルに体を投げ出しアドレスは落ち込んでしまった。
「うぅ、わかっていたけど私はやっぱり駄目な治療師なんだ……」
シクシクと涙する声も聞こえてくる。ウィンが眉を落としキングを見た。
「ねぇキング。何か可哀想。なんとかならないかな?」
「おいおい無茶言うなよ。メンタルなんて本人の問題だろう? それをどうにか出来る方法なんて……」
「――メンタル、いや。もしかしたら可能性はあるかもしれないぞ」
「おいおいマジかよ」
「キュ~!」
「やったわ! アドレスこれできっと解決よ!」
「ふぇ?」
顔を起こしほうけた顔を見せるアドレス。そして喜ぶウィンとボール。それにキングは苦笑した。
「いや、確実に大丈夫ってことでもないんだがなぁ……」




