第39話 ウィン、スポ根漫画にハマる
「な、なんですってぇええええぇええ!?」
キングの発言にウィンは机を叩きつけ立ち上がり前のめりになって驚いてみせた。恐らくテニスが何なのかよくわかっていないだろうが、魔法が制御できればこれまでのようにポンコツ扱いされずにすむ。
そのことに、感動さえ覚えているようだったが。
「ウィン……」
「何? なになに!?」
静かに呟くキングにウィンが食いつく。そんな彼女にキングが発したのは。
「いや、ここは図書館だからもうちょっと静かにしたほうがいい」
「キュ~」
「え? あ、ご、ごめんなさい……」
改めて周囲を見ると奇異な目を向ける閲覧者の姿。そう、今ここに本を読みに来ているのはキング達だけではないのだ。ボールも体を伸ばして、し~、というジェスチャーを見せている。
図書館でのボールはとてもいい子だ。ちなみにキングにしても周りの人に迷惑がかからない程度のテンションはしっかり維持している。
そんなわけで顔を赤くさせて席に着くウィンである。とは言えやはり興味はつきないようで。
「それで、このテニスはどうやればいいの?」
「そうだな。先ずはこの本を読むところから始めてみてはどうか?」
「う、う~ん、中々難しい本だけど、読み方教えてくれる?」
「勿論だ。いいかい? この本はこっちから順に、文字はこれは――」
キングはウィンに読み方を親切丁寧に教えてあげた。ちなみに実はこの漫画、確かにウィンにとってはかなりしっくりくる内容であった。
何故ならキングに勧められたテニスの魔王様は、最初こそテニスで魔力が制御できる! と喜んでテニスに打ち込むと言った内容だが、どういうわけか勇者も転生していたり、元戦士がいたりしてそして何故か揃いも揃ってテニスを始めるため、コートでは魔法などを利用した必殺技の応酬になるという様相を醸し出していた。
勿論主人公の魔王様は異世界の力を如何なく発揮して魔法のサーブやスマッシュを連発するのだが――
「面白い! 面白いわこれ!」
キングに読み方を教わり段々とコツが掴めてきたウィンはすっかり漫画の虜であった。異世界人すら取り込む日本の漫画恐るべしである。
とは言え――
「キング、盛り上がっているところ悪いね。そろそろ閉館の時間なんだ」
「おお、そうであったか。いや、つい夢中になってしまったようだ」
「ははは、それにしてもそれ、以前譲った異世界の本だね?」
「うむ、おかげで随分と役立っているよ。今読んでいたウィンも気に入ってくれたようだし」
「この本凄いわ! 描いた人は天才よ!」
「キングだけじゃなくてこんな綺麗なお嬢さんにも喜んでもらえるなら、引き取ってもらえた本も本望だろうねぇ」
そう言ってとても嬉しそうに笑ってみせた。館長はやはり図書館に長年務めるだけあって本に対する愛着は深いようである。
「それでは今日はこれで」
「あぁ、またいつでも来てくれていいからね」
「ありがとうございます」
「この図書館気に入ったわ! またくるわね」
「キュ~♪」
そして2人と1匹は図書館を後にした。
「でも、これからどうしよう……」
道々、ふとウィンがそんなことをつぶやいた。そこでキングはウィンがギルドを途中で飛び出していったのを思い出す。ただ、流石にもうギルドも閉まるころであり。
「ウィン、どこから休める宛はあるのかい?」
「え? そ、そうね。な、なくもないわ!」
「ふむ、宿をもう取ってあるのかな?」
「え~と、ま、まぁ宿はないけど、なんとかなるわよ!」
これはやはり金銭的にも困っているのかも知れない、とキングは読み取った。屋台を壊してしまった時にも随分と困っていたようであり、おまけにギルドで依頼達成の報告を見せた様子もなかったのである。
「良かったら一緒に来るか? 俺もこれから宿をとるところではあったのだが、魔法の件もあるし宿でなら本の続きも読めるだろう?」
「え? でも、私、その、持ち合わせが……」
「それなら一旦私が出そう。今日は報酬も手に入れていないのだろう?」
「え? それは、立て替えるから宿に一緒に泊まろうってこと?」
「うむ」
「……そ、そういうことね。みそこなわないで! と、い、いいたいところだけど、その、助けてもらった恩もあるもんね。い、いいわ覚悟を決めるわ!」
「ん? あ、あぁ。ならいこうか」
「キュ~?」
見損なわないでと覚悟を決めるの意味がわからないキングであり、しかもなぜかウィンは顔を真っ赤にさせもじもじしていた。ボールも不思議そうにしていたが、キングはスライム同伴でも従魔扱いで泊めてくれる宿に向かうと、宿の主にこう伝えた。
「それではシングル2部屋で」
「え!」
「うん? どうかしたのか?」
「あ、いや、その、シングル?」
「それはまぁそうだな。2人一緒というわけにはいかないだろう?」
キングが問うように口にすると、ウィンは顔を伏せプルプルと肩を震わせた後。
「そ、そうね! それはそうよね! そうよ、何言ってるのよばっかじゃないの!」
「う、うむ……」
「キュ~……」
キングは常識の範囲内で部屋を取ったつもりなのだが、ウィンは上げた顔を真っ赤にさせて語気を強めるのだった。
キングもボールも少々戸惑ったが、その日は宿で食事を取り、そしてウィンにテニスの魔王様を貸し、キングもスポ根漫画を読みながらそして眠りについた。
「昨日は勝手に飛び出していってごめんなさい……」
「いいの。私もウィンの気持ちも考えずに言い過ぎたわ……ごめんなさい。確かに魔法の暴走は多いけど、どうするか最終的に考えるべきはウィンだものね」
後日、キングと一緒に冒険者ギルドに顔を出したウィンは先ずはダーテに謝罪した。それに対しダーテも思うところがあったのか謝り返していた。
お互い蟠りは解消されたようであるが、ダーテがチラリとキングをみやり。
「でも、最近はよく2人でいますね」
「キュッ、キュキュッ~!」
ニコリと微笑みキングに語りかけるダーテ。笑顔なのだが、ボールは何故かそれを見て怖がっていた。
ちなみに最近と言ってもキングはウィンと出会ってまだ2日目である。
「うむ、実はウィンの魔法について、制御できるかも知れなくてな」
「え! そうなんですか!」
しかし、キングの話を聞くなり驚くダーテ。ボールが怯えた笑顔もおかげで消え去った。
「絶対とは言い切れないのだがな。しかし、可能性がゼロでない限りチャレンジする価値はあると思っている。ウィンも乗り気だしな」
「えぇ! 魔法が使えるためなら何だってするわ!」
「そう、そういうことなら応援してる! でも、キングさん凄いですね。そんな知識まであるなんて」
「何、たまたま私が身につけた球技と関係があっただけのことだ。そこでだ、折角だからウィンとこの依頼を請けようと思う」
「え? それはつまり、パーティーを組むということですか?」
「え? 私とキングが?」
「あぁ、なるほど。確かに一緒に行動するとなるとそうなるのか。どうかな? その魔法の件が片付くまで一時的にでもパーティーを組むというのは?」
「え、えっと、私でいいの?」
「勿論、ウィンさえ良ければね」
「そ、それなら組むわ!」
「うむ、決まりだな」
「キュ~♪」
こうしてとりあえずという形ではあるがパーティーを組むこととなった2人であり。
「あ、そういえばキングさんは昇格が決まりましたよ。これでE級になります。良かったですね!」
「おお! そうか、それは良かった。君にも色々と助けて貰ったからな。そのおかげだよ。
キングにお礼を言われ、ダーテが、そんなこと、と照れて見せた。すると隣のウィンも笑顔を見せ。
「でもキングでE級というのもおかしな話ね」
「はは、まぁルールだから仕方ないさ」
「キングさんならきっとすぐにもっと上へいけますよ」
「だといいのだがな」
そんな会話を終えた後、キングは新たな依頼を見た。E級になったのでD級までの依頼は請けることが出来る。
「え~と、それで請けていかれる依頼は、あら? 全てアシクス山地周辺の依頼ですね」
「うむ、実はその魔法の件でそこまで行く必要があってな。ついでにその依頼を請けようと思ったんだ」
「そうなんですか……あの、でもこのあたりって有名なドワーフの聖地ですよね。大丈夫ですか?」
ダーテはチラリとウィンをみやった。そう、エルフとドワーフはあまり仲が良くないことで知れているのだが。
「そのことだが、ウィン、君の魔法の件で知り合いのドワーフにも力を借りようと思っているんだ」
そこでキングは自分の意図を明かす。すると多少は戸惑う様子を見せたウィンだが。
「まぁ、仕方ないわね。それが必要なら付き合うわ!」
「そうか良かった」
「キュ~♪」
こうしてウィンの同意も得たことで、キング達はドワーフの住む山へと向かうことになるのだった――
さてドワーフに何を――




