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スポ根マンガを参考に球技を極めたら最強の武術だと勘違いされた!~魔球と必殺シュートでドラゴンや魔王もふっ飛ばす!~  作者: 空地 大乃
第2章 球技を扱う冒険者編

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第36話 怪しい仲間

(どうして、どうしてこんな目に会ったの? 私が安易に信じたから……魔法の制御なんて出来るわけないのに――)


 ウィンは黙って彼らの後をついて歩きながら1人後悔していた。本当なら今すぐこの連中を振り切って逃げ出したかったがそれは叶わなかった。


「いいか? 大人しく俺たちについてこい。馬車の預かり所まで行ったらお前を乗せて街を出る。それまで一切喋るなよ?」


 ウィンはそれを拒否することが出来なかった。隷属の腕輪があるからだ。腕輪の効果で今彼女は彼らの言うことに逆らうことが出来ない。


「ふふっ、でもラッキーだったわね。エルフは売れば相当な値がつくわよ。暫く遊んでいてもいいかも」

「はは、全くだ。あんたらと組んで正解だったぜ。裏の仕事の旨味を知ったら冒険者の仕事なんてやってられねぇし」

「そうだろうそうだろう。まぁそれでもそこそこは冒険者の仕事もしないと怪しまれるけどな」

「ケケケッ、でもよぉ、その冒険者の仕事を続けているから獲物も見つけやすいってのがあるからな」

「そうね。特に女は腕もないくせに見た目はいいってのがいるから稼ぎやすいわ」

「…………」

 

 彼らの会話にウィンは何も言うことが出来なかった。いや言いたくても言えない。どれほど悔しくても情けなくても言いように言われ付き従うほかない。


 そしてこのまま馬車に乗せられ子牛のようにどこかへ売られていくことになる。


(そんなの、嫌だ! 一人で生きていくって決めたのに。だから冒険者になったのに、こんなことで、うぅ、解けろ! 外れろ! 精霊お願い! 助けて!)


 ウィンは必死に精霊へ祈った。もしかしたら今こそ自分の力が覚醒するかもしれない。そんなことを考えても見た。だが現実は甘くはない。隷属の腕輪によって魔法の行使は禁じられている。


 この状態では魔法は行使できない。暴走すら引き起こせないのである。


 ウィンは絶体絶命のピンチであった。頼みの綱の精霊すら協力してくれない。これではもう――そう思っていたその時だった。


「ウィン見つけたぞ」

「キュ~」

「「「「は?」」」」


 何かが彼らの横を通り抜けたかと思えば、すぐ正面にはスライムを抱えた男、そうキングとボールの姿があった。


「な、なんだお前は?」

「いや、こいつ、お前、キングか!」

「うん? お前は……ビルか。ふむ、随分と久し振りだな」

「な、何さ、あんたの知り合いなの?」

「ケケケッ、あんなスライム肩に乗せた妙ちくりんなおっさんが知り合いとはな」


 ボールは既に元の姿に戻りキングの肩に乗っていた。突然進路を塞ぐように現れた1人と1匹に驚いている様子も感じられるが、ビルに関して言えば、へっ、と薄ら笑いを浮かべ。


「知り合いと言っても、悪い意味だよ。こいつとは以前パーティーを組んでいたことがあるんだがな、レベルは低いし身勝手な行動ばかりで俺らに迷惑ばかり掛ける役立たずだったから追放してるような奴だ。おまけにその後冒険者ギルドまで追い出されたって間抜けな奴さ」

「は? なんだそりゃ。冒険者として追放って、終わってんな」

「ケケケッ、かっこつけて出てきた割にしまんねぇおっさんだぜ」

「全くね。まぁいいけど。で、その追放された元冒険者が何のようなの?」

「悪いが元ではない。復帰したからな」

「は? お前みたいな才能の欠片もない屑が、復帰とかギルドは本気か?」


 ビルが嘲るように言う。彼の中ではキングはうだつの上がらない底辺の冒険者でしかないのだろう。尤も実際には仲間からはキングの方が信頼されていたわけだが。


「俺のことは今はどうでもいい。ウィン、その連中は君の知り合いか?」


 ビルについてはさっき再会したかつての仲間から話を聞いている。故にキングはジム達に不信感を抱いていた。何よりウィンの表情からは不安しか感じられないのだ。


「……」

「どうしたウィン?」

「はは、こいつはお前とは話したくないってさ」

「何?」

「悪いわね。彼女はもう私たちの仲間なのよ」

「仲間?」

「ケケケッ、そういうことさ」

「俺達はこれから仕事に向かうんだ。邪魔してんじゃねぇよ」

「おかしな話だ」

「何だと?」


 キングが口にした言葉にビルが反応する。眉は不快そうに顰められていた。


「ウィンは今日、別のパーティーから抜けている。それから暫くは俺と一緒にいた。直前までギルドでも一緒だった。それなのに新しいパーティーと行動をともにしていて仕事が決まっているというのはあまりに妙だ」

「あら、それは決めつけが過ぎない? 確かに私たちは今日会ったばかりだけど、馬が合えば当日すぐにパーティーを組むなんてめずらしいことじゃないわ。仕事も前から決まっていたのがあるの。それに彼女の力が役立つと考えたのよ」

「力?」

「そうよ。エルフは魔法を使う腕に優れている。とても役立つわ」

「彼女の魔法を頼りにしたというのか?」

「そうよ」


 この時点でキングはより彼らを訝しんだ。口にはしないが、前のパーティーを追放された理由も魔法なら依頼が失敗している理由も魔法だ。正直いって彼女の魔法を頼りにするというのはありえない。


「ウィン、彼女の言っているのは本当か?」


 キングの問いに、ウィンは口を開きかけるが、返事をすることはなかった。だが、ウィンは間違いなく何かを伝えようとしている。


「彼女は貴方と話したくないのよ。当然ねビルの言葉を借りれば、貴方は冒険者として信用できる相手じゃないわ」

「そういうことだ。ウィンだって嫌がってるだろうが。それともお前は何だ? こいつのストーカーか何かか?」

「だったら仲間として見過ごせねぇなぁ」

「ケケケッ、仲間に危害を加えるつもりなら俺のナイフが黙っちゃいないぜ!」


 戦士然とした男に、盗賊のような風貌な男がキングを威嚇してくる。だが眼中にないようでキングはウィンの腕に注目する。


「ウィンの腕に嵌められている腕輪だが、ギルドを出るまでにはなかったものだ。一体どうしたのか?」

「……私がプレゼントしたのよ。パーティーに加わってくれたお礼にね」

「随分と気前が良いな」

「うっさいわね! そんなことどうでもいいでしょう! あんたにつべこべ言われる筋合いじゃないんだよ!」

「キュッ! キュー!」

「そうか、ボールも怪しいと思うか」


 キングの指摘にうざったそうに声を荒げる女魔法使い。その様子にボールも興奮気味に鳴き声を上げて訴えた。彼らの言動は明らかに怪しい。


「ウィン、間違ってたら謝罪させてもらう。ボール!」

「キュー!」


 キングが呼びかけるとボールがくるりと回転し丸まり、かと思えば野球のボールに変化した。


「ちょ、何あのスライム? 変身したよ!」

「おいビル、なんなんだあれは?」

「知らねぇよ……少なくとも前はあんなスライム連れてなかったからな」


 ビルもボールの変化には驚きを隠せないようだ。たかがスライムと侮っていたようだがそれがそもそも間違いでもある。


「何か嫌な雰囲気があるね。ウィンの前に立って!」

「あぁ!」


 するとビルを含めた3人の男が壁のようにウィンの正面に立った。キングからウィンの姿が完全に隠れてしまうが。


「やはり何かあるようだな、ならば! 行くぞ! 超冒険者ボールL(レフト)!」


 キングは大きく足を振り上げ、そして鞭のような靭やかな動きで右腕を振り抜いた。


 美しいフォームから投げられた球は、しかし大きく右に向かって飛んでいく。


「はは、おいおいどこに投げてんだ? 意味がわからないぜ!」

「いや、問題ない。これで決まりだ」

「何だって?」


 ビルが嘲笑うが、しかしキングの投げた球が途中で大きく左に曲がり、果たしてウィンの手に嵌まっていた腕輪を捉えた。


――パキィイィイン!


 そして耳に届く快音。女魔法使いの目が驚愕に見開かれ。


「そ、そんな! 隷属の腕輪がこんなあっさり壊れるなんて!」

「隷属の腕輪か、やはりそんなことだと思ったぞ」


 女魔法使いが慌てて自らの口を手で塞ぐが時既に遅しであった――

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