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スポ根マンガを参考に球技を極めたら最強の武術だと勘違いされた!~魔球と必殺シュートでドラゴンや魔王もふっ飛ばす!~  作者: 空地 大乃
第2章 球技を扱う冒険者編

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第31話 キングとお婆ちゃんと残念エルフ

「本当、信じられないスライムね……でも、大丈夫なの?」

「うむ、最初は俺も心配したものだが、ボールは取り込んだ物を保存したり吸収したり溶解なども可能でな。本当に凄いスライムだよボールは」

「キュ~♪」


 広場のゴミ掃除が終わり、依頼者である管理人に伝えたところ、その綺麗さに随分と驚かれた。依頼書にサインを貰い広場を出たキングであったが一緒についてきたエルフの少女はボールの能力に随分と驚いているようだった。


 そしてキングはそんなボールを撫で回しながら歩いている。ボールもごきげんだ。


「ところで君はこれからどうするのかな?」

「え? ど、どうするって……てか君って何か他人行儀ね」


 少女は若干不機嫌そうにそんなことを言い出すが、実際キングと知り合ったのはついさっきである。


「仕方ないから名前を教えてあげるわ。感謝しなさい!」

「あ、あぁ……」

「キュ~……」


 指をビシッと突きつけられ何故か感謝を求められるキングである。ボールも若干戸惑い気味だ。


「私はねエルフの精霊大魔法使い、ウィン・ブルゾンよ! 驚いた?」

「え? あ、あぁ、うむ」

「キュ~……」


 自信満々に自己紹介をしてくるウィンであったが、驚けと言われても対応に困るキングとボールでもある。

 勿論これでギルドに名を轟かす程の有名人なら話は別だが、今の所キングの記憶にそのような名前の大魔法使いは存在しない。


「自分はキング・グローブだ。そして俺の肩に乗っているのは友だちのボール」

「そうキングとボールね。つまり合わせるときんた、何言わせるのよ!」

「は?」

「キュ~?」


 急に切れだすウィンに疑問符が浮かぶキングとボールである。


「まぁいいわ。それでキングとボールはこれからどうするの?」

「え? あ、あぁ俺たちは依頼も達成したしギルドに戻るつもりだが」

「そう、なら付き合ってあげるわ。私も顔を出すところだったし」

「そ、そうか……」


 ちなみに最初、同等の質問を投げかけたのはキングなのだが、いつの間にウィンから質問されたみたいになっていた。

 

 そんなわけで、三人でギルドに向かうことになったわけだが。


「む、少し待ってくれ」

「え? ちょっとどうしたのよ!」


 キングが向きを変え脚を早めた。何なのよ、と腕を組むウィンだったが、彼の進んだ先に腰に手を当て蹲るお婆ちゃんの姿が見えた。


「大丈夫ですか?」

「え? あ、あぁ、イタタタッ、ちょっと腰を痛めてしまってねぇ」

「なるほど……」


 見るにお婆ちゃんは買い物の帰りでもあったらしく手荷物も多いようだった。


「背中を貸しますよ。どうぞ」

「え? いいのかい?」

「はい、私は冒険者ですから、困ってる人を見たら助けるのが務めです」

「冒険者はそんなことまでしてくれるのかい……なら、済まないねぇ」


 そしてキングはお婆ちゃんを背負い、荷物も持ってあげた。ボールはお婆ちゃんの腰のあたりに移動してあげた。するとひんやりして気持ちがいいと喜んでくれた。


「ウィン殿、私はお婆ちゃんを送っていくので先に行ってくれて構わないぞ」

「何言ってるのよ馬鹿!」

「へ? ば、馬鹿?」

「ふん、し、仕方ないから私も付き合ってあげるわよ」

「え? あ、あぁそうか?」

「キュ~……」


 またプイッと顔をそらしつつそんなことを口にするウィンである。別に無理してついてこなくても問題ないが、一緒にくると本人が言っているのだから断る理由もなく、キングはお婆ちゃんに道を聞く。


「ところで治療士の下へは行かなくても大丈夫ですかな?」

「ありがとう、でも家には湿布があってね。それがあれば大丈夫さ。それにスライムが揉んでくれて少し楽になったしねぇ」

「それは良かった」

「キュ~♪」


 お婆ちゃんの役に立ててボールも嬉しそうである。


「それにしても本当あんたってお人好しね……ま、悪いやつじゃないんだろうけど」

「うん? 何かいったか?」

「な、なんでもないわよ馬鹿!」

「う、うむ……」


 そしてそんなやり取りをしつつキングはお婆ちゃんを家にまで送り届ける。


「本当に助かりました」

「いえいえ、でも、腰は大丈夫ですか?」

「はいはい、ボールちゃんのおかげで大分楽になったからねぇ」

「キュ~♪」


 お婆ちゃんはすっかりボールが気に入ったようである。頭を撫でられボールも嬉しそうだ。


「ボールが役に立てたなら良かった」

「待ってお婆ちゃん。それでもまだ腰は痛いのでしょう?」


 キングにお礼を何度も言うお婆ちゃん。後は家で湿布を貼れば大丈夫と、そう語るのだがそこにウィンが待ったをかけた。


「えぇ、確かにまだ痛むわねぇ」

「なら私の出番ね!」

「はい?」

「む?」


 ビシッと指を突きつけ自信満々に語るウィンであり。


「私の魔法があれば腰だってすぐよくなるわ!」

「まぁ、お嬢ちゃん魔法使いなのかい?」

「そうよ。しかも偉大な精霊魔法使いよ!」

「おやまぁ、それは凄いねぇ」

「む、むぅ……」

「キュ~……」


 エルフ特有の控えめな胸を張り、ドヤ顔で語るウィンであったが、キングとボールは不安そうだった。


「ウィン殿」

「ウィンでいいわよ。私もキングって呼ぶし」

「うむ、ではウィン、その何だ、君の精霊魔法は治療魔法のようなことも可能なのかな?」


 治療魔法は本来、教会に属する神官などが得意とする魔法である。通常の魔法使いが扱う真言魔法では怪我を治したりといったことはできない。


 ただ精霊魔法についてはキングはそこまで詳しいわけではなく念の為確認する。


「可能よ生命の精霊ライフは、人の持つ再生能力を高めるの。精霊は治療魔法みたいに怪我をすぐに治療したりは出来ないけど、生物の本来持つ再生力を引き上げることは可能なの!」


 ほう、とキングは感心してみせた。精霊にはそういった使いみちがあるのかといった思いだ。


「だから私が治してあげるわよお婆ちゃん」

「そうかい? そこまで言うなら……」

「いや、ちょっとまってほしい」

「何よ?」

「その、なんだ。ウィン、君の力を疑うわけではないのだが、いきなり本番というのもな。だから一つ試してみてはくれないか?」

「試すって?」

「ボール頼む」

「キュ~」


 するとボールの体からぽんっとまるっとしてぷにっとした球体が一つ飛び出た。そして地面に落ちたかと思えばそのまま人の形をなしていく。


「え? 何これ?」

「ボールの特技の一つだ」

「特技って、物を取り込んだり球に変わるだけじゃなかったの?」

「他にも分裂したり分裂して更に変化したりも出来る。これはその分裂の一種、ただ意思は持たせていない人形のようなものだ」


 そう、ボールは体の一部を切り離し、何かに変化させるという芸当も可能だった。


 おかげで何体も立たせた人形相手にサッカーにおけるドリブルの練習なども可能となり、キングもボールに感謝したものだ。


「でも、これを一体どうするの?」

「これに精霊魔法を行使してみてくれ」

「生命の精霊は無機物には使えないわよ」


 ウィンは眉を顰めて答えたが。


「それは心配いらない。ボールの一部で出来ている以上、生命体の一種であることには変わりないはずだ」

「……そんなに私のこと信用できないわけ?」


 ジト目で訴えてくるウィンに、うむぅ、と困ったように唸るキングだが。


「ね、念の為だ。お婆ちゃんもどんなものか見ておいたほうが安心だろう?」

「まぁ、そうだねぇ。一応見れるものなら見ておきたいわねぇ」

「仕方ないわね……」

 

 ウィンはどうやら納得してくれたようだ。そして杖を掲げ、魔法を行使する。


「生きとし生けるものに宿る精霊ライフよ、我に力を与え給え、バイタルテ!」


 ウィンの魔法が発動した、刹那、ボールによって生み出された人形の身に変化が生じ――


「ボルシッ!?」

 

 なんと、全身に無数の膨らみが生まれたかと思えば、パンパンに空気を入れた球が破裂するように弾け飛んだ。後にはバラバラなった破片のみが残される。


「え、え~と……」

「こ、これは! 球斗神拳!」

「キュ~!」


 クワッと目を見開きキングが叫んだ。何故かボールもキングに倣うように激しく鳴いた。


 球斗神拳――キングが読んでいたスポ根漫画の巻末に載っていた漫画、球斗の拳で使用されていた奥義である。時は世球末、世界は球技によって支配された。悪のモヒカン球技者が好き勝手に暴れまわる中、主人公が持ち前の球斗神拳によってヒャッハー共を駆逐していくという内容だった。この技は球を使い投げるなり蹴るなりして相手の球孔をつくことで、空気を入れすぎたボールのように膨らまさせ破裂させるという恐るべき球殺拳だったのである。


 しかしこの漫画、元は読み切りだったということもあり勢いとノリで進んでいるところがあり、キングでもその奥義の秘密を掴むことが出来なかったのである。

 

 ただ、我が球技人生に一球たりとも悔いはなし! といった心にしみる台詞があったりしたのでキングは良く覚えていた。

 

「いや、いいものを見せてもらった」

「あ、あんた馬鹿にしてるの!」


 キングはわりと本気で感心していた。だが問題があった。


「しかし、これでは治療には使えんな……」

「キュ~……」

「そ、そうねぇ。私もやめておこうかねぇ……」

「うぅ……」


 こうして結局お婆ちゃんはウィンの魔法を受けずに家に帰ったのだった――

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