第22話 認められるキング
前回のあらすじ
デスバスケを制した帰りに苦しんでるお婆ちゃんをみつけたので、救出のため抱えて病院に向けて左手を添えたのだった。
「はぁ参ったよ。あんた強かったんだね。正直馬鹿にして悪かったよ」
しばらくしてハスラーが起き上がり、素直に負けを認め己の非も認めた。少々小生意気な言動が目立つ少年ではあったが、実力がある相手を素直に認める度量は持ち合わせているようだ。
「いやいや、今回は俺も運が良かっただけだ。君の槍さばきは称賛に値するよ」
「はは、こんだけボロボロにされてるんだから実力は明らかさ。でも、いい経験になったと思うありがとう」
互いに互いを称え合う。年の差はあれどお互い冒険者だ。後腐れものこさず握手を交わし素晴らしい締めとなった。
とは言え周囲で見ている冒険者にはがっくりと項垂れているのもいる。ハスラーに賭けていた冒険者達だ。
「キングさんもハスラーくんも素敵です。やっぱり冒険者はこうでなくてはいけません」
「え? 素敵って言った今? な、なら僕とデートしてくれるの?」
「キングさんも含めてです。それに試合で負けたのだからデートは当然見送りです」
「そ、そんなぁ~あ~あ行けると思ったのになぁ」
肩を落とした後、やれやれと後頭部を擦るハスラー。直後賭けを持ち出した男がダーテに配当金を持ってきた。途中でキングに乗り換えた冒険者もいたとは言え殆どがハスラーに賭けていた為、賭け金の倍額近くがダーテの手元に戻ってきて彼女も驚いていた。
「こ、こんなに……」
「全くちゃっかりしてやがる」
「ところでマスターこれで俺はまた冒険者として復帰できるのですね?」
「あ、そうですね! 約束ですから。これで晴れてキングさんも冒険者として再活動できます!」
「……まぁそうだな。しかし、本当に強くなったんだなお前は。正直驚いた……すまなかったな」
するとマラドナがキングに頭を下げてきた。どうやら自分の見る目がなかったのだと反省したらしい。
「いや、当時の俺は確かに冒険者としてはやっていけないほどだったから仕方がない。冒険者として復帰できるだけで十分だ」
「……相変わらずだなお前は。全くもっと責めてくれたほうが気が楽だってのに」
「それなら私がしっかり虐めてあげますよ」
「勘弁してくれ。てかお前はもういい加減機嫌を直してくれや。キングお前がいなくなってからこいつずっと俺に存外な態度を取り続けたからな。全くそんなに好きならとっとと追いかけて」
「わー! わー! 何を言ってるんですか! 馬鹿じゃないんですか! 死ぬんですか? アホなんですか!」
「わ、ばか、おま、ちょ!」
ダーテが両手を振り回し、マラドナをボカボカ殴りながら叫んだ。その光景にキングは首をかしげるが。
「ふむ、十分仲が良いように見えるがな」
「キュッキュッ!」
「あ、はは……なるほどね。そんな気はしてたけどさ、だけどなキング! 確かに試合では負けたけど、こっちでは絶対に負けないからな!」
「こっち?」
「キュ~?」
ハスラーが別な意味で宣戦布告するが、キングもボールもはてなと何もわかっていない様子であった。
「あぁとにかく上に戻るぞ。キングお前の冒険者証も発行するから」
そして見物していた冒険者も含めてぞろぞろと受付に戻っていった。カウンターではマラドナ自ら冒険者証を発行しようとしてくれるが。
「なぁこれどうやるんだ?」
「もう、邪魔だからどいていてください! マスターはこういうのできないんですから!」
結局上手くいかずダーテに任せることになっていた。
「キングさんのランクはB級からでいいんですよね?」
「馬鹿! いいわけあるか! FだF。Fからだ!」
「え!? そんなのおかしいです!」
「おかしくない!」
「いやおかしいだろそれ、キングは僕よりも強いのだからBでもおかしくないでしょう」
F級と言われダーテが眉を顰め、ハスラーも口を挟んだ。やれやれと言わんばかりにマラドナは眉を寄せ。
「冒険者のランクってのはそう単純なものじゃないんだよ。それにキングは一度は冒険者を辞めた身だ。その場合規則として復帰してもF級からになる。勿論経験はあるからそれからの活躍次第で評価は変る。少なくとも新人から始めるよりは実績は認められやすいから、最初は我慢してくれ」
「問題ないさ。一からやり直しなのは覚悟の上だ。冒険者としてまた働けるだけでも御の字だよ」
「キュッキュッ~」
ボールもキングが冒険者に復帰できたことが嬉しそうだ。体を伸び縮みさせながら喜びを表現している。そしてそれを見ていた受付嬢がきゃ~可愛い♪ と黄色い声を上げていた。ボールはこれで中々の人気者だ。
「ではこれがキングさんの新しい冒険者証です。もう説明するまでもないとは思いますが、紛失されないよう気をつけてくださいね」
「うむ、再発行代もばかにならないからな」
冒険者証は高価なものだ。それはこの証明書には最先端の魔法技術を結集させて作られたものであるというのも大きい。このカード状の物体に冒険者の実績を全て記録できる上、個人情報もしっかり入っている。故に身分証代わりにもなるのだ。
だがその分取り扱いには注意が必要だ。記録にも専用の魔法道具が必要となり、ある程度の知識と慣れが必要となる。だからこそ普段やらないマラドナには使いこなせなかったのだ。
それだけに初回は無料で配布されるが紛失した際には再発行に銀貨10枚が必要となる。
「でもF級からか、それだと一緒に行動できないか。残念だね」
「はは、いや俺も新人と同じだからな。流石にB級の君と組むのは恐れ多いよ」
「僕に勝っておいてよく言うよ。それと君というのはちょっと、普通にハスラーって呼んでよキング」
名前で呼んでくれと頼まれる。言われてみるとハスラーもいつのまにかあんたからキングと名前で呼ぶようになっていた。実力を認め、彼なりに親しみを込めてそう呼んでいるのだろう。
「わかった。それならハスラー今は無理だが、いずれランクが上がったらどこかで組めるといいな」
「あぁ! 期待して待ってるぜ! と、そういえば僕も抱えてる仕事があるんだった。そろそろいくよ」
「ハスラーくん頑張ってね」
「勿論、それとデートとは言わないけど機会があったらご飯に付き合ってよ、なんならキングも一緒でもいいからさ!」
「ちょ、なんでそこでキングさんが……」
「じゃあね!」
そしてハスラーは元気よくギルドを出ていった。B級の冒険者ともなれば色々と抱えている案件も多いのだろう。
「ところでキングさん、素材をお持ちでは?」
「あぁ、そういえばそうだった」
「なんだキング、まだ復帰もしてないのに素材なんて持っているのか?」
「うむ、ここに来るまでに狩ったモンスターもいるし、以前に狩ったものもある。出しても構わないか?」
「別にいいが、出すってどっかにしまってるのか?」
「ボール」
「キュ~!」
するとボールが体の中から素材をカウンターに出した。結構量の素材が台の上に乗る。
「な、なななんだこりゃ! いや、素材は勿論だが、これだけの素材を体にこのスライムが入れていたのか?」
「すごい、スライムでこんなこと出来る種を見るのは初めてです」
「ふむ、確かに少し変わってはいるのかもな」
「いや、少しじゃないぞそれ……」
マラドナはどことなく呆れ顔だ。だがキングはあまり気にしている様子はない。
「なんであれ、ボールが俺の友だちであることにかわりはないからな」
「キュ~♪」
「はぁ、しかし気いつけろよ? そういう変わり者のモンスターを集める――」
「マスターそれはもう私から言ってます」
「……あそ、まぁいいや。ただ結構量があるから査定に少し掛かるぞ?」
「構わない。多少持ち合わせはあるし」
「なら助かる。実はわりと査定が溜まっててな。夕方ぐらいになら出来るとは思うが」
「それならその頃にでもまたくるとしよう」
「わかった、なら……たまには俺が持っていくか」
結構な量があった為か、マラドナは自ら素材を解体所まで持っていった。
「キングさん、査定が終わるまで時間もありますが何か依頼を請けていかれますか?」
「そうだな。何か掲示板で見ていくよ。良さそうなのがあれば請けていこうと思う」
「キュ~キュ~♪」
「さていくかボール」
「キュッ!」
受付嬢に撫でられプルプルしていたボールに呼びかけると丸くなってカウンターからキングの肩に飛び乗ってくる。受付嬢達が名残惜しそうにしていた。だがすぐに、早く仕事に戻るの! とダーテに注意され慌てて業務に戻る受付嬢たちである。
流石マラドナからも一目置かれるだけある。鶴の一声とはこのことだろう。
そしてキングはざっと掲示板の依頼を見た。ちなみにF級が請けられる依頼は同じF級か一つ上のE級の依頼だ。
ただ時間が時間だけに貼られている依頼書の数は少ない。既に時刻もお昼近いというのも関係しているか。ほとんどの依頼は朝一番で請けられてしまうからだ。
「キュッキュッ」
「あぁ、確かに依頼は少ないが……よし、これにするか」
キングは貼られている依頼書から何枚かを剥がし、そしてダーテの下へ持っていく。
「これを請けようと思う」
「はい。早速仕事ですねキングさん! て、え? 本当にこれでいいのですか?」
「あぁ、俺はF級だしこういうのから始めないとな」
「でも、F級と言ってもキングさんの場合経験がありますし、何もこんな」
「誰かがやらなければいけないことだ」
「キュ~」
ダーテがキングの目を見る。そして一人頷き。
「わかりました。依頼三件、と。冒険者証に登録完了しました。頑張ってくださいね!」
「あぁ」
「キュ~♪」
そして依頼を請け負い、ギルドを出ていくキングの背中を静かに見送るダーテであり。
「ところであいつ、何の依頼を請けていったんだ?」
素材を運び終わったのかマラドナ、後に残ったダーテに尋ねる。やはりキングの動向が気になっていたのだろう。
「それが、F級依頼のドブさらい、広場のゴミ掃除、あと迷い猫探しです」
「おいおい、どれもうちの不人気依頼じゃねぇか。あいつわざわざそれを選んだのか?」
「はは、キングさんらしいですよね」
思えば以前からキングにはそういうところがあった。この手の依頼は雑用に等しく報酬も高くないので冒険者からは敬遠されがちである。
それでもギルドの沽券に関わることなので請けたけど出来ませんでしたと依頼者に言うわけにもいかない。なので例えキングが請けなくても依頼期日が迫れば受付嬢から他の冒険者に話を持ちかける。依頼をそうやって捌いていくのも彼女たちの大事な仕事だからだ。
とは言え、率先して請けてくれる冒険者がいたほうが助かるのは確かであり、こういった依頼を進んで請けてくれていたのはキングであった。
「やれやれ復帰しても、あの性格じゃあいつが昇格するのにはしばらく掛かりそうかもな」
そんなことを口にするマラドナであったが。
「あのマスター少しいいですか?」
「うん、なんだ?」
すると一人の受付嬢がマラドナに話しかけてきた。何か要件があるようだが困ったような顔を見せている。
「実はその、依頼失敗の報告が一つあって」
「失敗かよ。まぁでも当然ないにこしたことはないが、これだけ依頼を抱えてればな」
「それはそうなんですが、その失敗の原因がウィンさんで」
その名前を聞いた途端、マラドナが顔を顰めた。
「あいつか……まさかまた魔法が暴走したのか?」
「は、はい。それで依頼の品を爆破してしまったらしくて」
「あちゃ~……」
ダーテが目を丸くさせている。思わずそんな言葉が出てくるほどやっちまった感があるようだ。
「あのエルフ娘が、全くこんなんじゃまたパーティー追放も時間の問題だろ。これじゃあキング二号だぜ」
「し、失礼なこと言わないでください! キングさんは依頼を失敗したことはありませんよ!」
「あ、あぁそうだったな。はぁ、まぁとにかくギルドからは厳重注意として伝えておけ。あまり失敗されると託せる依頼もなくなっちまうからな」
「はい、わかりました――」
そしてマラドナはやれやれ、とため息交じりに二階へと戻っていくのだった。
エルフの少女とは、さて……




