第20話 リバウンドを極めるもの
前回のあらすじ
熱き友の叫びがキングのハートに火をつけた。
「な、なんだありゃ」
「まるで槍が生き物みたいに動き回ってるぜ」
「違う、あれはそれぐらい奴の槍さばきが巧みなんだ!」
冒険者達がざわめき出した。戦いを見ていたマラドナも、思わず唸る。当然ギルドマスターでもある彼はハスラーの戦い方を承知していたが、しかし今の動きはレベルアップの影響もあってか以前よりもキレとスピードが増していると感じたのだろう。
確かにハスラーの槍さばきは達人と言って差し支えない程のものだ。彼が最初に起こしたアクションは一見するとただの真っ直ぐな突きのようであったがそこから大きく軌道が変化しキングの横から槍が迫ったのだ。
そして左右からや下から上からと信じられないような軌道で突きが放たれていった。だが、冒険者の中にはハスラーよりもキングに注目するものもいた。何故なら――
「確かにハスラーも凄いが……あのキングという男も相当だぞ」
「あぁ、あの変化に飛んだ突きを全て躱してやがる」
そう、キングはハスラーが放った刺突を全て躱していた。これにはハスラーも口笛を鳴らし、感嘆を漏らす。
そしてキングが飛び退き互いの距離が空いたところで仕切り直しとなった。
「あんたやるじゃん」
「これでも目は良い方でね」
キングが言った。キングは目が良い、だがこれは勿論生まれつきなどといった話ではなく、積み重ねてきた努力の賜物であった。キングが読んだスポ根漫画においては多くで目が大事とされていた。圧倒的な動体視力と視野の広さで仲間をサポートするキャラも多くいた。故にキングは技だけではなく徹底して目を鍛えたのである。
「はは、そうなんだ。でも感心したよ。これでも僕は無尽流無槍術の師範から免許皆伝を言い渡されるぐらいではあったんだけどね」
周囲の冒険者がざわめき出した。無尽流無槍術は長年続いた由緒ある流派で槍の名門でもある。その槍の動きは流麗かつ変化に富んだものであり、無尽流を極めたときその突きを見破れるものは皆無とされるほどである。
「凄いじゃないかあの流派からその若さで免許皆伝を言い渡されるとは」
「へへ、半年でね」
「おい、半年だってよ……」
「化け物かよ……」
ハスラーの豪快な発言に周りの冒険者も驚きを隠せていない。
「僕が才能ありすぎて兄弟子にやたら恨まれて襲われたんだけどね。そいつら全員倒したら師範がもう免許皆伝でいいから出ていってくれって言ったんだ。ま、歯ごたえなさすぎたけどね」
「ん?」
「キュ~」
ハスラーの言葉にどこか引っかかりを覚えるキングである。ボールも体をプルプルさせた。
「それで、あんたは何か流派に所属しているの?」
逆にハスラーから問われる。通常魔法を扱うタイプであれば魔法使いの師を見つけたりする。それと同じで戦士系であれば流派に所属することも珍しくない。
勿論我流で鍛え続けるものもいるが、大抵のものは限界を感じ自分にあった流派を選ぶのである。
「いや、私はあまり自分にあったものが見つけられなくてな。所属はしてないんだ」
だが、キングは流派には所属してなかった。引退するまでは我流を通してきたのである。尤もだからこそ漫画をヒントにした球技を柔軟に受け入れられたのだろうが。
「ふ~ん、つまり流派はないんだね。というかさっきからあんた避けてばかりだけど、武器とか持たないの?」
「うむ、武器か。そうだな、それで思いついたが、もし敢えて流派を名乗るのなら、俺の場合は闘球術といったところかもしれないな」
「とうきゅう術?」
ハスラーが小首をかしげた。耳馴染みのない言葉だったからだろう。
「そして君の戦い方を見させてもらって最適な球技を思いついた。ボール!」
「キュ~!」
キングが呼びかけると待ってましたと言わんばかりにボールが飛び跳ね、そしてその姿を変化させた。
「え? スライムが、変身した?」
「おいおいマジかよ。スライムってそんな力あったっけ?」
冒険者達がまたもや騒がしくなる。ボールの特技がそれだけ珍しく見えたのだろう。
「スライムが変身、そんなの俺だって聞いたこと無いぞ……」
「見た目が変わってると思ったけど、もしかして希少種なのかしら?」
マラドナは目を大きくさせて呟く。ダーテも不思議そうに首を傾げた。
「へー! 凄いねそのスライム! でも、そんな球になってどうするつもりなの?」
ハスラーは珍しいおもちゃでも発見したような笑顔で語りかける。
キングの掌には変化したボールが乗っていた。蹴球球より気持ち大きめな黒い線の入った茶色い球である。
「これは籠球だ。君の槍は千差万別な動きが特徴なようだが、これもそれに負けない多様な動きを見せる」
「へぇ~でも、それで一体何が出来ると?」
「俺が読んだ籠球の漫画にこのような言葉がある。リバウンドを極めるものは戦いを制する! と――」
声高々にキングが言い放つと、ハスラーはキョトンっとした。他の冒険者もそうであろう。言っていることがわからないのだから当然と言えるが。
「よくわかんないけど、だったらそのなんとかってのを見せてみてよ」
「うむ――」
そしてキングは変化したボールを操り、手で球をつきはじめた。ドスドスドス、と地面で球をバウンドさせる独特な動作。それにハスラーは目を丸くさせた。
「おい、なんだあれ?」
「さぁ、さっぱりわかんねぇ」
「あそこから一体どんな攻撃を仕掛けるというのかしら?」
見物している冒険者も実に興味深そうにしていた。それはマラドナにしても一緒で真剣な目で成り行きを見守っている。
「ではいくぞ、リバウンド!」
「うわっと!」
するとキングはなんとバウンドしていた球をそのまま押し込むようにしてハスラーへと放った。だがハスラーは飛んできたバスケットボールを上手いこと避けてみせる。
「いきなりだなぁ、でもそれがあんたの戦い方? 勿体ぶって球を投擲するだけって……」
「まだだ。言ったはずだ、これはリバウンドだと」
「は? 何を言ってグホォオオオ!」
目を丸くさせるハスラー。だが突如うめき声を上げて彼の背中が折れた。そのまま背中から倒れていくハスラーだったが、上手く地面に手を付けて着地する。
「な、一体何が? え? 球が――」
ハスラーは一体何が起きたのか理解してない様子だった。一方でハスラーに向けて放たれた筈の球はキングの手元に戻っており、再びバウンドさせていた。
「おい見たか今の?」
「あぁ、投擲された球が地面で跳ね返ってハスラーの背中を襲ったんだ」
冒険者が口々に今起きたことを話し始める。それでようやくハスラーも何が起きたか理解したようである。
「なるほどね……また随分な搦手で来たものだね」
「搦手? とんでもない。これが籠球の基本となる攻撃、自在跳弾だ」
地面で球をつき続けながらキングが語った。そして勿論だがキングは色んな意味で勘違いをしている。
だがそれも仕方ないと言えた。籠球においてキングが参考にしたスポ根漫画はスラムでダンクというものだった。
この漫画はスラムで生まれ育ちやさぐれていた主人公がストリートバスケと出会い、バスケを知り、そしてバスケをきっかけに人生を見つめ直し、バスケ選手として王者を目指すという漫画であった。
だがしかし、この漫画は主人公の過去の関係からギャング同士の抗争に巻き込まれたり、命を狙われるというシーンが多かった。だが主人公はバスケットプレイヤーとして武器を使って戦うような真似はしたくないと考え、その結果バスケットボールを利用して戦う術を身に着けたのである。
その際に身につけたのがボールの跳ね返りを利用したリバウンド技の数々だった。ボールの回転を活かした巧みな跳弾捌きによって群がるギャングたちを一網打尽、後に主人公はリバウンドキングの名を恣にする、そんな話だったのである!
故にキングにとってのリバウンドは戦闘用の技術にまで昇華された。まさにリバウンドキングの如くなのである!
スラムでダンク
第111リバウンド
俺はリバウンドキング
「I love basketball」
(自動翻訳:ボス、俺ほどバスケを愛しているのはいない、それなのになんで試合に出れないんだ!)
「You are Crazy」
(自動翻訳:駄目だな、お前のリバウンドに腹を立てた連中が報復を狙ってる、そんな奴を試合には出せない)
「I love basketball」
(自動翻訳:くそ! 黒っぽい組織の奴ら! 俺はこんなにもバスケットボールを愛してるってのにリバウンドでぶっ飛ばしたぐらいで逆恨みしやがって!)
「You are Crazy」
(自動翻訳:残念だが、今のままじゃどうしようもないのさ。ま、テメェの穴はせめてテメェで拭くんだな)
「I love basketball」
(自動翻訳:そういうことか、わかった、俺がしっかりケジメつけてきてやるよ)
「You are Crazy」
(自動翻訳:……信じていいんだな?)
「I'll be back」
(自動翻訳:俺を誰だと思っている? リバウンドキングだぜ)
「You are Crazy」
(自動翻訳:行ったか……あの時スラムでみせたダンク、あれがあればきっと、信じてるぞリバウンドキング!)
そしてリバウンドキングは黒っぽい組織の拠点へ――
「よぉ待ってたぜ」
「お前たち、どうして?」
「へへ、3on3には仲間が必要だろう?」
「……は、馬鹿な奴らだな。どうなってもしらないからな」
「素直じゃないやつだな」
「ところでお前、自動翻訳はどうした?」
「あぁ――自動翻訳は置いてきた、ハッキリいってあの精度じゃこの試合で使い物にならない」
――NEXT CONTINUE?
次回予告
黒っぽい組織のアジトに突入したリバウンドキング、だがそこで待っていたのは死のデスバスケだった! 果たしてリバウンドキングの運命は? 待て次回!




