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第14話 とある受付嬢の悩み

前回のあらすじ

幼女にめっ!された(´・ω・`)

「はい、これが今回の報酬です。これからも頑張ってくださいね」

「へへ、なぁ、良かった今度一緒に酒場へでもどうだい?」

「あはは、また冗談ばっかり。次のお方どうぞ~」

「ちょ、ダーテちゃん!」

「はいはい、どいたどいた。全くあんたも大変だよな。あ、これ素材買い取り頼むよ」

「はい、こちらの素材は――」


 冒険者ギルドの受付窓口にて、ダーテはいつもどおりテキパキと仕事をこなしていた。朝の依頼の受注ラッシュが終わると、次にやってくるのは終えた仕事の報告を捌く業務が待っている。


 その日の内に終わるような依頼であれば多くは夕方に殺到するが、時間の掛かる依頼などの場合は朝の受注ラッシュが終わった後に持ち込まれる事が多い。


 今はまさにその時間であった。勿論これにも波があり、ある程度落ち着くこともある。


 それでも受付嬢の仕事は見た目よりもハードだ。男が多めでむさ苦しくなりがちなギルドに華を添える程度の働きだろうと思われがちだが、書類整理や資料作成、依頼を出しに来るお客様への対応などその業務内容は多岐にわたる。


 その上で、荒っぽい冒険者の相手をしなくてはならないのだから、肉体的にも精神的にもハードだ。


 そんな中でも、ダーテの働きぶりはギルドマスターのマラドナが認めるほど。後輩からも好かれ尊敬されている。


 しかし、ダーテはここ最近、仕事に身が入っていなかった。いや最近と言うには長すぎるかも知れない。何せ1年近く心ここにあらずと言った状態で仕事を続けていたのだ。


 その理由は、キングが関係していた。ダーテは受付嬢としてキングの実力も仕事に対する生真面目な姿勢も、その勤勉さも、全てを買っていたし尊敬もしていた。


 しかし、にも関わらずキングはギルドマスターのマラドナによって追放され引退させられてしまった。そのことをダーテは今でも後悔している。


 もっと自分に出来ることがあったんじゃないか。引き止める方法があったのではないかと。しかもキングはそのことをきっかけに元受付嬢の妻にも逃げられている。


 それを思うと、申しわけ無い気持ちでいっぱいであり、そして心苦しくもある。勿論これはダーテのせいではない。ただ、最後にキングが入ったパーティーを紹介したのはダーテであった。


 だが結果としてそれがキングにとって止めとなってしまった。これとてキングには全く落ち度は無く、キングには止められていたが、それでもダーテはマラドナに直談判した程だ。しかし結局その訴えが聞き届けられることはなかった。


 あれから1年が過ぎた。もう割り切ってもいいのだろうが、ダーテの元々の責任感の強さがそれを認めなかったのだろう。


 それにキングがいなくなったことで他の冒険者の悪いところがより目につくようになったというのも理由としては大きいか。ダーテはギルドマスターに失望し、自分の不甲斐なさを悔やみ、そして多くの冒険者のいい加減さにうんざりしていた。


 こういったいろいろな事が重なり、どうにも仕事に身が入らない日々が続いている。尤もこれはダーテ個人の評価であり周りからの評価は相変わらず仕事の出来る女だ。


 例え心ここにあらずであっても自然と体が動いてしまうのは流石と言えるだろう。


 尤も、そういったマイナス思考を少しでも払拭するために、自然と体が動いてしまうという部分もあるのかもしれない。


 それから暫く冒険者に応じ妙な誘いも軽くうけ流しながら仕事を続けるダーテであったが。


「しかしあのおっさん冒険者がいい人で助かったな」

「全くだ、俺たち散々馬鹿にしたからな。あれで性格が荒っぽかったら今頃俺たち……」

「そう思うとゾッとしないな」


 そんなことを口にしながらダーテに近づいてくる三人の冒険者。


「この素材を買い取って欲しいんだよね」


 頭を切り替えて冒険者達に応じるダーテ。この三人の事は知っている。最近になってD級に昇格した冒険者たちだ。そのためかここ最近は妙に気が強くなっている様子だ。


 モンスターに悩まされている小さな村まで行って狩るといった依頼をよく請け負っている。これまで失敗はないせいか調子づいているところがあるが、解体が致命的に下手なのが欠点だ。


 そのため査定ではいつも減額されており、買取不可となったり最低金額での引き取りになることも多い。一度それで揉めたことがあるため、査定するのにも気が滅入るが相手の好き嫌いで仕事をしていては受付嬢などつとまらない。


 ダーテは彼らの持ち込んだ素材を見た。そして――


「え? なにこれ凄く綺麗! 本来の素材と比べると皮も少なめだけど、解体に全く無駄がないわ。熟練した解体師のそれと遜色ない、いえ負けてない! あなた達一体いつの間にこれだけの技術を?」


 思わず驚きの声を上げ、その美しい解体ぶりに目を見張った。それほどまでの処理であったがしかし納得いかない部分もあった。ここまでの解体は一朝一夕で出来るものではない。ついこないだまで目も当てられないほどに解体が下手だった彼らが出来るようなものではないのだ。


「いやぁ、俺らも頑張ったから、なぁ?」


 しかし、ダーテは訝しそうに彼らを見た。それにたじろぐ三人であり。


「本当は、馬車で乗り合わせた冒険者がやってくれたんだよ」

「中年のおっさん冒険者で、たった一人でブラッディベアを退治しちまったのさ」

「最初はただの変態だと思ったのになぁ」


 そんなことを言う三人に、まさか、とダーテは目を輝かせた。


「その冒険者、キングという名前じゃなかった?」

「名前? そういえば名前はきいてなかったな」

「そうだな、あぁでも妙なスライムを連れていたぜ」

「スライム?」


 目を丸くさせるダーテであり、そしてため息を付いた。勘違いだなと思った。キングはスライムなんて連れて歩いていないしテイムの魔法も使えないからだ。


 結局その冒険者が誰だったかは不明なまま査定をし、それに見合った金額を支払った。この話はこれで終わりかなと思ったダーテであったが……しかし他にもブラッディベアとの戦い振りを見ていた冒険者がいて、その話を耳にすることとなった。どうやらかなりの腕利きの冒険者のようだが、ダーテには見覚えがない。


 もしこの町を拠点に活動しているならわかりそうなものだが、もしかしたら別な町からやってきたのだろうか? などと思いつつ、そして午前中、ようやく冒険者の列も途切れ、一息つける時間となった。


「先輩、紅茶飲みます?」

「ありがとう。助かる」


 後輩の気遣いに感謝しつつ、肩を揉んだ。ただ、冒険者相手の対応が終わっても今度は書類関係の仕事が待っているのでそこまでのんびりもしていられない。


「やぁ、中々大変だったみたいだね~」

「あ……ハスラーくん」


 ひと仕事終えたダーテに声が掛かった。見ると金髪の少年がニコニコとした笑顔で立っている。肌もつやつやしていてはりがあり、若々しさ溢れる少年だった。


「それで、申し訳ないのだけど僕の報告も聞いてもらっていいかな?」

「……えぇ勿論」

「きゃ~今をときめく期待の新星、ハスラーくんよ!」

「いやだ可愛くて格好いい……食べちゃいたい……」

「若干16歳にしてB級冒険者に昇格した天才槍使い……あれがか」

「チッ、なんだただの餓鬼じゃねぇか。あんなの俺でも一捻りだぜ」

「だったらちょっと挑戦してみろよ。ちなみにオーガーブロスをたった1人で軽々と伸しちまうぐらいの腕はあるらしいけどね」

「へ、へっ! 今日は大目に見てやるよ!」

 

 ハスラーの登場で随分とギルドにいる皆の注目が浴びせられることとなった。ダーテは少し困ったような顔を見せている。

 

 熱い視線を注ぐのはギルドの受付嬢たち、一方で冒険者は興味深そうに見ている者もいれば、妬みと嫉妬が入り混じった視線を向けているものもいた。


 その様子にダーテはため息を吐く。どうしてもハスラーに対応する彼女にも注目が集まってしまうからだ。


「依頼品は……ダイヤモンドゴーレムの目と心臓ですね。そしてこれがその対象となる素材と、このダイヤモンドは依頼とは別ということで?」

「そう、売却希望で」

「お、おいダイヤモンドゴーレムだとよ……」

「倒せば一攫千金とも称される魔物だが、魔法は反射するし、物理攻撃は通りにくいしで1人じゃ先ず倒せないような魔物だろ?」

「あぁ、限りなくAに近いB級モンスターだしな……だが、他に仲間がいないあたり、1人でやっつけたのかよ……」


 ハスラーがニッコリと微笑む。周囲から驚愕の視線が降り注いでいた。ダイヤモンドゴーレムは素材の価値が高く、確かに一体でも倒せればその利益は計り知れない。今回依頼されたダイヤモンドゴーレムの目と心臓はそんなダイヤモンドゴーレムの素材の中でも特に高い値がつく。問題なのはダイヤモンドゴーレムを倒してしまうと目や心臓が傷つきやすく、少しでも傷がつくと大きく値が下がってしまうことにある。

 

 そのため今回の依頼においても条件は無傷であることだった。しかし彼はその要求通りの品を見事手に入れたのである。


 その上で持ち運べる量のダイヤモンド、つまりダイヤモンドゴーレムの胴体の一部も持ち帰ったようだ。ダイヤモンドゴーレムは大型のモンスターな為、流石に全ては持ち帰られなかったのだろうが、これだけでも相当の価値があるのは確かだ。


「ねぇ、良かったらこのダイヤモンドで指輪でも作って上げようか?」

「結構です」

「そんなこといわずにさぁ。あ、ついでにデートでもどう?」

「大人をからかわないの」

「俺、冗談でこんなこといわないぜ?」

 

 周りで見ていた受付嬢からキャ~というハイテンションな叫び声が聞こえてきた。大きく息を吐くダーテ。


 これがあるから彼女はあまりハスラーの受付はしたくはなかった。ハスラーは顔を合わす度にこんなことを軽々と口にしてくる。


 ダーテはそういったからかうような発言を全て躱してきた。彼女は彼の好意と思える言動を全く本気にしていなかった。そもそも相手にもしていないというのもある。


 ハスラーは確かにいま注目の冒険者だが、まだ16歳。一方ダーテは22歳で今年23歳になる。感覚的には精々弟程度にしかみられないのだ。


 それに、本人は気がついていないが実はダーテは年上好きでもある。故にキングを気にかけてしまうところもあるのだが、好きかどうかについては否定を続けてもいる。尤も少し前まで相手には妻がいたというのも大きいのかも知れないが。


「本当に本気なんだけどな」

「冗談も度が過ぎると怒りますよ。それじゃあ、奥で鑑定してもらうので一旦預かりますね」


 持ち込まれた素材は先ず受付嬢が見た後、奥の解体担当にも見てもらう。その上で問題がなければそれに応じた報酬や買い取り分の金額が支払われるのだ。


 ダーテはギルドに併設された解体所へ行き、担当の解体師に素材を見てもらう。綺麗な処理だと褒められ依頼は達成となり、買取査定も満額とされた。


 それらの結果を書面に纏め、そして受付まで戻るダーテであったが。


「はい、つまり新規登録ということで宜しいのですね?」

「いや、新規というか……実は一度冒険者を辞めていてね。だけど思うところがあって冒険者稼業を再開させようと思ったわけだが」

「キュ~」

「はぁ……てか、何でスライム?」


 ダーテの目が驚きに満ちた。何故なら受付カウンターで後輩の受付嬢が対応していた相手は、一年前にマラドナに追放され冒険者を引退し、この町を去ったとされたキングその人だったのだから――

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