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スポ根マンガを参考に球技を極めたら最強の武術だと勘違いされた!~魔球と必殺シュートでドラゴンや魔王もふっ飛ばす!~  作者: 空地 大乃
第2章 球技を扱う冒険者編

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第13話 友だちを蹴るのは酷いこと?

前回のあらすじ

必殺シュートで虎が出た

「ボールちゃんに酷いことしちゃ駄目!」


 その場に居合わせた多くの人間がキングに関心を示す中、外に出てきてボールを心配していた幼女だけがキングを叱るように叫んだ。


「蹴ったら痛いの! ボールちゃん可愛そう、友だちを蹴ったら、めっ! なの!」


 どうやら幼女はキングがボールを虐めたと思っているようだ。確かに目の前で友だちだと言っていたボールを思いっきり蹴ったのだから幼女の心境としては可愛そうという感情が先立つのだろう。


 その様子にキングは弱ったな、と頬を掻いたが。


「キュ~」

「ふぇ?」

「こ、これは一体……」


 なんとキングが身につけているプロテクターの内側からボールが飛び出してきた。これには幼女もその父親も驚いている様子だ。


「おいおい、じゃあこっちは、て、お、おい!」


 冒険者の一人がキングから飛び出たボールを見て、どういうことだ? と白黒混じりの球体に変化したボールを見ると、ポンポンっと跳ねながらキングの元へと戻っていった。そしてキングに迫ったところで元のスライムに戻り。


「わぁ~ボールちゃんが二人だ~」


 ここで二人とスライムを人と同じように数える辺りが幼女の純真さを物語っている。

 元に戻ったボールは幼女に受け止められプルプルと震えた。すると幼女がボールを撫でて。


「ボールちゃん痛かったよね?」


 そう心配そうに問いかけた。だが、ボールは左右にプルプルと震えて無垢な幼女に訴える。


「え? どうしたの?」

「キュ~!」

 

 するとまた白黒の球体に変化しキングの足元に転がった。その様子にボールの言いたいことを察したキングはボールを蹴り上げ、そして膝や頭、肩でボールが落ちないように弄び始めた。スポ根漫画でみたリフティングという技術である。


「え? ボールちゃんどうして?」

「……ボールは心配いらないって訴えたいのさ」


 するともう一体のボールもぴょんぴょんっと跳ねてそうだよ~と意思表示した後、球に変化しリフティングの中に加わった。


「でも友だちなのに……」

「お嬢ちゃんは優しいね。でも、友だちだからこそ信頼している。だから思いっきり私も蹴れる。ボールは確かに友だちだが、信頼しあえるパートナーでもあるんだよ」


 キングがボールをポンポンっとリフティングしているとどこか嬉しそうにキュ~っと鳴いた。すると幼女は、そっか~酷いことされたんじゃないんだね! と笑顔で答えてくれた。どうやら理解されたようだ。


「でも、すっご~い」

「あぁ、確かに大道芸でもこんなのみたことないぜ」

「いいぞもっとやれ~」


 幼女はキラキラした目でキングの技術を堪能していた。周りの人々も面白そうにその光景を見ている。どうやらわかってもらえたようだと、キングも安堵の表情を見せるが。


「ところで、その、何で二体に?」

「あぁ、ボールは自由に分裂が出来るんだ」

「ぶ、分裂! そんな事もできるんですね……」

「ま、まぁ確かにスライムの中には分裂するものもいるが……でも変身はきいたことがねぇなぁ」


 後ろの馬車に乗り合わせていたらしい冒険者がそう呟いて頭を擦った。スライムの生態をある程度知ってるようだがそれでもボールのようなスライムは記憶にないようだ。


 ちなみに分裂はキングも数ヶ月前に知ったことだ。キングは球技においてボールを蹴ったり投げたり打ったりした後、ボールが自分から離れている間、何もできなくなることが欠点だなと考えていた。


 だがそんなキングの悩みを察したようにボールが分裂してみせたのである。つまりこれで事実上球の数に心配する必要がなくなったわけだ。分裂できる数もかなり多く、少なくとも百球分の分裂したボールで蹴ったり投げたりの練習を繰り返してみたが問題なかった。

 

 そして二体のボールは再び融合し元の一体に戻ってみせ、キングの腕の中に収まった。


「分裂したら普通小さくなったりするんだが全く変わらないんだな……」


 その様子を見ていた冒険者はとても不思議そうな顔を見せた。それからも乗客たちから感謝されるキングとボールであり。


「な、生意気なこと言ってすみませんでした……」

「まさかこんなにお強いとは、馬鹿にした自分が恥ずかしい」

「ただのロリコンなキモいおっさんだなんて思ってたけど凄い人だったんだな。尊敬するぜ!」


 あの三人の冒険者も自分たちの行いを反省し謝罪してきた。一人ばかり謝罪とも言えない内容な気もしないでもないが見直してくれたのは確かなようである。


 そしてその後は倒したモンスターの素材を分け合う話となった。三人の冒険者はとても貰えないと一度は遠慮したが、乗客を守ろうと果敢にモンスターに挑んだのは一緒だからと言ったら、更に尊敬されることとなった。


 結果としては三人の冒険者はビッグディアの素材から売れそうな分だけを回収し、ブラッディベアは流石に受け取れないということで落ち着いた。ちなみに解体はついでだからと全部キングが行った。

 

 ブラッディベアにかなり傷つけられたので、ビッグディアの素材で売り物になりそうな部分はかなり減っており申し訳なくも思ったキングだが、どうしてもと言うことで素直に受け取ることにしたキングである。


「あんたの解体すげーよ……十分値がつくと思うぜ」

「傷ついた部分をしっかり取り除いているし全く違和感ないしな……」

「ただの変態だと思ってた俺が恥ずかしい」


 それでも三人には随分と感謝された。どうやらこの三人あまり解体は得意でないらしい。


 またこの働きによって乗車賃も無料となった。キングとしてはそこまでの相手ではなかったので、得した気分でもある。


 そしてオフサイドの町に到着し、門番のチェックを受けた後、街に入りそこでキングは馬車を降りた。


「おじちゃん、ボールちゃん、またね~」

「キュ~♪」


 幼女に手を振られキングも手を振り返す。ボールもポンポンっと跳ねて幼女にお別れの挨拶をしていた。父親も頭を下げていたが、モンスターから助かったことへのお礼の意味もあったのだろう。


 キングも会釈しつつ、久しぶりにやってきた町並みを確認する。久しぶりと言っても1年だ。そう大きな変化はない。


 町の構造もしっかり頭に残っていた。オフサイドの町は人口が五千人級の町だ。町としてみれば中規模クラスと言える。


 とはいえ市場などは活気に溢れているし、商人の出入りも多い。


 キングはこの町で再び冒険者として復帰しようと考えている。この町でキングは冒険者稼業から引退した。尤も扱いとしてはギルドマスター自ら追放を言い渡された形であり、そう考えたならこの町での復帰は難しいかも知れない。


 だがそれでもキングはこの町で再びやり直そうと決めた。自分を追放という形で引退させたギルドマスターに納得させた上で復帰しなければ意味がなく、それがケジメの付け方だと考えたのだ。


 それに、そのことから逃げていては堂々と復帰したとはとても言えない。


 なのでキングは冒険者ギルドに向かうが、その前に一つ立ち寄るところがあった。


「――お久しぶりです館長」

「うん? おお! キングじゃないか。これまた随分と久しぶりだねぇ」


 そう、キングが立ち寄ったのは彼が立ち直るきっかけを与えてくれた図書館であった。


「町を出たと聞いていたけど戻ってきたんだね」

「はい。色々と考えて、やはり俺には……」

「ふむ、冒険者の道しかないと、そう考えたのかな?」


 館長がズバリとキングの考えを言い当ててきたので、何でもお見通しか、と頬をかいて微笑する。


「これも館長のおかげです。あの時館長に出会って、あの本を頂けたことで俺もまた冒険者になれる希望を見出せた」

「はっは、私は何もしちゃいないさ。あの本が助けになったとしてもそれをきっかけに変わったのはお前さん自身じゃないか」


 そう言って館長は朗らかに笑った。その姿を見ているだけでキングもどこか安心してしまう。


「キュッキュッ」

「はは、それにしてもまた、随分と可愛らしい連れを見つけたものだね」

「はい。ボールといって俺の友だちなんです」

「へぇ、スライムの友だちとはまた珍しい。でもらしいっちゃらしいかね」

「キュ~♪」

 

 館長が持ち上げると、ボールが嬉しそうに鳴いてプルプルと震えた。どうやら館長を気に入ったようだ。


「ならこれからギルドに行くのかい?」

「はい。納得してもらえるかはわからないですがね」

「何、きっと大丈夫さ。なんだか顔つきも変わったし、体だって見事なものだ。見違えたよ。きっとそれだけの努力を積み重ねてきたんだろうさ。ならお天道様だってきっと見ていてくれる。今日は外だって晴天の青空がひろがっているからねぇ」

 

 館長にそう言われ、キングは更に笑顔を深めた。確かにあの時ここに立ち寄った時はキングの気持ちを象徴するように空はどす黒く雨だって降っていた。だが今日は晴天、キングの気持ちも館長と再会できたことでより晴れ晴れとしたものとなった。


「では、行きます」

「あぁ、頑張ってきな。また気が向いたらおいでよ」


 館長に見送られながら、キングはその脚を冒険者ギルドに向けた。冒険者としての再起をかけて――

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