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第12話 必殺シュート!

前回のあらすじ

馬車に乗った。

 モンスターの出現に乗客たちが色めきだった。街道を移動中にモンスターと遭遇するというのは冒険者からしたならそれほど珍しいことではないが、一般人からしたなら話は別だろう。


 当然馬車は一時的に動きを止める。するとキングを小馬鹿にしていた冒険者達が任せろと言わんばかりに馬車の外に飛び出した。


「おいおっさん、ここは俺達に任せとけよ」

「そうだぜ。スライムを連れている程度のテイマーが格好つけるなって」

「あれ? でもこいついつの間に出ていたんだ?」

 

 そう、三人の冒険者が外に出た時には既にキングはボールと表に出て、モンスターの様子を観察していた。


「ボールちゃん、だめだよ~危ないよ~」

「キュ~?」

「あ、こら駄目だってば!」


 すると今度は馬車から父と娘の親子連れが出てきた。娘はどうやらボールが心配だったようだが、父はそんな娘が心配だったようだ。


「はは、おいあんた、あんな小さな子に心配されてるぞ?」

「それだけ頼りないってことだな」

「というか、こいつもうビビって動けてないんじゃないの?」


 三人の冒険者はキングを見て、何も出来ずにいると思ったようだ。確かにキングの視線は現れたというモンスターに向けられているが、何かを考えたまま動こうとしない。


「な、なぁ、あれ、なんとかなりそうか?」


 御者が心配そうに冒険者に訪ねてきた。すると三人の一人が鼻を鳴らし。


「は、何かと思えばビッグディアか」

「三匹いるが、問題ないな。あれはそこまで強くない」

「だけど、肉は食用に角と皮も素材として売れるからな。ちょっとした小遣い稼ぎにはなるか」


 そんなことを口にして笑う三人。正面にいるのは大きな鹿といった様相のモンスターだが、その等級は確かにそれほど高くない。


 だが、キングは顎を擦り。


「やはりおかしい……」


 そう口にした。それをみた冒険者たちは大口を開けて笑い。


「おかしいってあの大きさの鹿を見たのは初めてってか?」

「おいおいあれはこの辺りじゃわりとよく見るモンスターだぜ?」

「春先になると動き出すからな。本来ならE級程度の冒険者が狩るような獲物だ」

「確かに森の中なら遭遇する確率は高いだろう」


 あざ笑うように口にする三人だが、キングはそのまま自分の考えを口にしていく。


「だが、ビッグディアはあまり人前に姿を見せない。畑などがある場合は作物を狙って畑を荒らしていくので討伐依頼が出ることもあるが、近くに畑のない山の場合は基本山の中だけで過ごす。臆病なモンスターだ。街道に積極的に出てくることも本来考えられない」


 キングの言葉に、三人は顔を見合わせ、そして渋い顔を見せた。


「もっともらしいことを言いやがって」

「大体、現にそこにいるじゃねぇか」

「いや、だからこそ注意したほうがいいと……」

「は、つまりはビビって動けねぇってことだろ? やっぱスライム程度連れ歩いているだけに情けないおっさんだ」

「どう思ってくれても構わないが、見たところあのビッグディアはパニックを起こしている。人間と遭遇しただけであれは考えられない。何か別なモンスターに」

「わかったわかった。もういいからそこで見てろ」

「俺らであっさり片付けてやるよ」

「俺が先ず魔法で動きを止めよう」


 キングの忠告になど聞く耳持たず、三人の冒険者が前に出る。そして杖持ちが杖で術式を刻み。


「誘え夢の世界へ――スリープクラウド!」


 三匹のビッグディアを包み込むような雲が現出し、かと思えばモンスターがあっというまに眠りについた。


「よし、流石!」

「これで一方的にやれる」

「!? 待て! 駄目だ不用意に近づくな!」


 だが、そこで何かに気がついたようにキングが叫んだ。だが杖持ちは何言ってるんだこいつ? といった顔を見せ、他の二人も足を止めようとしない。


 だがその時だった。街道の脇にある森の中から一つの影が飛び出し、眠りについたビッグディアの喉笛に喰らいついた。悲鳴を上げるまもなく鹿のモンスターは死に、更に残り二体も爪で切り裂き足で踏み、そして馬車の方を振り向いた。

 

 前に出ていた二人の冒険者の動きが一瞬にして止まった。目の前にいたのは赤い毛をした大きな熊だった。ビッグディアを殺した際に生じた出血を浴び、ただでさえ赤い毛並みがより不気味な色に染め上がっている。


「ぶ、ブラッディベアだとーーーー!」

「そんな、なんでこんなところに!」

「あ、あわ、あわわわ……」


 冒険者たちの緊迫した叫び。杖持ちの男に関しては見ただけでその場にへたり込んでしまった。


「やはり、追われていたか――」


 三人の冒険者にとっては予想外の相手なようだが、キングにはある程度読めていた。勿論ブラッディベアとまでわかったわけではないが、獰猛なモンスターに襲われ逃げてきたのだろうという予想は出来た。


 そうでなければビッグディアが不用意に街道に出るとは思えず、また馬車を見たからとパニックになるとも思えない。ビッグディアはもし馬車に遭遇したとしても自分から逃げていくことが殆どだ。


 だが。既にこの熊のモンスターに追われていたからこそ、馬車ともかち合いパニックを引き起こしたのだ。


「や、やべぇよ。ブラッディベアとかC級モンスターじゃねぇか」

「俺らじゃこんな相手とても――」


 ついさっきまで意気揚々としていた冒険者たちもすっかり戦意喪失してしまっている。ブラッディベアはC級モンスターな上、討伐にはパーティー必須とされる。推定レベルは22だ。


 その時だった。ブラッディベアが大きく息を吸い込み始めたのは。


「あれは、ブラッドカードイング(血も凍える叫び)! いかん!」


 ブラッディベアが持つ特殊能力の一つ、それがブラッドカードイングである。この叫びは直接血液に作用しレベルが低い場合は血が凍ったように止まり絶命する。

 

 例え死なないにしても精神力が低いと意識が持っていかれる。効果は相手との距離が近ければ近いほど受けやすい。遮蔽物がある場合効果は著しく落ちるため、馬車の中にいる乗客は影響を受けない確率が高いが、今外に出てしまっている親子や御者は危ない。特に娘は間違いなく耐えられないだろう。


 それに近くで腰を抜かしている冒険者たちも危険だ。あの様子からして間違いなくC級以下で恐らくD級だろうとキングは推測する。


「ボール!」

「キュッ!」


 キングが呼びかけると、任せて! と言わんばかりに応じ、そして形を変化。白と黒の混じった球体となりキングの足元でスタンバイした。


「そっちが熊なら俺は虎だ! 猛虎蹴弾(ディーガーシュート)!」

「友だちを蹴ったーーーーーー!」


 球体に変化したボールを思いっきり蹴るキングに、幼女の父親が驚愕した。娘も、ひゃ~、と驚いている。

 

 だが、問題ない。これは友だちだからこそ、信頼しているからこそ出来る必殺シュートなのだから。


 そしてキングに蹴られたボールはモンスターに向けて直進し、その途中でなんと虎になった。比喩ではなく光り輝く虎になったのだ。


 そして今まさに叫ぼうとしていたブラッディベアの喉笛に噛みつき、そのまま押し倒した。間もなくしてモンスターから鮮血が飛び散り、そして絶命した。役目を終えた虎がボールへと戻る。


 辺りはすっかり静まり返っていた。ブラッディベアが倒されたこともそうだが、キングの行為に誰もが言葉を失ったのだろう。

 

 キングを馬鹿にしていた冒険者たちも唖然としていた。だが、それから一拍おき……御者が凄い、と呟いた直後だった。


「「「「「う、うおぉおおぉおぉおお! すげーー何だ今のーーーーーー!」」」」」


 そんな大歓声が鳴り響く。明らかにキングが乗ってきた馬車の乗客より多いが、後ろを振り向いて納得した。どうやら他の馬車も通りがかっていて、モンスターがいたことで立ち止まらざるを得なかったようだ。


 そんな中、モンスターに挑んでいるキングに興味を持ち、外に出て様子を見ていたのだろう。


 だが、そうなるとブラッディベアの雄叫びを防げたのは大きい。そうでなければ彼らの中からも犠牲者が出ていたことだろう。結果的にキングはその磨き上げた球技で多くの人を救ったのであった。

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