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幕間後編

前回のあらすじ

ギルドマスターのせいで受付嬢の機嫌が悪いのだった

(おっといかんいかん、ついつい仕事と関係ないことを――)

 

 キングのことをふと思い出し、暫く考え込んでしまったマラドナであったが、頭を切り替え仕事を再開させた。そんなときだった、扉がノックされ、マラドナが入るのを許可すると、受付嬢のダーテが入ってきた。


 相変わらず冷めた顔をしていた。以前ならもう少し愛想が良かったと思うが、今ではマスターに対して常にこんな顔である。


 やれやれと嘆息するマラドナであったが、ふとその視線が彼の摘んでいた菓子に向けられた。


「お、おお、この菓子が食べたいのか? ならいいぞ。まだあるから好きに摘め」

「……摘めって、それ私が後で食べようと取っておいたお菓子なんですが」


 ゴホッホゴッ! とマラドナが咳き込んだ。まさかこのお菓子がダーテのものだったとは――


「そ、それは済まなかったな。返そうか?」

「もう結構です。意地汚いマスターがいることを忘れていた私にも非がありますから」


 当然皮肉である。ただでさえ冷たいダーテの態度がより悪化したのをマラドナは感じ取った。今の状況でこのミスはあまりに間が悪い。


「う、うむ、それで用件はなんだ?」

「はい。先ずはこの報告書を」


 そう言って用紙を一枚差し出してくる。綺麗な白色をした紙であった。少し前までは紙といえばモンスターの皮を利用して作られた皮紙が殆どであり異世界の勇者が残したような白い紙は希少であったが、ここ最近の魔法技術の発展で植物性の紙が量産されるようになり価格もかなり抑えられるようになった。ただ保存性に欠ける為、重要書類などは今でも皮紙が扱われ、そのため価値は逆転し今では皮紙の方が値が上がってしまっている。


 マラドナは提出された報告書に目を通し、そして腕を組んで唸り声を上げた。


「ゴンダーラだと? こんなものがあの谷に出たってのか? ボランチ山脈でも見られないようなA級モンスターじゃねぇか……」


 A級モンスターとは文字通りA級クラスの冒険者でなければ倒せない程度の脅威であるという意味である。尤もこれは細かく言うとA級単体で倒せるのかパーティーを組んでないと厳しいのかといった違いがあり、このあたりの補足は依頼書に記載されることとなるが――


「ゴンダーラですが、商人がよく利用する道を塞ぐように鎮座しており、このままでは町への移動が困難と思われます。商業ギルドからも出来るだけ早く対処してほしいと催促が」

「んなこといわれてもよぉ……」


 確かにこの街道が塞がっているとなると、バゲタウェイの町に行く道が閉ざされてしまう。北のボランチ山脈を越えるという手がないこともないが、この山脈には凶暴な魔物が多い上、冬になるとより危険度が増す。


 ただでさえ冬山を越えるのは困難だというのに、出現するモンスターも冬にしか見られない強力なタイプが多いのだ。


 だが、かといって今すぐ対処できるかと言えばそれも別な話であり――


「もう冬は来ているんだ。この時期は冒険者の脚は鈍い。秋までに稼いで冬は休むって奴らも多いんだからよ」

「それを私に言われても」

「くっ、そりゃそうだが……」

 

 愚痴るように口にするマラドナだが、ダーテの態度は淡々としていた。


「今現在、動けそうな冒険者どれぐらいいる?」

「この時期は家へ帰宅している冒険者も多いですし、そもそもギルドに全く顔を出さない者もいます。繁忙期に比べれば半分もいないかと」


 マラドナは頭を抱えた。わかっていたことだがやはりこの時期は休むものも多い。冬場は大変な割に実入りが低いというのもあるし、全体的に依頼の数も減りがちだからだ。冒険者には一旗揚げようと小さな村から出てきたような者も多い。そしてそういった冒険者は比較的仕事が減る冬の間に帰省して暫く生まれ故郷で過ごしたりする。

 

「動ける冒険者の実力は?」

「B級以上の冒険者は全くいません。長期依頼を受けていたり、ダンジョンのある町に出稼ぎに行ったりしていますから。後はC級冒険者が数名、パーティーではなくそれぞれ単独で動いている冒険者です。それ以外はD級のパーティーがそこそこといったところですね」

「……それでゴンダーラは無理だな」


 ゴンダーラはA級モンスターとされるが、かといって単独で倒せるほどの冒険者はほぼいない。挑むならいくつかのパーティーを集って挑ませる必要がある。


 こういったタイプの依頼は討伐依頼と呼ばれ、更にモンスターのタイプによって単独であったりパーティの規模で表されたりする。規模は小規模、中規模、大規模とあり、当然大規模が最も人数を必要とする。


 そしてこの中で言えばゴンダーラ討伐は中規模程度といった内容となる。小規模の場合は一パーティーを四人平均と見て、一パーティーから三パーティー程度であり、中規模で四パーティーから十パーティー程度、大規模はそれより上となる。


 勿論この編成はある程度相手の等級に合わせた形での場合であり、条件が悪ければさらに人数が必要となることも往々にしてあるわけだが。


「ゴンダーラはとにかく硬いモンスターだ……物理的攻撃は通りにくい。魔法なら多少はマシだが……」


 それでもゴンダーラはゴーレムと同じ系統に属するモンスターでもありかなり大きい。魔法で攻略しようにもそう簡単ではないのだ。


 しかもゴンダーラは力が強く、振り下ろした拳の衝撃だけでも相当なものだ。その上ダイナミックハンマーと呼ばれる技も使用する。全方位に衝撃波を放つこの技だけでも厄介なことこの上ない。


 推定レベル45の力は伊達ではないということだ。


「……もしキングさんがいたなら、何とかしてくれたかもしれませんね」

「――お前はあいつを過大評価しすぎだ」


 確かにレベル50時代のキングがいたなら話はまた違ったかも知れない。だからといって一撃で倒すような真似は出来ないだろうが、上手く他の冒険者と連携して渡り合ってくれたことだろう。


 だが、そのキングはもういない。ましてや引退しなかった場合など話にならない。例え今この場にキングがいてもこの依頼は引き受けさせないだろう。


「……とにかく、せめて調査ぐらいはさせておこう。動かせるC級冒険者の中で斥候系の奴を仮のリーダーとして後は調査向きな冒険者で編成させて動かしてくれ」

「つまり指名依頼で出せと?」

「そうだ。こんな割の合わない依頼、ただ掲示板に張り出したって誰も請けやしないさ。だから指名でやってくれ」


 わかりました、とだけ返しダーテが部屋から出ていった。一息ついて紅茶を啜る。これから調査に向かって戻ってくるのは4、5日先かと考えた。


 勿論それでは何の解決に繋がるとも思えないが、何もしないよりはマシと考えた。それに一応は動く姿勢を見せておけば商業ギルドへの言い訳も経つ。


 そして依頼を出してから4日後のこと――


「……調査が終わったようです、というより、その、討伐されたそうです」

「ブフォ!」


 ダーテからの報告を聞いたマラドナは思わず口に含んでいた紅茶を吹き出した。


「ゲホッ、お、おい! 聞き間違いか? 今、討伐されたって?」

「いえ、聞き間違いではないのです。実際ゴンダーラの素材の一部も持ち込まれましたし、流石に全部はもってこれなかったようですが」

「そ、そりゃあんな重たい素材、何の準備もなく持って帰れるわけないが、なんだ? 依頼した連中が倒したのか?」


 だったら大金星が過ぎるぞと考えるマラドナである。


「いえ、調査に向かった冒険者は自分たちではないと言い切ってます。その、なんでも現地に向かうとゴンダーラの姿がなく、脇にゴンダーラの素材だけが置かれていて、崖に文字が刻まれていたそうです」

「文字だって? なんと刻まれていたんだ?」


 これまでマラドナに冷たい態度を取っていたダーテでさえ、どこか動揺が見られた。それ程驚くべき案件なのだろう。


「そこには……『止めを刺してしまって申し訳ない。残った素材は好きにして欲しい』と記されていたそうです」

「……は?」


 マラドナには意味が理解できなかった。道を塞ぐゴンダーラなどどう考えても厄介なモンスターでしかなく、それを倒したとあったなら感謝こそされ非難されることなどないのだ。


 にも関わらず謝罪の言葉を残し、あまつさえ素材が残されている……いや、たしかにゴンダーラから取れるゴンダーラ石は重く、運ぶのも一苦労だが、建築材料としては価値が高い。そのまま捨て置く理由が全く無いのだ。何せ自分で運べないなら町に戻ってギルドを通して回収をお願いしても十分お釣りが来る。


「……あの、報告を聞いて思ったのですが、これ、まさかキングさんがやったのでは?」

「は?」


 マラドナが何を馬鹿なといった目でダーテを見た。何せ引退した時のキングのレベルは25。しかも今では更にレベルが下がっている可能性が高い。


「それはねぇよ。だが、一体誰がやったのか……とにかく、素材を回収させて確認するか」


 こうしてマラドナの命令で素材回収のための班が動き、間もなくしてギルドにゴンダーラの素材が届いたわけだが、その砕かれ具合に更に驚くこととなるマラドナなのであった――

廃部、急!?

第2アタック

試合妨害

前回のあらすじ

主人公の爆零バレーが所属する排球部はあまりに弱すぎると急に廃部が決まる。納得できない爆零は頑張って仲間とマネージャーを集め強豪アタック高校との練習試合にてアタック一発でコートを爆発させ選手全員を病院送りにし見事勝利を収めたのだが――

「監督! 試合が組めないってどういうことですか!」

「それがだ、どこの高校に電話して試合を申し込んでみても、コートを爆発させるような連中と試合が組めるか! と断られるんだ」

「馬鹿な、そんなことで断られるなんて」

「大体、俺たちは正々堂々と試合をしてコートを爆発させたんだ。何の問題もないだろう!」

「そのとおりだ。ルールブックを読んでもアタックをしてコートを爆破してはならないなんて規則はないのだからな」

「監督、だったらどうして?」

「一つ思い当たる節がある……あの時、アタック高校の監督が私に言っていたのだ、こんな真似されて黙っていられるか! お前らをバレーボール界から追放してやる! とな」

「そんな、それじゃあアタック高校の奴ら、俺たちを逆恨みして……」

「可能性はありえる。選手全員が怪我したのを苦々しく思っていたようだからな」

「でも、それは正々堂々と試合した結果じゃないですか! それなのに選手全員が病院送りにされたぐらいで!」

「マネージャーの言うとおりだ。あいつらそれなのに卑怯な真似しやがって!」

「監督、一体どうすれば? 俺諦め切れないっす! もっと試合してアタック決めてコートを爆発させたいっす!」

「わかってる。ならばもうこの方法しかない。日本全国体育館破りだ!」

「「「「「「日本全国体育館破り!?」」」」」

次回、第3アタック

日本全国体育館破り編、決めろアタック! コート爆散! へ続、く?


これで第1章は終了です。第2章より日本全国体育館破り編が始まる!(違)

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