第102話 村は静かに沈んでいた
新章開幕です。
キングたちはブローニュ大森林を離れ目的地であるスミスの下へ向かっていた。
途中でモンスターとも遭遇したがこれまでの戦いで鍛え上げられたキングたちにとっては敵ではなかった。
新調したユニフォームの防御効果が高かったのも大きかったのだろう、キングたちは途中で馬車を乗り継ぎながらも苦も無く目的地に辿り着くことが出来た。
だが、そこである異変に気がつく。
白い雲が風に流れ、遠く高くちぎれていく。
ドワーフたちが暮らす鍛冶の集落、バックス山地。その麓に広がる村は、かつてキングたちが訪れたときと比べて、どこか異様な静けさに包まれていた。
「……なんか、変ね。前に来たときは、金槌の音が鳴り止まないほどだったのに」
後ろから歩いてくるウィンが、足を止めて不安げに辺りを見回す。かすかに風に乗って漂う金属の匂いだけが、ここが鍛冶の村である証しだった。
「人の気配が薄いな。表に出てるのは……見張りか、それとも……」
ハスラーが呟いた通り、通りに立つ数名のドワーフたちは、まるで心を閉ざしたかのように目を伏せ、声もかけてこない。こちから声をかけても反応がなく、まるで死人のように通り過ぎていく。
「何か嫌な予感がしますね……」
アドレスが不安そうに呟くと、村の奥にある鍛冶工房のほうから、小さな火花のような音が聞こえた。
「……この方向、スミスかもしれない。行ってみよう」
キングが歩を進めると、ウィンたちも慌ててその後に続く。
木の扉を押し開けると、そこには見慣れた小柄な背中があった。
鍛冶台の前に立ち、火花を散らしながら鉄を打っていたのは、間違いなくドワーフの鍛冶師スミスだった。
「おう……久しぶりだな。調子はどうだ?」
一瞬だけ振り向く、声を掛けてきたスミス。だが、その声色には疲弊の色が滲んでいた。
「スミス、一体どうしたんだ? 村のドラーフたちも様子がおかしいのだが」
「キュッ、キュー!」
キングとボールの声にスミスは一度手を止め、顔を上げた。頬には煤がついており、瞳の奥には焦燥感が漂っていた。
「あれから俺も色々と考えて設計と試作を繰り返していた。後はお前らが持ってきた素材があれば、すぐにでも仕上げに入れる状態なんだが、問題があってな」
「やっぱり……この村、何かあったんだね?」
ウィンが一歩前に出ると、スミスは顔をしかめ、低く唸るように言った。
「数日前から村に大魔王の使いを名乗る連中が現れてな。村長も他の連中も、奴らに従うようになっちまった。『大魔王様の定めしルールに逆らうな』だとよ……」
その声には怒りと悔しさが滲んでいた。
「ルール、ねえ……ずいぶんと勝手な話じゃないか」
ハスラーの言葉を耳にキングはゆっくりと拳を握る。その中には、確かに炎のような闘志が宿っていた。