第101話 エルフたちとの別れ
キングたちはエルフの里で採掘や伐採を手伝い素材を分けてもらった。エルフは自然と暮らし自然を愛する種族ではあるが、必要とあれば伐採も行う。
勿論この時には自然の恵みに感謝し、祈りを捧げることを忘れない。また闇雲に伐採するわけではない、しっかりと計画を立てたうえで伐採をするのである。
こうしてエルフの協力もあって新装備という名のスポーツ器具を作るための素材を揃えることが出来た。
「いよいよここを立つのですな」
明朝、キングたちは世話になったブローニュ大森林を出てドワーフの下へ向かうことになった。それ故かエルフたちの表情にはどことなく寂しさが滲んでいた。
「皆様に本当に助けられました。何か困ったことが会った際には是非とも私を頼って下さい。出来るだけの協力はさせてもらいます」
小さくなったロードスが笑顔で約束してくれた。この森林の御神木であるロードスが味方になってくれるのは実に心強いと言えるだろう。
「ありがとう。何かあった際には頼りにさせてもらうよ」
「キュッ! キュ~!」
キングの肩の上でボールがポンポンっと跳ねた。その様子をロードスが優しい目で見つめていた。
「ウィン。ボール様に失礼のないようにな」
「するわけないじゃない。ボールは私は勿論皆の大事な友だちなんだからね!」
「キュッ! キュ~♪」
ウィンの返事を聞き、ボールが嬉しそうにウィンに飛びつき甘えるようにじゃれていた。
「アハハ、本当ボールは可愛いわね」
「可愛いとは、神の使いに対して馴れ馴れしすぎではないか?」
「まぁまぁ。良いではないですか。ボール様も嬉しそうですし」
眉をひそめる長老を宥めるロードスである。
「さぁさぁ固い話はそこまでにして、宴といきましょう!」
「明日旅立つ英雄を称えて今日は騒ぐぞぉ!」
その声を皮切りにエルフたち歓声を上げた。
「いいね。宴は大好物だ」
「英雄を呼ばれるのは照れくさいですけどね」
後ろに両手を回しながらハスラーが表情を綻ばせた。アドレスは気恥ずかしそうではあったが、ただ別れを惜しむのではなく明るく送り出してくれることには好感がもてたようだ。
こうして一行はエルフたちと宴を楽しんだ。そして夜が明けて――
「本当に世話になったな。おかげで素材も手に入ったし感謝している」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ。貴方たちの事は決して忘れませんのでいつでも遊びに来て下さい」
「エルフの長老にここまで言われるとは、何だか誇らしいぜ」
ハスラーが鼻を擦って得意がった。エルフは他種族との関わり合いを好まない種族であり、そういう意味では一行はエルフたちにとって特別な存在なのだろう。
「――ウィン。お前にとってここは故郷だ。これからいろいろ忙しいのだろうがたまにはもどって、戻ってきても、ま、茶の一つぐらいだしてやってもいいかもな」
「全く。素直じゃないわね」
長老の言葉に呆れるウィン。その様子に皆からも笑顔が漏れた。
「それと皆様。これは我々からの感謝の印です。気に入って頂けるといいのですが」
長老が口にすると同時に後ろで控えていた若いエルフが布地のソレを持って前に出た。
「これは、まさか!」
「はい。興味があってキング様の語っていた書物を読み、皆に話して作らせたものです。ユニフォームというのでしたかな? 素材も厳選したので実戦でも十分役立つと思いますが」
「これは、素晴らしい!」
キングが興奮気味にユニフォームを手に取った。キングが愛読しているスポ根漫画においてはユニフォームは大事な要素である。
お揃いのユニフォームを着ることで一体感も生まれる。
「早速着替えようではないか!」
「おいおい、今からかよ」
「善は急げだ!」
こうして興奮気味のキングの言う通り全員がユニフォームに袖を通した。とても動きやすく作られており通気性も良い。それでいて長老いわく生地も頑丈で魔法耐性にも優れているらしい。
それでいてあまり周りから浮かないようデザインも考えられていた。これであれば町中で悪目立ちすることもないだろう。
「これはいいな。特にこの背中の球のデザインがいい。素晴らしい物をありがとう」
「喜んでもらえて何よりですぞ」
「長老も中々やるじゃない」
「こうやってお揃いの衣装に身を包まれるのも悪くないな」
「はい。何かこう身が引き締まる思いです」
こうして新たな衣装で気持ちを一新させた一行は改めてお礼と別れを告げ、エルフの里から旅立った。長老を含めたエルフたちはキングたちの姿が見えなくなるまで見送り続けたのだった――