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第8話 ダンジョンで避球!

前回のあらすじ

そうだダンジョンへ行こう!

「スミスも来てくれるとはな」

「当たり前だ。お前さんだけに頼んで高みの見物ってわけにはいかないだろう?」


 話がまとまったあと、キングはすぐにでもダンジョン攻略に向かうと告げ、工房を出ようとした。

 それに慌てたのはスミスであり、今行ってもすぐに出れるドワーフがいないから一日ぐらい待ったらどうだ? と言われたが、キングはとにかく時間が惜しかったのだ。


 なので、とりあえず一人ででも見に行くと答えたが、なら俺も行く、とスミスが同行した形だ。


「しかし金属を身に着けないドワーフも少し新鮮だな」


 スミスを一瞥し、キングが感想を述べる。ドワーフは金属をいじるのが大好きな種族だ。戦いでも当然自家製の金属装備で立ち向かう。


 だが今のスミスは革の鎧に大きな木槌といった装備である。


「仕方ねぇだろ。ブッカブは金属を食うんだから」

「確かにそうだがな」


 ダンジョンに大量に出現したモンスターであるブッカブの特性を考えたら確かにこれが正しいとも言える。


 だが、それであればわざわざ金属の装備をつかわなくても全員がそれで挑めばいいのでは? とも思えるがそう上手くいくものでもない。


 そもそもドワーフという種族で金属以外の素材に手を付ける物が少ない。木や皮などを扱うのはむしろエルフという種族の方が得意だ。


 だがそれでもスミスのように酔狂で木製の道具や鎧を作ってみるのもいる。しかしそう数は多くない。


 ならばと今からでも作ってみてはと言うとそれも難しい。なぜならドワーフが工房を持つこの領域はそもそも武器や防具に最適な木材や皮が少なく、何より今は冬だ。当然、より手に入れるのが難しくなっている。


 なので結局は食われるとわかっていても多くのドワーフはそういった装備に頼らざるを得ないのである。


「正直この装備だって壊れたらしまいだ。木槌なんていつまで持つかもわかったもんじゃないぜ……てか俺のことよりキング、お前は本当にそんな格好で大丈夫なのか? 武器も何も持ってきてねぇじゃねぇか」

 

 ぶつぶつと呟き改めてキングを見た後、疑問を投げかけた。確かにキングの今の格好はシャツにズボンだけとあまりにシンプルだ。鉄を食う相手だから装備は控えているのだとしてもあまりに軽装が過ぎる。


「俺の場合動きやすさが求められるからな。武器も必要としない。その代わりに友だちのボールがいるからな」

「……なんだかよくわからねぇが、お前がいいというならな……」


 若干怪訝そうな顔を見せるスミスと共に、キングはダンジョンと化した坑道を進んでいく。暫く歩くと、壁にガジガジと食らいついているモンスターを見つけた。


 ゴブリンよりも腹が出ており全体的に丸っこい。それがブッカブの特徴である。一生懸命壁に歯を立てているあたり、どうやらお食事中のようだ。


「くそ! こいつら貴重な鉱石を……許せねぇ!」


 木製の柄をギュッと握りしめ、スミスが飛び出しブッカブの一体を殴りつけた。


「ブギャ!」

「ブギー!」

「キュー」

「あぁ、食事を邪魔されて腹を立てているようだな」


 スミスの襲撃により瞬時にブッカブたちが色めきだった。殴られた一体も立ち上がり、鼻息を荒くしている。


「くそ、やっぱ木槌じゃ威力が足りねぇか……」


 ドワーフは金属製の装備を扱うのには長けているが、木製などでは調子が出ないようだ。勿論素材として弱いというのもあるが。


「ブギイィイ!」

「チッ!」

 

 ブッカブの一体がスミスに飛びかかる。木槌を構え迎え撃とうとするスミスだったが。


「ブゴォオオオ!」

「何!?」


 飛びかかってきたブッカブは、スミスの背後から飛んできたボールに当たり吹っ飛んでいった。跳ね返ったボールをキングがキャッチする。


「大丈夫か?」

「あ、あぁ。だが今のは一体?」

「球技と言って俺の新しい戦闘スタイルだ」

「は? きゅう、ぎ?」


 聞き慣れない言葉にスミスは目を白黒させる。一方キングにやられたブッカブは地面にしこたま体を打ちつけそのまま動かなくなった。


 仲間の死に、残ったブッカブが興奮し、威嚇の声を上げてくる。


「お、おい結構な数いるぞ? 一人じゃ……」

「なに、危なかったら下がるさ」


 そういいつつ、黄色い球に変化したボールを手に近づいていく。球の大きさはサッカーボールの時とそう変わらないが。


 すると一斉にブッカブが攻撃を仕掛けてきた。真っ先に飛びかかってきたブッカブは手を剣や斧に変えていた。


 ブッカブは食べた金属の成分を利用して体を変化させるモンスターでもある。そのためこういった攻撃が可能なのだ。


 だが――


「な、すげぇ、全て避けてやがる――」


 スミスの目の前で、キングは敵の攻撃を軽々と避け続けていた。剣や斧の攻撃は勿論、全身から針を飛ばしてきても、全く当たる気配がない。


避球(ドッジボール)は相手の攻撃を避けることこそが基礎!」


 それはスミスにはさっぱり理解の出来ない話であった。だが、キングはそれを、そうドッジボールを扱ったスポ根漫画を見て会得した。


「さて、避けてばかりでも仕方ないな」


 キングは一旦後方に下がると、腕を振りかぶり、手にしたボールを投げつけた。


「ワンショットオールブレイク!」


 唸りを上げて飛ぶ黄色い弾丸がブッカブの一体に直撃し、かと思えばあたったボールが跳ね返り、次々とその場のブッカブを討ち取っていった。


「ふむ、やはりある程度まとまった相手には効果的な技だな」


 あっという間にブッカブの群れを倒し、満足げにキングが顎を引いた。これはキングが読んだ【ドッジだっぺ!】を参考に会得した技だ。ちなみに漫画は、田舎で育った語尾に必ずだっぺとつける主人公がドッジボールを知り宇宙最強まで上り詰めるという壮大な話であった。 


 この漫画では最終的には宇宙戦争に発展し異星人の攻撃をドッジボールの技術で地球ごと避けるというとんでも展開であり、そのせいかキングの認識も色々間違っている点も多かったりする。キングがボールを持っている状態こそが避けるのに重要と思っていたりするのもその影響だ。


 そんな漫画の中ではボールが当たった後、ノーバウンドで跳ね返った球にあたった相手もアウトというルールがあった。それをついて主人公が編み出した技がこれであり、この技のおかげで大体の試合は主人公が一球投げればそれで決着がつくというのが最大の特徴であった。

 

 勿論、ここにはコートがないが、キングは視界に収まってる相手ならば跳弾を利用したこの必殺技で全てに当てることが可能だ。


 とは言え、勿論現実では、これだけで倒せるとは限らないのだが――しかしそこは球技を極めつつあるキングである。


「全員、倒しちまったのか……」

 

 キングの技で倒れたブッカブはもう動くことはなかった。中には体を鋼鉄に変化させていたのもいたのだが無意味であった。


「ふむ、意外とあっさり倒せたな。もしかしたら出現して間もなかったのかも知れない」

「いやいや! 手とか武器に変化してたし、間違いなくかなりの量を食ってた奴だと思うぞ」

「う~んそうかな?」


 あまりに手応えがなかったので小首を傾げるキングである。ちなみにブッカブは鉱石を食べることで自身のレベルも向上する。つまり推定レベルは現れた時の基本的な数値であり、鉱石を食べ続ければ更にレベルが高いのである、が、キングには関係なかったようだ。


 その後はブッカブを解体して回る。ちなみにブッカブ自身からは役立つ素材は手に入らないが、食べた分の鉱石は圧縮された金属の塊として回収できる。


 勿論その分随分と重くなるが、ボールによって問題なく全て回収された。


「あんな重たいものを全部回収とか、一体どうなってるんだこのスライムの体は……」


 キングの球技にも驚きを隠せない様子のスミスであったが、ボールに関しても似たような感情を抱いているようだ。


 そしてキングたちはそこから更に奥へ奥へと進んでいくが、現れるブッカブはキングの球技の数々に成すすべもなく倒されていくのだった――

ドッジだっぺ!

ラストドッジ

さらばドッジ!明日はドッジだ!


「おのれ地球人どもめ! 何がドッジだ! こうなったら我が宇宙帝が誇る大宇宙帝艦隊五万隻からの惑星破壊砲を一斉掃射だ!」

「しかし宇宙帝、それでは地球が消し飛びますが?」

「構わん! 撃て!」

「「「「「はッッッッッッ!」」」」」×10000


「大変だドッジくん!奴ら宇宙からの一斉掃射で地球を消し飛ばすつもりだ!」

「そんな政府はさっさと白旗をあげたのに!」

「それがいけなかったのよ!」

「もうダメだおしまいだぁああ!」

「諦めるのはまだ早いだっぺ! そもそも政府がだらしないだっぺ! ここはおらたちが、そうおらたちドッジ戦士だけが地球を救えるんだっぺ!」

「だがドッジ、どうするというのだ? いくらなんでもドッジボールで地球は救えないだろう?」

「そんなことはないんだっぺ! よく考えるだっぺ! 地球は丸いんだっぺ!」

「いや、そんなの当たり前だろ。それがどうしたってんだ!」

「いや違う! ドッジはこう言いたいんだな! 地球は丸い、つまり地球こそがドッジ! ドッジボールだと!」

「そうだっぺ! そしておらたちにはこれまで鍛えてきたドッジ力があるんだっぺ! 限界まで燃やして地球を守るんだッペ!」

「でも、一体どうしろというんだ。ドッジ力でどうにかなるのか?」

「諦めたらそこでドッジは終了だっぺ! さぁ皆地球に手を当てるんだっぺ!」

「地球に手を当ててどうするんだ?」

「決まってるんだっぺ! ドッジの基本は避けることにあるっぺ! 地球はドッジボールの球と同じ! みんなで地球を掴み動かして敵の攻撃を避けるっぺ!」

「な、そんなこと出来るのか?」

「出来るのかじゃない、やるんだっぺ! おらたちならきっと出来るんだっぺ!」

「そ、そうだな……いまこそ俺たちのドッジ力を結集するときだ!」

「よし俺はやるぜ!」

「俺も」

「私も!」

「「「「「「「「「「うぉおぉおおおぉおおおぉおおおお」」」」」」」」」」


「宇宙帝、大変です! 地球が、地球がなんと我々の砲撃を、躱しています!」

「な、なんだと、まさか、そうか奴らドッジの技術を地球にむぅ小癪な連中だ」

「いかが致しましょうか?」

「構わん! 砲撃を続けろ! いくら避けていようとそればかりではいずれ音を上げる!」

「「「「「はッッッッッッ!」」」」」×10000


「やった! 宇宙帝軍の攻撃を避けているわ!」

「だがドッジ、避けてばかりではジリ貧だぞ?」

「……わかっているんだっぺ、ここからはおらの出番だっぺ。やるっぺ、いまこそワンショットオールブレイクで決着をつけるっぺ!」

「いや、でもこっからボールを投げたって届かないだろう?」

「普通のボールなら確かにそうだっぺ。でも今やってみせただっぺ。地球はドッジボールだっぺ!」

「ま、まさか、お前、地球を?」

「おらはコクリと頷くんだっぺ」

「駄目よドッジくん! 私知っているの! ドッジくんの両腕はもうボロボロだって! 本当はボールを持つのだって厳しいのに、そんな状態で地球なんて投げたら両腕が千切れてドッジくんもうドッジボールができなくなっちゃう!」

「ドッジ! それは本当なのか?」

「ボールちゃんの言っていることは本当だっぺ。でも、もし地球が今日なくなったらおらたちはもう二度と一緒にドッジボールが出来なくなるっぺ。そんなのいやだっぺ! だから、おらの腕が例え今日砕けたとしてもおらは、おらはこの球(地球)に全てをかけるッペ!」

「ドッジ、わかった俺たちはもう何も言わない。お前がドッジ界のナンバーワンだ!」

「だけど、それに俺たちも協力させてくれ!」

「そうだ俺たちだってお前の仲間、ドッジ戦士だ!」

「全員のドッジ力をお前に託すぜ!」

「みんな、ありがとうだっぺ! 気持ちは受け取ったっぺ!」

「さぁ、決めてやれ! お前の最後の闘球を!」

「やるッペ! みんなのドッジ力がおらのハートを熱くさせたんだっぺ! 決めるッペ、これがおらの最後のワンショットオールブレイクアースだっぺぇえええぇえええ!」


「な! 大変です宇宙帝! 奴らがあろうことが地球を投げてきて、艦隊が次々破壊されていっています!」

「……そうか、ドッジの奴め、地球をドッジボールの球に見立てて……ふっ、なるほどこれがあいつが培ってきたドッジボールのパワーか見事なドッジ力だ、最後にお前の勇姿が見れてよかったぞ、さらばだ――我が最愛の息子よ!」


――ドゴオォオオオオォオオォオオオン!


「やったわ、みて! 宇宙帝軍の艦隊が爆発していく!」

「へ、きたねー花火だぜ」

「はは、やった、おらたち勝ったんだッペ、これでもうおらは満足だッペ、でもごめん、おらもう燃え尽き、た――」

「え? ドッジくん?」

「ドッジ!」

「ドッジィ!」

「「「「「「ドッジっぃいいいいぃいいいいいいいィイイ!」」」」」」


 こうして一人の少年の手によって地球は宇宙帝の危機から逃れる事ができた。だが忘れてはいけないこの困難を乗り越えられ勝利出来たのはドッジ戦士たちの熱い友情と努力があったからだということを……ありがとうドッジ! ありがとうドッジ戦士! ありがとう地球! そして、ありがとう、ドッジボール――

ドッジだっぺ! 完

空地 大乃の次回作にご期待ください。

ドッジだっぺ!「おっとまだ物語本編はおわらないんだっぺ、まだ結構続くんだっぺ」

ボール「キュッキュ~♪」

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