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馬鹿刑事

 笹原が武本の名を大声で喚きたてるからと仕方なく連れ込んで見れば、玄人くろとも山口もわかっているような行動を取っていた。

 既に布団は片付けられて居間は寝床にされていた跡形もない。


 玄人とは、昨年の九月から知り合いの紹介で俺が相談役となって面倒を見ている男だが、百六十センチの身長にガリガリの体と童顔で、二十歳の成人男性ではなく思春期前の少年にしか見えない風貌をしている。

 顔などは、完璧な卵形をした輪郭の中に、ワサワサの無駄な睫毛に覆われた黒目がちの瞳とぷっくりした桃色の唇が完璧な配置で納まるという、整いきった女顔だ。


 訂正する。


 奴が顔を上げれば、どう見ても十六、七の美少女にしか見えない、だ。


 そんな外見のためか、同性の同年代には気味悪がられて仲間外れにされてきたのであり、それでは鬱になるのも当たり前だと、この無情で名高い俺でさえ哀れむ程なのだ。

 だからなのか、俺や親友が傍にいない時の彼は、常に顔を伏せてオドオドとしている。


 玄人の隣から離れたがらない山口は、そんな外見の玄人がドストライクだと宣言し、有能な刑事が馬鹿な玄人の間抜けな騎士ぶりだ。

 そしてこの馬鹿な二人は、笹原を操るために俺が使った声音に反応して、恐れるどころか仲良く目を輝かせてうっとりしている。


 見えないものが見えると主張する馬鹿共は、やはり常人とどこかが違うのだろうと脱力した。


「ほら、何だって言うんだ。話さないとお前が危険かどうかなんてわからないだろ。」


 馬鹿は放って置いて、俺は笹原の脇に腰を下ろした。

 玄人はと見れば、彼はちゃぶ台から離れた部屋の隅に座っており、山口は自分の体で笹原から玄人を隠すようにして、俺の向かい合わせに座っている。


 山口はただ座っているだけではない。


 ワッペンのスマイルマークにしか見えない無表情を顔に浮かべて、煩いぐらいの殺気を全身から放っているのである。


 勿論、招かれざる客の笹原へだ。


 この発情刑事め。


 正座をして固くなっていた笹原は、俺に加護を望むような視線で俺をチラ見してから、山口の放つ殺気の圧力に耐え切らずにとうとう子供のようにポロポロと涙を流して泣き出した。


 だが俺が笹原に同情することは無い。


「泣いてねぇで、さっさと語れ。追い出されてぇか。」


 玄人と同じ二十歳の男は、山口の殺気よりも俺に見捨てられる方が怖いと判じたのか、幼い子供のように何度かつばを飲み込んで自らを落ち着けると、ようやくその口を開いた。


「……皆が死んでしまったんです。次は俺の番です。」


 最初の同級生の死は、玄人をプールに沈めたその二日後、給食の時間の時に起きたのだという。


「小島が死ぬ訳が無かったんですよ。彼は親が作った弁当で給食なんか食べて無いはずなんです。それなのに食事中苦しみ出して。息が出来ないって。彼が武本を沈めようって提案したから、武本の呪いで、武本みたいに苦しんで死んだんです。」


 ドンッっとちゃぶ台が鳴った。

 山口が叩いたのだ。笹原はビクッとして彼を見つめた。


「死んだ事実と状況だけ言えばいいから。君の推測は要らないし、君が武本君の名前を出すのも禁止で。彼は聖なる生き物なので汚されたくない。」


 スマイルマークのような笑顔のままで、山口は殺意のレベルを数倍上げた。

 本当に怖い男だ。


「でも、誰がその時何を言って、何が虐めで在ったのかが分かった方が、十一人の死因がわかると思います。亡くなった後に周りがどう思っていたかも。」


 青い顔の玄人が、弱々しくであったが言葉を挟んできた。

 俺はこいつのこういう所が気に入っている。

 そうだ、状況を見極める事こそ大切なのだ。


「クロ、お前は俺の部屋で寝てろ。お前が今聞く必要もないし、ここで辛い思いをする必要はないんだよ。後で知りたい事実だけ俺が教えてやるから上の部屋に行きなさい。」


 玄人は泣きそうな顔になりながらもウンウンと俺に頷くと、俺の言う通りに居間から出て行った。

 しかし、山口までも玄人に付き添って二階へ行ってしまったのである。

 あの馬鹿刑事。

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