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事件の概要などどうでもいいが

 玄人は病室で寝ている。

 いつまでも破廉恥な山口の隣に置いてはおけないと、ベッドを一台使えるように俺は適当に見舞い品を片して、そこに玄人を寝かしつけたのだ。

 けれども山口には楊直伝の不屈の魂とやらが備わっていた。

 なんだかんだと玄人に話しかけてくるのだ。


「修学旅行みたいだね。寝ないと怒る見張りの怖い先生もいるし。友君と僕とクロト。横になるしかないなら、怪談話とかで盛り上がろうか?寂しかったら僕が傍に行ってあげるよ。君から僕の所に来てくれたら最高この上ないけどね。」


「やめてよ。君達の怪談は嘘話じゃないから俺が寝れなくなるでしょう。俺、動けないのよ、わかっている?」


 山口と葉山の掛け合いに、玄人は青白い顔だがようやく微笑んだ。



「柴崎は武本を独占したかったのだそうだ。」


 楊は誰もいないナースステーションと談話室の間の「現場となった廊下」を眺めながら呟いた。

 しかしながら、そこが現場となって看護師が消えたのではなく、面会時間を過ぎると偶数階のナースステーションが閉められてしまうだけの話である。


 楊と髙は面会時間終了ぎりぎりに病院に戻ってきた。

 玄人がいまや重要人物になっているために様子見で現れたのかと思ったが、それだけではなかった。

 髙が病室前の制服警官の警護の任を解いて戻らせる横で、俺は楊にナースステーション脇の談話室に呼び出されたのである。

 そして、一方的に不可解な約束をさせられたのだ。


「柴崎を一切忘れろと?他言も無用か?裁判も無いのか?」


「無い。」


 楊が簡潔に答えたが、彼自身納得していない顔をしている。


「それで、実際何があったんだ?俺は公安の面々に勝手に仲間扱いされて海外まで引きずり回されたんだ。肝心なことは言えなくても概要ぐらいは言えるだろうよ。」


 すると、楊が珍しく突き放すような言い方で俺に確認を取った。


「柴崎の自白の部分だけでいいか?それもはしょって。」


 親友の珍しい顔つきに俺は肩を竦めて促した。

 一方的に忘れろと言われたから食いついたまでで、俺は実際ところ、今後玄人に何も起こらないのであれば、楊が終わったと言い張るのを受け入れるだけだ。

 本心では事件などどうでもいいのである。


「かわさん。僕は玄人君の顔を見たら先に帰るからね。」


 髙の断りに楊はきゅっと唇を噛んだ。

 楊の暗い表情に気づいている筈の髙は、相棒の様子に何の感慨も無いいつもの飄々とした様で俺を見返した。


「それじゃあ、百目鬼さん。申し訳ないですね。全部話そうにも私達公僕には柵ってありましてね。我儘ばっかりですいません。」


「いえ。クロの同級生についてはこちらからお願いしたものですから。そのことでクロが完全に安全だと確認したかっただけで、こちらこそすいません。」


 煩く探るなと俺に脅しつけた男は俺の台詞にニヤリと微笑むと、彼の部下と玄人がいる病室へと去っていった。


「お前、あんなやばい男に色々と無茶しているのか。それで、髙が一人で帰るのはお前には納得しがたい事のようだな。何かあったのか?」


「猿回しの猿の俺が知るわけ無いでしょ。公安が出てきたら俺にはどうしようもないの。髙に一任。まぁ、いいから座れ。本当はどうでもいいのだろうけどね。説明してあげるよ、柴崎君の事を詳しく。俺も柴崎が可哀相でさ、代弁してやりたい気持ち。」


 俺達は適当に自販機のコーヒーを買うと談話室奥への椅子に体面で座った。

 楊が病室に向かい合う形で、俺は病室に背を向ける形で、だ。

 俺は玄人の安全を確かめる、という無意識の行動で後ろを軽く振り返り、静まり返った病室と暗い廊下をしばし眺めると楊に向き直った。


 柴崎への同情が見られる楊は、紙コップのコーヒーを口に含み「不味い」と呟き、それから大きく息を吐き出すと、楊にしては低い抑えた声で話始めたのである。


「柴崎君はね、ちびを独占したくて早川の偽手紙を作ったんだってさ。それがあんな酷い虐めになるとは思わずにね。転校した後はそれっきりで、二年前にちびのプール事件と早川メグミのレイプ事件を知って絶望してね、同じく妹の死で絶望している早川秀君と復讐を始めたそうだ。家にも帰らずに二年間もね。それで、早川の兄が自殺した事で自首を決めて、でもそれは一番ちびにとって酷い奴だった笹原を殺してからって。」


「道場の笹原はただの調子のいいガキでしかなかったけどね。主犯は林だろう?」


 俺が雇われ師範をしていた道場に稽古に来ていた小学生時代の笹原は、普通の小生意気な子供でしかなく、けれどもカメレオンのようにどこでも誰にでも上手に打ち解ける子供ではあった。


「柴崎が言うには、いつも虐めを煽る奴だったそうでね。もっと、もっとって。」


「それで笹原を殺したのか。」


「笹原のお父さんがね。」

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