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暑苦しい親族とちびっこの造反?

 やりきれない思いの楊と共に病室に戻ろうとすると、玄人がちょうど病室から飛び出てきたところだった。


「どうした?何かあったのか?」

「また、何かがあるそうなんです。」


 馬鹿な返答の半泣きの玄人に付いていくと、ナースセンター前に運送会社の社員がいたが、彼は巨大な箱の乗った台車を引いていた。


「武本様ですか?早坂辰蔵様より山口淳平様方武本玄人様に届いておりますので。」


 受領証を渡された玄人は大きなため息をつきながらサインをし、台車に乗っている大きな箱を受け取った。

 台車の押し手にピンクのリボンがついているところで、台車もプレゼントである事にありがたいと思いながらも、玄人の「思い出の品」として台車を自宅のどこかに収納しなければならないだろう事を考えてウンザリとする自分もいた。


「早坂辰蔵は、島田の正太郎さんよりも有名な海運王の一人ではなかったか?」


 台車を押す事もなく手をかけただけで大きく溜息を吐いている玄人に尋ねながら、島田の名前を知らなかった自分でも知っている御仁だと大きな箱を見下ろした。

 箱に書かれた文字によると、中身は一本十万はするランクの高級なシャンパンらしく、それも半ダースはあるようだ。


「どうした?これは?」


「武本の呪いだよ。」


 俺達を見ていた楊が、呆れたようなクスクス笑いで玄人の代りに俺に答えてくれ、そしてそのまま彼は玄人を押しのけて、玄人の代りに箱の台車を押し始めた。


「ありがとう。それで、武本の呪いってなんだ?」


「表向きはちびが営利誘拐される所を助けたための銃撃だろ。ちびと繋がりのある財界のお偉方や親戚その他から毎日のように山口淳平様方武本様で贈り物が届くんだよ。ホラ、警察官に物を贈っちゃ駄目だろ?だから武本宛にして、友人のちびからのお裾分けならいいだろうって、ガンガン贈ってくるらしいね。」


 差出人の住所氏名を絶対に控えないといけないと、俺は頭の中でメモをした。

 早坂は、玄人の親戚だと今までに俺に名乗ったことのある人物では無いのである。

 俺は玄人を守るためにも、どこまでが彼と繋がっているのか調べなければならないと考えているのだ。

 彼を守り、彼を守れる俺の手から彼が奪われない様に。


 箱を抱えた俺達が病室について、そこで改めて病室を見回せば、開店祝いのような花束や品物の実態が、武本と花房はもとより、島田や武本の親族だと俺に名乗った人達の見覚えのある名前が飾られた花や高級菓子などが華々しく積み重なっていたものだとわかったのである。


 しかし、名前は一般人が知っている程の有名な人物であっても、早坂は勿論、笹波財団の笹波など、俺には玄人との関係が知り得ない名前も多い。


「クロ。ちょっと聞きたいんだが?親戚以外のこれはなんだ?早坂や笹波とか。」


 玄人はふーと息を吐き出すと、彼にしては不貞腐れた忌々しそうな口で説明しだした。


「早坂は島田のお爺ちゃんの親友で、僕を孫同然に可愛がっているお爺ちゃんです。笹波良治は祖母の従兄弟です。あと、親族でない他は、それぞれ祖母や祖父や大伯父や大伯母の友達だったり、彼らの親族だったりです。もう!どんどん、どんどん勝手に贈り物を病院に送り付けて。淳平君がこれを全部退院する時に持ち帰らなきゃいけないって、皆わかっているんですかね?もう殆んど嫌がらせですよ!」


 馬鹿は最後には叫び声になり、疲れたのか部屋の隅でしゃがみ込んでしまった。

 俺が玄人を労おうと彼の肩に触れようとしたその後ろで、玄人の叫びによってはしゃぎ始めた奴らがいた。


「じゃあ、俺達がいくつか貰ってやるよ。いいだろ?山口。」


 言うが早いか野田は勝手に物色をし始め、公安の皆様はそれに続き、当の山口は彼らの姿にクスクスと笑っている。


「ちょっと待て、控えないでいいのか?お礼状はお前が書かなきゃだろう?」


 俺は不安になって玄人に聞いていた。

 玄人の親族への礼状を、俺は礼状一つ書かない玄人の代りに書かせられてきているのである。

 ここの贈り主を俺が全部把握しなければと、後々に礼状を書かせられる羽目になるだろう自分の未来を考えて、俺は少々混乱していた。

 あの山口がそんな常識を持っているわけが無いのだ。


「僕が全部把握していますから大丈夫です。でもお返しとか。あぁ!」


 お返しの金などないとしゃがんだまま頭を抱えている玄人に、俺はちゃんとお返しという常識を持っていたにも関わらず、俺に礼状を書かせていた玄人の頭を軽く叩いていた。


「ひどいです!僕を放って置いたくせに、僕を叩くなんてひどいです!」


「うるせぇよ、それじゃあお前が今日から礼状を書けよ。」


 玄人はあからさまに俺から目線を逸らして、しゃがんだままで、お返しの金が無いからどうしようと、再びぶつぶつ独り言を言い始めた。

 彼は本気で俺のコバンザメを気取っていたらしい。

 コバンザメは背中の吸盤でサメにくっついているだけで、自分で泳ぎもせず、餌なども自分で取るわけでも無く、サメの恩恵を受けるだけの生き物なのだ。


 俺はくっついたら離れない生き物の存在に数日ぶりに安心を感じ、愛おしいとまで感じており、気が付けば玄人の後頭部を撫でていた。

 彼は俺を仰ぎ見て、ふふっと嬉しそうに俺に微笑んだ。


「俺が戻ったことだし、これから家に帰ろうか。大学の講座の登録は済んだのか?久々に家でゆっくり落ち着こうか。」


 すると、笑顔だった玄人の顔は真顔に戻り、俺の優しい呼びかけに喜ぶどころか、俺に反抗してくるではないか!


「帰れませんよ。坂下さんが僕を守るために警護をつけてくれましたから大丈夫ですし、今は友君のお姉さんと行動しないとです。DV男の親族に狙われているお姉さんを一人にしては危険ですから、学校が始まってもこのまま葉子さん家から通うように言われています。それに、友君と淳平君の怪我が治るまで、僕は看病して一緒にいたいです。」


 俺の中でぷつんと何かが切れた音がした。

 玄人の支配権も玄人が縋るのも全部俺でなければいけないのだ。


「おい、姉さん。お前は慰謝料も共有財産の分割も無しでの離婚でも構わないか。」


 俺に急に声を掛けられた真砂子は体をビクッとさせて、俺をまじまじと見つめた。

 彼女は毛先だけがカールしている長い長いまつ毛をパタパタとはためかせて驚いた顔で俺を見つめ返して来たが、俺の意思を汲み取るや口元をキリっと絞め、色っぽいだけの目元を色っぽさのみじんもない決意のにじんだ真剣さで見返して来たのである。


「あの男と縁が切れるなら、お金なんてマイナスでも構いません。」


「いい女だ。それじゃあ、今日からお前は俺のものだ。何をやっても俺がセーフティネットになってやる。常識なんかとっぱらってな、お前の心のままに暴れてみようか。」


 俺の言葉の意図が通じたのか、葉山の姉は悪女のようないい顔つきになった。

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