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助けられない不幸

「何それ。」


 楊のいつもの言葉を俺が口にすると、楊自身は大きなため息をついて両膝に顔を埋めてしまった。


「俺だってわかんねぇよ。葉山は面倒だからって唯の事故ですって栢山を言い包めてしまったそうだし、佐藤はそんな葉山さんが格好良いって惚れちゃうし、わかんねぇよ。」


「わかった、いいよ。それでかわちゃんに頼んどいた、小島と奥田は結局どうだったの。」


「俺をこれ以上追い詰めないでくれ。」


 何それなことを顔を埋めたままの男はのたまい、それでも彼は話してくれた。

 小学校を後にした葉山と佐藤が小島家を訪問すると、応対した小島君江は尚吾など最初からいない子供だと言い放ち、更に、アレルギーの海老で死んだのだから調べ直す必要もないとけんもほろろだったのだという。


「それでさ、佐藤が当時の給食メニューに海老がないって告げたら、小島君江が、フライの衣のソバ粉ですって叫んだそうでね。葉山も佐藤も頭を抱えながら一先ず彼女を世田谷警察に連れて行ったんだそうだ。」


「何それ。」


「俺だってわかんねぇよ。給食メニューがエビフライだったから、エビフライを入れたのだそうだ。やっぱりアレルギーのそば粉の衣でカラリと揚げてね。死んだら加害者の母から被害者の母になるし、死ななくても学校の不手際で学校を責めて、虐めの主犯の親だって自分が責められなくなると考えたんだって。」


 小島君江は任意で世田谷警察に引っ張って行ったら簡単に吐いたという。吐いて弁護士を呼んで「追い詰められて心身喪失で子供を殺しちゃった可哀相な被害者」にジョブチェンジしたそうだ。


「面倒だからさあ、小島の旦那に説明して俺達は彼女から手を引いた。旦那の方の親族は尚吾の死を未だに悼んでいたからさ。いいだろ。家族に任せて。」


「うん、真相が知りたいだけだからそれはどうでもいい。で、奥田は?奥田。」


「聞きたいの?」


 半分泣きそうな顔になっている。

 仕方がないから俺が自分の想像を言ってみた。


「早川がレイプかなんかされての報復に使われて、使い捨ての道具として殺された、が真相?」

「たぶん正解でーす。」


 面白くもない声音で呟いた楊が再び膝に顔を埋めた。

 俺は大きく溜息を吐き出しながら、自分が考えていたことを独り言のように口にしていた。


「それじゃあ、同級生を殺し続けているのは奥田の犯人か。小島の母はそこまでしないみたいだしね。それで、早川には会ったのか?」


 膝に突っ伏したままの楊は囁くようにだが、淡々と語り始めた。


「二年前には死んでいたさ、自殺で。可哀相に、レイプ画像が同級生に拡散されて、母親も姉も自宅から出られなくなったそうだ。本当に最低な奴らだよ。藤崎のパソコンをウチの解析班が掘ったら出てきてね。そいつのメールから辿ったら殆んど全員に回っていた。動画もあって、殺された女二人は共犯者だ。泣いている女の子の髪の毛切ったり顔に悪戯書きして動画を撮ってんの。反吐が出るね。」


 こいつはこういう奴だ。

 弱くて苛められている者を助けたい男なのだ。

 だから、もう助けられない人間がいると知るとこうして落ち込む。

 自分が不甲斐ないからだ、と。


「そこまで判ったんなら、犯人も判ったんだろ?」


 俺の質問に少し顔を上げて、厳しい声で楊は答えた。


「早川メグミの兄の早川秀だ。」


「引っ張ったのか?」


「いや。警視庁さんによるとね、別件で覆面パトカーが追いかけて、逃げる最中に車ごと民家に突っ込んだそうだ。それが嫌になっちゃうのがさぁ、そこの民家ね、酒盛りしていた武本の元同級生達が五人くらいいたのよ。秀君含めて三人死亡に三人重症。でもね、彼らに監禁されてレイプされていた女の子は無事に救出。外山の携帯のチャットから彼らの悪事を知ったみたいだね。」


「外山の携帯?」


「覆面パトカーが秀君の車を追いかけたのは、彼が目の前で通行人の顔面めがけてスマートフォンを投げつけたそうでね。その被害者が、自分の息子が友人と女の子を連れ込んで乱暴している所を見逃していたお母さんだったの。警視庁の連中も秀君の気持ちがわかり過ぎる程わかるって落ち込んでいるってさ。秀君は外山殺しの凶器の果物ナイフを持っていたけどね、外山の遺体写真も解剖所見も見せてもらった俺が思うに、あれは女性の仕業だよ。傷がどれも浅過ぎる。」


「秀君はその真犯人の罪も背負ったのか。」


「背負える筈は無いよ。動画もあるんだ。彼がそのつもりでも警視庁さんが事情聴取に被害者を巡れば事の次第は表にでるでしょう。彼は自殺した妹と同じ目に合っている子を助けて、同じ目に合った子が犯した罪を被っての自殺だったのだろうけれどね。」


「そうか。」


「そうだ。みーんな死んで、ちびを狙うものはいなくなったって話だ。喜べよ。」


 真相を知った俺達が喜び合えるわけはなく、哀れな青年の死は重すぎ、俺達は真っ赤に染まった非常階段からしばらく立ち上がれもしなかった。

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