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メールの確認忘れずに

 俺達が襲撃の後の事実を知りえたのは、空の上で、だった。

 シートベルトのサインが消えたと同時に俺のスマートフォンに玄人のメールが入り、俺は玄人の相変わらずの馬鹿な文に、簡単な返信をする余裕も残っていた。


「淳平君と病院です。僕は大丈夫です。淳平君が馬鹿な人で大変です。」


 こんな玄人の馬鹿なメールによって、俺は人心地がつけたのだ。

 馬鹿な淳平、の文言で山口が大丈夫だと安心し、そこで、「お前は武本の名前を使って身辺の警護を警察に頼め。俺は急な出張だ。」と返してやったのである。

 だがしかし、送信した所で、隣の座席の加賀が大声をあげた。


「ちょっと、山口が運ばれたのは病院じゃなかった。あの救急車は偽だった。畜生、あの倉庫で出血多量の意識不明状態で救助だって。おい、髙!お前があの男は大丈夫って言うから。とんだ後手ばかりの間抜け野郎じゃないか!」


「坂下さんだから直ぐに追えたのでしょうよ。見誤ったのは僕達も一緒でしょう。静にしてよ。マカオで遊ぶ前に、くだらない大騒ぎをして台無しにしたくない。」


 髙の追加計画に乗った俺達は、乗ったがために山口を看取るという事が出来無かったという、山口を見殺しにした罪悪感を引き摺ったままである。

 スーツの内ポケットのスマートフォンが振動し、メールの着信を次々と俺に告げていた。


 俺は玄人の苦しみを思いながら、海外でも、帰国した今でも、彼からのメールを一通も確認していない。

 俊明和尚を亡くした時の自分の姿を思い出し、玄人を放ってしまった自分に情けなさが込み上げる。

 初めての友人が死んだと、玄人は子供のように泣いて骸に縋っていることだろう。

 あの時の俺のように。


 俺は一番付いていないといけない時に限って、あいつを放っておいて傷つけてしまっている。

 何が相談役だ。

 それでも死んだ山口の復讐の為に、玄人の情報を手に入れた犯罪組織を潰すために俺は日本を発たないといけなかったのだと、何度も自分に言い聞かせてきた言い訳をした。


「百目鬼さん、メールは確認した?玄人君の。」


 珍しいほどに素っ頓狂な髙の声である。


「どうしたの?髙さん。」


 俺と同じようにその声に驚いた佐々木が髙に振り向いたが、佐々木の目は暗く、顔には涙の跡があった。


「山口、生きてる!今、転院して相模原第一病院だって!」


 髙は再び裏返った声をあげた。


「うそ!」

「確実に死んでいたはずでしょう。」

「ゾンビになった?」


 なんと、あんなに偲んでいた公安の面々が、酷い事を口走っているではないか。

 俺も慌てる様にしてスマートフォンを取り出してメールを読んだ。

 相変わらず馬鹿な文章だが、あいつは傷ついていなかったのだ。


 肩を上から叩かれて俺は見上げると、涙目の髙が晴れ晴れとした顔で俺の前に立っていた。安心した俺は、いつの間にかその場にしゃがみ込んでいたらしい。


「あなたも実はかなり気にしていたんですね。人でなしだと思っていましたよ。」


「人でなしって、酷いな百目鬼さんは。さぁ、立ってください。」


 髙は朗らかに笑い声を立てながら俺に右手を差し出し、俺はその手を掴んで立ち上がった。それから公安の面々が笑いさざめき、そして気安く次々と俺の肩やら背中を叩き、俺達はそこで一緒に喜びに泣いたのだ。

 いい大人が。


「僕達、一般人の迷惑になっていますね。警察官なのに。」


 樋口の言葉に皆が笑う。

 さぁ、久々に戻ろうか。

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