一人ぼっちの僕だが
「あの警察官が泣いているわ。」
「うそ。僕はそんな酷い事を言ったのかな。つい、口が滑ったというか、自分でもどうしてあんなことをしたのかわからないのに。」
わからないけれども、他人では無いとなぜか感じてしまった人間だ。
見覚えはあるのに親族ではない人は確実という初めての感覚。
それがどうしても気になってしまうのは何故だろうと、僕はぎゅっと目を閉じた。
すると、あの警察官が雛人形の右大臣の様な格好をしている姿が脳裏に浮かび、きっと新潟の祖父が守る神社で出会った人なのだと思うことにした。
だって、そんなイメージをした僕こそ変ではないか。
そこで、もう一度彼を確認するべくと僕はゆっくりと後ろを振り返ったのだが、真砂子に指摘された通りに、今は涙は見えないが、目元を真っ赤にした制服警官が山口達の病室前の椅子に座ったまま僕を食い入るように見つめていたのだ。
「ひえぇえ。」
僕は再び真砂子に視線を戻すと、彼女は僕と目を合わせない様に手元のカップに目線を落とした。
僕達は談話室のスペースに来るやそこの片隅で、マシュマロのお化けのようなスツールに向かい合って座っているのだ。
お互いの手には紙カップの飲み物があるが、どちらもそこに口をつけずににらめっこのような状態が続いている。
「ねぇ、私をどうして病室連れ出したの。」
血の気どころか精気迄も失った顔で、それでも真砂子は気力を掻き立てているのか、真っ直ぐに僕を見つめて尋ねてきた。
なんとなく、という答えでは絶対に許されない雰囲気だと、僕は再び病室の方へ顔を向け、制服警官と目が合ったので手を振ってから真砂子に戻った。
逃げ場がないのだから、この停滞した状況を打開しなければ。
「えと、あの。あのね。友君は治ったら、ちゃんと仕返しに行くよ。だから、ごめん、なんて言わないでいいのにって。それだと。」
「それだとあの子が一生動けないみたいだから?」
僕は真砂子を見返して、そして、真砂子がこんなにも粉々で罪悪感まみれである意味がわかったのである。
「友君は、二度と、歩けないんだね。」
真砂子はぎゅうっと紙コップを両手でつかみ、カップのコーヒーはぼたぼたと零れ、彼女の胸元もスカートも全部茶色に染め上げていく。
「あぁ、泣かないで。あなたは強い人でしょう。泣かないで。」
僕は彼女を抱き締めて、僕は僕のすべきことをするべきなのだと決意して、でも、良純和尚と連絡がつかないという状態で一人で行動を起こせる筈が無いのだと、僕は病室を振り向いた。
制服警官は僕をひたすらに見ている。
まるで、僕の道具になることを望んでいるかのように。




