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子供達は屠殺ごっこをするためにブタ役を決めた(馬5)  作者: 蔵前
七 フェアリーゴッドマザー
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三人の優しい人

 四月六日。

 在校生の学籍登録の日だ。


 僕は良純和尚の言いつけを小学校の新一年生のように守って、楊と山口に学校に着きましたとメールをした。

 山口から返信が無い事に首を傾げた所で楊からのメールが届いたが、楊のメールを読んで傾げた首をもっと傾げる羽目に陥った。


「ティンカーベルを派遣した。楽しめよ。」


 ティンカーベル?何それ。


「大学ってこんな感じなのね。私は高校から警察官だから面白いわね。」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのはティンカーベルだった。

 相模原東署で僕を友人扱いしてくれるどころか、僕のフェアリーゴッドマザーを自称してくれる妖精隊のうちの一人だ。

 彼女達三人は、会えば僕に姉のように接してくれる。

 僕は彼女達にクロと呼ばれ、僕は彼女達をさっちゃん、みっちゃん、柚っちと呼んでいるのだ。

 この、僕が。


 さて、今現在僕の目の前にいるさっちゃんこと佐藤さとうもえ巡査は、真っ黒でサラサラな髪を前下がりのボブショートにしている人だ。美しい輪郭の中にある黒目勝ちの大きな瞳はキュッと少し釣り、整っている鼻も口元も小作りという、まるで妖精のように可愛らしい人だ。


 美人だけど可愛らしさが先に立つという、二十二歳の若き警察官に対して僕が会うたびに残念だなと思うのは、身長が百六十二センチって事である。

 僕が彼女に惹かれるようになったきっかけは、目線が同じくらいという同じくらいの身長によるものだからなのだ。


 勝手に惹かれておいて、どうせ男としては見てもらえないはずなのにと、彼女に惹かれる僕は少し空しくなるのである。


 僕の気持ちを知るわけもない彼女の今日の服装は、カーキのスキニーパンツに紺色のレースチュニックに黒カーディガンだった。

 どこから見ても美人女子大学生だが、チュニックの紺色のお陰で何時も会う時の制服姿に近く、あまり緊張しないでいられてうれしい。

 僕は隅っこ虫だから輝きに弱いのだ。

 きっと、僕は動物霊のあの黒い蜘蛛達と近しいものであるに違いない。

 今だって彼らは明るい広場の光の当たらない片隅にかたまり、ぶくぶくと蠢いているではないか。


「仕事中なのに何時もすいません。」


 僕が彼女に頭を下げると、彼女はこれが仕事よと、朗らかに笑い声をあげた。


「私ね、刑事に昇格したの。一日付けで楊班のメンバーよ。あと、みっちゃんも。」


 みっちゃんこと水野みずの美智花みちかはくるくるっとした長めのショートカットに、ちょっと垂れ目のほんわかタイプだ。

 彼女の身長も佐藤と同じぐらいで僕が大好きな目線が会う女性のはずなのだが、水野に関してはひたすらに女性性を感じたことは無い。

 佐藤よりも明るく溌溂としすぎて、隅っこ虫の僕には眩しすぎるからだろうか。

 いや、佐藤が暗いってわけではないが。


「おめでとうございます。でも、柚木さんは昇格できなかったのですか?」


 真ん丸の目という可愛いらしい外見の柚っちこと柚木ゆずき美穂みほは、自分でバイクを改造してしまうほどの機械オタクでもある。

 楊とは違う、本物のメタルを愛する女であるのだ。

 そんな拘りが強い彼女は三人の中で一番僕に似ている気もするが、絶対に僕が彼女に惹かれないのは、彼女の愛情が彼女の愛車の鉄吾郎にしかないことを知っているからかもしれない。


 あの改造バイクはもの凄いものだ。


 僕が柚木の改造車を思い浮かべたそこで、佐藤が柚木について語った事で、僕は純粋に喜びしか感じなかった。


「柚っちは念願の交通機動隊へ移動なの。」


「凄い。みんなオメデトウなんですね。おめでとうございます。」


 僕が頭を下げると、笑いながら肩を叩かれた。


「あら、柚っちはおめでとうでも無いわよ。警察入りも反対だったバイクが大嫌いな柚木のお姉さんが怒り心頭でね、警察を辞めろで姉妹喧嘩が勃発中だって。いくら最愛の旦那が結婚前にバイクで大怪我した姿が忘れられないからって、バイクを見るのも嫌って極端よねぇ。柚木家はもともとモトクロスも参加しているバイク屋でしょうに。」


「あら、柚っちさんは大変なんですね。」


「そう、カラスでコケた間抜けのせいでって大騒ぎ。さぁ、学籍登録ね。構内を案内して!」


 カラスで転ぶ人は多いのだろうかと小首を傾げたところで、彼女は僕を勢いよく引っ張った。

 こんな綺麗な人に手を掴まれてずんずん構内を歩くって、夢じゃないだろうか。

 この僕が。

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