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だから頼むよ?

「お前の心配している山口君に預けた。ヤツは半休だろ?クロが傍にいれば馬鹿しないだろうし、クロも安全だし、俺も楽だしってね。そんなに会いたかったか?」


「パパぁ、ちびが別の意味で危険だと思わないの?あいつが山口にほだされて行く所行っちゃったらどうするの?二人とも不幸になっちゃうじゃない。」


「まだ若いんだし何とかなるだろ。経験だ経験。それで山口の方の案件はどうなんだ?」


 楊がまた机に突っ伏した。


「昨日の今日でどうかなってるわけないじゃん。お前にその事を伝えたのは昨夜よ。お前みたいに正面突破で大暴れして一日で収束するような事、したくても警察はできないの。」


「俺が何かしたか?」


 楊は顔を上げると、今までとは違い抑えた声を出しながら俺を睨みつけてきた。


「ちびが誘拐されたんだ。立松強襲にお前は絶対に関わっていただろ。なぜかその事件ファイルが閲覧禁止がかかっているんだけどさ、お前はちびを助け出しただけなんだよな。」


 楊はジトっとした目で俺を睨むが、その事件は楊の相棒に他言無用を約束させられたのである。俺は立松の連中を後遺症が残るように痛めつけたが、俺の後に侵入した南部という男が恋人の敵討ちなのか、俺が痛めつけた全員を銃で撃ち殺したそうなのだ。髙は俺を守るために俺の痕跡自体を消したからと俺に内緒を強要したが、俺だけでなくその暴行に山口が参加していた事と、南部が使用した銃が大昔に警察から紛失した拳銃であった事が内緒の理由ではないかと俺は邪推どころか確信している。


 そうでなければ、警察が、遺体を燃えている倉庫に投げ入れるわけはない。

 その行為は銃創を消すために他ならない筈だ。

 世間に対して報道されたのは、立松警備が届出のない火薬類を違法に倉庫に隠しており、その理由で起きた爆発を伴う倉庫の火災に立松が幹部共々巻き込まれて死亡したというものである。


「お前は誰も殺していないよな。」


「殺したらそれで終いだろ。」


「完全否定しろよ。そんなことをするわけ無いって、何を殺し以外はしたような返答をするんだよ。聞いた俺が困るだろう。二の句が継げないじゃん。」


 楊は体を机に伏せたまま、顔だけ上げて俺を睨みながら罵倒するが、彼のその姿が猫が伏せている姿にしか見えず、俺は普通に和んでしまった。

 彼の両手が拳を結んでいるから尚更だ。


「それはもういいだろ。それで山口の案件は?」


「山口は、山口の方は昨日電話したまま進展はないよ。お前がよくご存知の、立松の証拠消失事件にも関与してそうな髙様が頑張って動いておられますけどね。」


 山口が公安だった時代の恨みで狙われているらしいからと、昨夜楊から電話を受けたのだ。玄人の身が不安だと山口が暴走するから、玄人から目を離さないで守ってくれと。


「それじゃあ、暇なんだったらクロの方を頼むよ。クロは小学校時代の人間の交友関係を全く知らないからね。ましてや相手の成長した姿なんか全然だろ。相手がクロの事を知っていても、こっちが判らないでは守り辛いからさ、頼むよ。」


 むくっと起き上がった楊は、唇を尖らせて少々腹を立てているような顔付になっていた。


「暇じゃないって。今井の事件があるでしょうよ。でも、わかったよ。関連してそうだし。それで、まず何と何を洗い直せって?」


「起きるはずのないアナフィラスキーショックで死んだ小島尚吾と、同級生を轢逃げして飛び降りした奥田勇。それで、いじめのきっかけとなったアイドルの早川萌にも話を聞いて欲しいね。」


「そのメグミちゃんに何を聞きたいって?」


「クロに送った手紙の内容。」


「何それ?」


「笹原がメグミが武本にだけ手紙を出したって言っていたけど、クロは知らないっていうんだ。その手紙がいじめのきっかけだったそうだからね。何をクロに書いたか知りたいし、誰かがその手紙を勝手に読んでいるはずで、そいつが煽り殺人を起した人物だ。」


「わかったけど、メグミちゃんは手紙の内容は覚えているかねぇ。」


 覚えていてくれなければ困る。

 男子全員が玄人を殺すまでに憎んだ、「最初の煽り」だったのだから。

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