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ちびの事情

「あの事件の時にね、お前はあいつの経済状況も調べているだろ。継母に個人財産を空にされた哀れな継子。そんな経済状況だからこそ、あいつは違法薬物の密売人だと思われていたんだろ。」


「そうだね。母親主導か父親なのかわかんないけどね、ちびの財産はきれーに親に抜かれているね。あのマンションの名義はちび。保険もちび。管理費も修繕積立金もちび。それなのにちびには現金が無いからね。その管理費と修繕積立金は十一月に調べた時には未納の合計が数年分位になっちゃうほどだった。」


「あぁ、それか、忘れていた、畜生。」


「どうした?百目鬼?」


「退去命令が管理組合から内容証明で届いてね。この間の血まみれオブジェの事かと思ったら、それか。払う意志がある限り強く出れないだろうが、あのオブジェのお陰で管理組合が良い機会だと買取と退去まで言い出してきたんだな。ただ同然の値段で足元を見てか、畜生。」


「ありゃん。ちびは本気で家なき子になりそうなんだ。」


「あいつはそれでもどうでもいいと言うだろうけどね。僕は良純さんにコバンザメしていますから関係ありませんって。あいつの金銭的状況に腹が立っているのは俺の方なんだよ。あいつの貧乏くさい、思い出にって言葉が嫌で仕方ないんだ。あいつがそのうちに死ぬ気なんじゃないかとね。」


 俺は鬱憤のそのままに、親友に今まで黙っていた不安までも吐露していた。

 玄人は俺に似ている馬鹿であるからこそ、俺の考えなかった事を考えているようであればわかるのだ。


 あいつには生きる気力がそもそも無い。


 何もしたくないから、何も感じたくないからこそ、安全で幸せな場所だけを望んでいるだけのような気がするのである。


「記憶を取り戻さなければ大丈夫なんじゃないの。」


「お前も知っていたのか。」


「うん。俺って言うかたかがね。」


 楊が口にした髙とは彼の相棒のたか悠介ゆうすけ巡査部長の事である。

 髙は楊と似たような背格好だが、顔は対照的に一重の瞳の地味な風貌だ。

 しかしながら三十六歳と楊班では一番の年上であり、一番刑事歴が長い人物であるからか、飄々とした雰囲気を持ち、一番サマになる男でもある。


「髙がどうした?」


「ちびの母方の爺さんに呼び出されたそうなんだよ。髙はちびを誤解で病院送りにしてしまったことがあるじゃん。その叱責かとビクつきながらお伺いしたそうなんだけどさ、話の内容がね、知った事をお前とちびにばらすなと言う釘刺しのみ。本気で無理矢理記憶を戻したらちびが死ぬって信じ込んでいるって、髙が物凄く呆れていた。でもね、呆れていても髙が爺さんの言いつけを守るよう俺にも伝えたのはね、ちびにさぁ、お前の母さんがお前が運ばれた病院に行く途中で死んだんだよって、絶対に言いたくないよねって事。」


「お前らも、それか。」


「お前は伝えるつもりなんだね。」


「あぁ。でも今すぐじゃない。今伝えてあいつが壊れたら、その爺様にクロが奪われるのは確実だからね。そこを排除してからじゃないと俺も動かないから安心しろ。」


「何、それ。お前はちびの心情はどうでもいいのか。」


「当り前だ。あいつが息して俺の手元にいれば、あいつが一生ごく潰しでも何とでもなるよ。そう考える俺は、やっぱりあのババアに似ていたのかねぇ。」


「どうしたの?」


「俺のババアも忘れた頃に連絡してきていてね、お前が生きてりゃいいってね。」


「お袋さんとお前は今も交流あるんだ?」


 楊に俺が直接話した事は無いが、俺が愛人の子供であるというのは高校では有名な話であった。

 高校時代も人気者で人に囲まれていた男だ。

 同級生のゴシップを知らない筈は無いだろう。

 その証拠に、俺の話すババアが中学まで俺を育てた父の妻でなく、愛人であった実母だと彼にはわかっているようだ。


「無いよ、もう死んでる。店が潰れそうだって言うんで金を渡してやったら、亭主に金を奪われた上に殴り殺された。もう三年か、早いね。」


 楊はガクリと机に突っ伏した。


「どうした?」


 突っ伏したままの楊は、俺に「ごめん。」と呟いた。

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