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何かあれば、まず、かわちゃんへご相談

「何それ。」


 俺の説明を聞いたかわやなぎは、秀麗な顔に眉根を寄せてパグのような顔になり、あからさまに嫌そうな表情を俺に見せつけた。


「いいじゃん。もうさ、自滅させてすっきりさせれば。わざわざ犯人探しをしなくても最後にはちびの所に来るんでしょ。そん時にお前か山口が潰してお縄にすれば、屑もいなくなってメデタシメデタシじゃん。」


 この人でなしの回答をする楊という男は、俺の高校時代からの同期で友人で、現在は神奈川県警の所轄の警部補というれっきとした刑事である。


 前髪を上げて短めにした髪は、学生時代に起こした自損事故の影響で寝癖のような癖がでている。

 ちょっとミミズ腫れのようなハゲがあるんだ、こいつは。

 だが、そこらの俳優顔負けの整った顔のせいか、そんなことはお構いなしに女にモテて、ないか。


 可哀相にストーカーばかりに愛され、ストーカーの部下に逆セクハラをされて苦しんだ時期もあり、婚約者も婚約者一族も筋金入りのストーカーだ。

 外見が素晴らしいのに残念な私生活だからこそ、楊は同族を哀れむように玄人を弟のように「ちび」と呼んで可愛がるのだろうか。


「いつもと違うじゃないか。普段ならお前こそ率先して犯人逮捕に乗り出すだろうが。一体どうした?」


 楊は大きなため息をついて頬杖をついた。

 俺達のいるここは、楊の所属する刑事課の大部屋ではなく小会議室だった。

 いつもは刑事課の大部屋に案内されてそこにある応接セットに座らされるのだが、楊は俺の姿を認めるやいなやこの小部屋に俺を連れ込んだのだ。


 がらんとした部屋に楊の机だけが一台だけあり、俺と楊が向かい合わせて座っているうちに、とうとう楊は刑事課からハブられてしまったのかと、そのための不機嫌なのかと親友を少々哀れんでいる自分がいた。

 玄人と暮らすうちに、俺にも情というものが生まれたらしい。


「どうした?あの一昨日見つかった遺体が問題か?」


 笹原が語った最後の三人は、一昨日の早朝に貯水池にて浮かんでいた遺体である。

 担当した楊によると、彼らの死は紛う方なくの殺人だということだ。


「殺しは立松だろ。」


「残念ながら、殺害時刻には立松郎党は会社の倉庫でバーベキューの肉になっていたね。」


 玄人を誘拐して拷問した立松達は、別に恨みを持った人間に殺された。

 彼等の遺体は火事を出した会社の倉庫にて発見されている。


「他に恨みを買っていたのか。ただの頭の悪い子供だっただろ。」


「うーん。かなり頭の悪い子だったさ。お前の家を襲撃した時になあなあにしないでちゃんと調べておけば良かった。死亡した林裕一はやしゆういち君のパパに配慮してた警視庁に文句が言えないよ。俺も餓鬼が騒いでいただけだって、軽く見ていたからね。」


 林裕一とは、十一月に玄人と俺が巻き込まれた事件の被害者だ。

 彼が玄人を小学生時代に苛め抜いた主犯である上、林の父が警視庁の警部補だったために、玄人が殺害の主犯だと警視庁と神奈川県警本部に責められてしまったのだ。その時に玄人を庇ってくれたのが楊であり、別名「島流れ署」の相模原東署の署員達であった。


「そいつらが何かしていたのか?」


 楊はいつもの目玉をぐるっとする動作をして、嫌そうに語りだした。


「あいつら、同級生をリンチしていたのよ。高校生時代にね。被害者は三年も意識不明の植物状態だった。死んで血液やら指紋やらDNAやら調べるでしょ。警視庁さんと神奈川県警うちは未解決事件のデータベースを共有しているからね、今井達のデータを入れた途端にヒットよ。DNAはまだだけど、確実だね。」


「だったって、その子は死んだのか?」


「あいつらがちびを襲撃した数日後にね。指紋だけでも採っておいたら生きている間に犯人逮捕の報告が出来たのに。畜生。子供が死んで、母親が四十九日後に後追いだそうだ。」


 助けられなかった無念の親子について悔しがる楊の姿に、俺の脳裏にある言葉が甦った。


「あの子は植物状態でいるよりも死を選びます。」


「なんだ、それは。あぁ、あの時のあの女のセリフか。殺す気なのはお前だけだろって。」


 武本がこん睡状態の時に、俺と継母である詩織が玄人の転院について争った時の彼女の言葉だ。

 動かすと脳死の可能性が高いと言われて、彼女はそう答えたのである。

 実際は継子の玄人の遺産の横領を、玄人を死なせることで遺産相続と言う名目で隠そうとしていた殺人未遂でしかないが。


 俺は自分の愚かさに溜息をつくと覚悟を決めた。

 楊に話すべきではないと黙っていたのだが、まぁ、玄人は哀れな境遇が多過ぎて可哀相の百貨店状態の人間だ。

 このぐらい大丈夫だろう。

 大体警察の彼が被疑者と目された人物の生い立ちを洗わないわけはなく、楊は知っていて、知っているからこそ知らない振りを玄人の前で上手にこなしていたのである。

 玄人が真実に気づくような馬鹿な質問や話題を振ることもなく。

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