それでお前は何をした
「林君は虐めの中心で、毎日武本を殴っていたから殴り殺されたって聞いたし。それで、今日になって今井君達が死んだって聞いて。あの三人、頼まれて武本のマンションに落書きしたって言っていて。俺はもうやめろってメールを返したんだけど、今井は金になるからって。あの、あの子にも会わせてもらえるって言われてもいたらしくて。」
「あぁ、落書きは知っているよ。お前もそれで武本が殺されかけたって知っているんだろ。」
「……それで死にかけているから、呪いが強くなったって。」
「くだらねぇ。」
玄人は最近拉致され殺されかけたのだが、犯人が彼の自宅マンションの警備会社の社長立松誠であった。南部と言う男が立松を脅す目的で、立松が殺して埋めた遺体を彷彿とさせるマネキンオブジェを今井達を使って玄人の自宅玄関前に置いたのである。そして、そのことで、立松は玄人を自分を脅す人間と見做して彼を襲撃したのだ。
しかし、そのオブジェを武本夫妻がその日の内に片付けるか撤去の動きを見せてさえいれば、玄人は今も嫌がらせを受けるだけのいじめの被害者でしかないと周知され、立松は玄人ではなく攻撃を起こした今井達だけを襲ったのかもしれない。
彼らは咲子より玄人名義のマンションから追い出しを通告されたからと、オブジェの存在を知りながら、否、知っていたからこそか、夫婦二人で音信不通の海外旅行をしていたのだ。
おかげで玄人はマンションの管理組合から、管理組合が相場以下の値段で部屋を買い取りすることと、玄人本人がマンションから退去することを通告されている。
「それで、お前は何で死ぬと考えているんだ?お前は武本に何をした?」
笹原は下を向いたまま何も答えない。
ただぐずぐずと泣くだけだ。
「そいつは、追従どころか喜んで、何でも虐めの手助けをしていた卑怯者ですよ。だから、何でも、誰がやった虐めかも、全部知っているんですよ。一番の屑です。クロトが一番怖いと、一番の敵と見ていたレッドアラートなんですよ。」
居間に戻って来た山口が、総毛立つ程の殺気を纏って笹原を断罪した。
「だって、断ったら俺も同じ目に遭うじゃないですか。武本がもうちょっと嫌とか強く抵抗すれば良かったんですよ。いつも被害者ぶって泣くだけで。」
山口は笑顔で笹原を足で払った。
「黙れよ。強く抵抗した人間を羽交い絞めしてプールの底に沈めて、笑顔で踏みつけていた屑が。楽しんでいただろ?人殺しをさ。お前は何度も何度もクロトの腹を踏んでいたよな。」
「どうして、そこまで!」
がしゅん。
再び足で払われて、笹原は居間の隅へと転がった。
隅で縮こまってしまった笹原に一瞥を投げてから、山口は俺に向き直った。
「呪いだなんだって騒いでいるけど、全部こいつらの身から出た錆ってヤツじゃないですか。ほっとけばクロトを虐めた全員が自滅するならば、ほっときましょうよ。」
俺は山口の台詞に大賛成でもあるのだが、大賛成できない理由があった。
僧侶だからという理由じゃない。
俺は禅僧として無常を心掛けている。
「自滅で終わればいいんだけどね。自滅を煽っている上に殺人事件も起こっているんじゃ、結局最後に武本が襲われるからさ、解決をしないとね。」
俺の面倒臭そうな言葉に、払われた男も払った男も吃驚した顔で見返してきた。
良純さんは無情をあえて無常とご使用しています。
この人は釈迦への信心などありません、から。