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#30 後会2

 枯野KRVサービスの格納庫内にて、矢野と小林は、自分たちを拉致した治安隊の仲間である二人の男と対峙していた。

「こちら、うちのスタッフの村田と吉野です!」

 ツナギ姿の枯野がにこやかに男たちを紹介した。

「知ってる顔ね。奇遇だわ」

 小林は村田と吉野へ拳銃を突き付けて、油断なく二人の様子を伺っている。

「あんたら、自衛軍を裏切って夕映会に与したと思ったら、今度は整備屋に転職したのか。身軽というか節操なしというか」

 矢野は驚き以上に呆れかえっていた。

「好きでこんな所で奴隷をやってるわけがないだろう」

 吉野が銃口を向ける小林を仏頂面で睨み返す。

「俺の41式返してくれよ」

 村田が懇願する。

「私たちの行動を先回りして待ち伏せしてたの? 大した情報取集能力じゃない」

 小林は、村田たちが治安隊離反の証拠品である41式を回収しようと目論み、この場に潜んでいたのだと認識していた。

「もう俺も、キャリアだの身分だのなんて全部放り出して、街の整備屋にでも転職しようかなあ」

 矢野は立て続けに見舞われる突拍子もないトラブルに疲れ果て、現実逃避を始めた。

「お前たちは自衛軍領にも帰らず、なんでKRVの整備なんか頼んでるんだ? 傭兵でも始めるのか」

 吉野は矢野たちの不可解な行動に首を傾げた。

「それは俺の41式だぞ。返せよ」

 村田が懇願した。


 延々と続く噛み合わないやり取りの末に、「なぜ夕映会の取引相手である枯野へこの機体を預けるのか」という吉野の問いかけで、矢野と小林は口を噤んだ。吉野と村田も黙る。四人は、41式に検査装置をかざして仕事をしている枯野の背中を見た。

 四対の視線に気が付いた枯野が、怪訝な顔で振り返った。

「お話はまとまりました?」

「あの、枯野さん、傭兵の立木さんに聞いたんですが、あなたはシンプレックス推薦の業者さんですよね?」

 矢野が真顔で枯野を問いただす。枯野は微笑みを返した。

「はい、おかげさまでシンプレックスさんのお墨付きを頂いております!」

「夕映会とも取引があるってお宅の社員さんが言ってるんだけど」

「はい、おかげさまで夕映会さんから御贔屓に頂いております!」

 矢野と小林は顔を見合わせ、しばし小声で話し合った。

 シンプレックスと夕映会の双方に繋がっている枯野の立場は、矢野たちからしてみれば裏切者や内通者であるように見える。しかし、シンプレックスと夕映会は敵対しているわけではない。シンプレックスと契約を結んでいるベンダーの、その顧客の標的が夕映会だったというだけの話である。シンプレックスと取引をしている外部の業者がテロ組織と付き合いがあったとしても、何もおかしくはない。

「でも、テロリスト相手に商売してるなんて、堅気じゃないよな」

「我々だって、もはや堅気じゃないですよ」

 ヒソヒソと小声で話し合う矢野と小林に、枯野が声をかける。

「お客さん、もしかして夕映会さんとお知り合いですか?」

 矢野と小林は口ごもった。自分たちの居場所が、枯野を通じて夕映会へ漏洩することを恐れたのだ。

「この兄ちゃん、提供型KTDLSの開発者で、それが理由で夕映会に拉致されたんだよ。実行犯は俺らだけど」

 村田が考えなしにしれっと矢野の素性を明かした。小林のこめかみに血管が浮き出る。

「そうなんですか! じゃあぼくと同業ですね!」

 友好的に笑顔を向ける枯野を前に、もはや矢野は曖昧に頷くしかなかった。


 枯野たちの作業を突っ立って眺めていても何の益にもならないので、矢野たちは事務所の応接室にて待機していた。

「本当に奇遇だったってことなのか……?」

 矢野は頭を抱えている。誘拐犯から奪った機体を整備業者に持ち込んだら、そこで当の誘拐犯本人と再会する。そのような偶然があり得るのだろうか。

 矢野は、いつ村田たちが夕映会を引き連れて自分を捕らえに現れるのかと考えると、浮足立つ思いであった。

「逃走すべきか、判断に迷いますね」

 小林が仏頂面で呟く。

 KRVの整備というお使いを放り出して立木の事務所へ逃げ帰れば、外部とのコネを築く機会は失われてしまう。夕映会に捕らえられて殺害されるよりは良いだろうが、その後のことを考えると、判断は慎重に行いたい。

 立木の事務所へ帰らずそのまま姿を晦ませるという選択肢もあるが、そうなると今度は自衛軍へ帰還することが非常に難しくなる。

 矢野は苛立たし気に椅子の背もたれへ体重を預け、背を伸ばした。

「僕たちなんかをここまで追ってきたとしたら、夕映会も治安隊も相当に暇な連中なんだな」

「……俺たちも夕映会から追われているんだがな」

 おもむろに事務所の奥から村田と吉野が姿を現した。即座に小林が拳銃を抜いて銃口を向け、矢野は驚きのあまりバランスを崩して椅子ごとひっくり返る。

「整備の仕事はどうしたの? サボりは感心しないわね」

「俺らの仕事はもう終わった。俺らにできる事なんて、検査と換装くらいしかないからな」

 疑念と敵意に満ちた小林の言葉に、吉野が不貞腐れたような態度で答える。

 村田は応接室のカウンターの冷蔵庫から勝手に瓶ビールを取り出し、一人で煽りだした。

 矢野は起き上がり、椅子を立たせて再び座る。小林に拳銃を向けられて立ち尽くしている吉野の顔を見た。

「あんたたちが夕映会から追われてるって、どういう意味なんだ」

「そのままの意味だ。俺たちも連中から命からがら逃げだしてきたんだよ……座っていいか?」

 吉野の言葉を受けて、小林はわずかに躊躇ったが、拳銃を降ろすと吉野へテーブルをはさんだ対面の椅子へ座るよう促した。

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