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遅い日でももう帰っているであろう時間なのに、君は全くその素振りを見せなかった。
「今日は帰らないのですか?」
君に会えない日が続いていたので、嬉しいことではあるのだけれど、やはりその疑問は浮かんでしまう。浮かんだからには、その疑問符を隠せる僕ではない。
生憎、僕は隠し事ができない性分だ。
答えに迷っているような様子はなかったが、君は黙った。
「帰ってほしいんですか? という質問は意地悪ですよね。どうせ、そう言うであろうことを予想されてしまっているでしょうし、だから今日はあえて言います。きちんと質問の答えを返します。ええ、今日は帰らないのです、そのつもりですよ」
強く君は答えてくれた。
帰らないということは、病院に泊まってくれるということだろうか。
謎の人員が病室に入ってきた。ぞろぞろと六人も入ってきたものだから、本人も気付いていないのに僕の病状がひどく悪化したのかと思った。
もしかしたら、死ぬんじゃないかと、それくらい仰々しいものだったのだ。
むしろ殺されるんじゃないかと言うくらいに思えて怖いくらいだ。
「なんのつもりですか」
僕の疑問は無視して、謎の特殊部隊は僕の体をひょいと浮かせる。
そうして車椅子へと乗せたのだ。
こんな夜にどこへ行くつもりなのだろう。
今はそもそも外出は……
「一緒に行きたいところがあります。一緒に見たい景色があります。だから行きましょう。見てきましょう」
垂れ下がった僕の腕を君が持ち上げた。
「え、え? ええ」
理解は追い付いていませんでしたが、君の言うことだったから僕は頷いた。
僕のために君がしてくれることならば、なんだって当然に嬉しいのだから。
特殊部隊がいなくなってくれる様子はないので、どうやら二人きりになれるチャンスはないらしい。
気を利かせて、その時間を作ってくれようとはしてくれるかもしれないけれど、基本的にはこの護衛のような人たちを連れて出なければならないのだろう。
それで外を旅できるのだから、文句があるはずはない。
「……ドキドキします」
「あたしもです」
夢としか思っていなかった君との旅行記が実現するのだ。
それがどの程度のものなのかは、想像はしない。
だって何が起こっても、何をされたとしても、どのような道へ誘われたとしても、僕の想像を超える喜びが待っているのだから。
僕が君を愛していることを、君は知っているのだから。