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外の景色は冬にしか見えないけれども、今は十分に春と言える。
だとしたら、花見の季節はそう先のことではないだろう。
「外へ出るのですから、服が必要ですよね。あとは、車椅子をどのように用意しましょうか」
「持ち込んだらバレてしまいますよね。勝手に連れ出そうとしたら、怒られてしまいますし、どうしましょうか」
「内通者が必要ではありませんか?」
「名案です。わかりました、頑張ってみますね。あたしもいろいろな人に掛け合ってみますので、あなたもだれかに声を掛けておいてください。ただ、あまり広まるとよくない秘密の話ですから、人は選ばなければいけませんよね」
「脱出するために協力してもらうだけではなくて、何かあったときのためにも、だれか専門的な知識を持った協力者が必要でしょう」
悪戯をする子どもの気分だった。
だれか協力してくれそうな人はいるだろうか。
優しい人はいくらだって思い浮かぶけれど、だからこそ、だれも助けてくれそうにはなかった。
仕事でもあるのだし仕方がないのはわかっている。
それで僕の身に何かがあれば、だれが責任を取るのかという話である。
「脅しでもしますか。何もなければ、僕たちだけでも逃げ出しますと」
逃げ出すと報告してから逃げ出して、結局そうしたら責任を押し付けることになってしまうのではないだろうか。
知っていたのに止められなかった、責任を。
どうにか退院する手立てはないものか。
僕は大人だ。無理を押し通せば、退院させてもらえることはあるかもしれない。
それじゃあもう病院には帰らないか?
外へ出て行って、死ぬまで好きなことをして、好きなところで好きなときに死ぬ。それは死に逝く僕にとっては素晴らしいことだ。
だが周りの人には、迷惑だ。
君と笑い合っていられる時間が、永遠に続けばいいと祈っている。願っている。望んでいる。
強く生きることは無理でも、どちらかを果たしたいんだ。
生きるか、強く死ぬか。
どちらかでありたい。僕としてはそうしていたい。
「僕には見たい景色があります。君の隣で見たい景色があります。そのためには、人に迷惑を掛ける覚悟が必要です」
僕の訴えに君は強く頷いた。
その日の作戦会議はそれで終わり。
悪戯心で笑い合って、あとはいつものように楽しい話で空間を満たした。それはとても、病室に相応しい楽しい話。
僕には危険で退屈な夢が、外の世界の苦しみが必要だった。