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 死んでいく身よりも、死なれてしまって、残される身の方が辛いであろうと僕は考える。

 それなのに、すっかり君は覚悟が決まっているといった様子で、献身的に僕に尽くしてくれようとするのだ。

 考えてみれば、君にだって僕としたいことがあるはずだ。

 最後だから、最期だから、なんらか望みくらいはあるはずだ。

 君は最期だから好きなことをするといい、傍でそれを支え叶えてやりたいのだと言う。

 間違えなく最期を迎えるのは僕だ。そういった点でその通りなのだとしても、僕としてはやはりどこか違っているような気がした。

 一方的に僕の願いを叶えていくというのは、何かが違うような気がする。


 その異論を君が認めないであろうことは知れている。

 あなたの願いを叶えることがあたしの願いだとか、在り来たりな純情で一途な乙女らしいことを言ってくれるのではなく、あたしがそうしたいのだから黙って願いを叶えられていろとでも、全てのリード権を握った上で言ってくれそうなものだ。

 君がいてくれないでは何もできない僕では、そう言われてしまった際に返す言葉があるはずがないのだ。

 そういった卑怯な戦法なのだ。

「本当に僕は君に幸せを与えられていましたか?」

 今までにないほど様々なことがあった、充実した楽しい時間を過ごしてきて、いつの間にか暑い夏が訪れていた。

 一人で呟いたつもりだったのを、どこからか君が聞いていたらしい。


「汗を拭きに来ましたよ」

 まだ僕の体も生きているのだと感じられるから、暑い夏の日に病院ではないところにいられているのだと感じられるから、僕は汗を掻くことが好きだった。

 それはこれまで感じたことのないことだったからなのだろう。

「一緒にいられることが幸せでならないのです。幸せをもらってばかりなのです。わかってもらえていませんか?」

 耳元で囁かれてぞわっとした。

「意地が、悪いですよ……」

「今更なことを、そう何度も言わないでください。言われなくたってわかっていますし、言わなくたってわかっているでしょ?」



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