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『
残酷なものですね。ひどく、残酷なものです。
僕は、本当は君宛の手紙を残したかったくらいなのです。
声の方が密接に感じられて嬉しいと、君なら言ってくれるかもしれませんが、文字の持っている力というものを僕は知っています。
それに、文字ほど残しやすいものはないと考えているのです。
まだ少しは手が動いていたものだから、自分の力でページを捲って本を読めていた頃から、僕には文字を書くのは難しいことでした。
すっかり手が動かなくなって、僕だけでは普通に本を読むこともできなくなって、君の手を取るどころか握り返すことすらできなくなって、僕は……
体が固まって、土に近付いていくことが怖いのです。
すみません、話していると堪らなく恐ろしくなってしまって、僕が君に残したいのは、こんなメッセージではないはずですのに、少しだって待ってください。
なぜでしょうね。そのつもりは僕にもありませんのに、悲しくなって、怖くなって、自然と涙が滲んできてしまうのです。
ですから少しだけ待ってください。
落ち着くまで、少しだけ。
覚悟を決めて、これは僕がいなくなってからの君のために残そうと録音しているものです。
そう、録音を始めてもらう前に、覚悟ならばできていたはずなのですよ。
それなのにこんな気持ちになるものですから、ええ、予想以上に恐ろしいものもあったものですよ。
もちろん、こんなものを撮っている目的は、今の恐怖を訴えるためではありません。
ずっと身近に感じていたとはいえ、だからといって慣れるものではなく、相変わらず僕にとって死は恐ろしいままです。
ですがその恐怖にも勝るほど、僕にとって君と過ごせたことは幸せであり、愛に満ちた幸福な人生なのです。
直接このようなことを伝えることもできますが、それではきっと、君には笑われてしまって終わりでしょう。
照れくさいのは僕としても君としてもそうなることでしょうから、そういった理由もあって、君が僕のことを笑うことはわかっております。
ですのに、同じ内容だったとしても、僕が死んだ後に映像が残されていたとしたらば、それを見せられたとしたらば、君は感動して泣くに違いありません。
そういった思惑があって、僕はこれを残すのですよ。
雰囲気だけでもいい感じのことを言っているように思ってもらえたらと、このような小細工をするような僕ですが、泣かせたいわけではありません。
そのため、ちょっとした宝探しゲームのような感覚になって、少しでも楽しんでもらおうかと思うのです。
最初はまずはこれだけです。
次も探してみてくださいね。
』




