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 青かった海が、空が、少しずつオレンジ色に変わり始めていたのだ。

 その美しさと言ったらない。

「君が見せようとしてくれていたのは、これなのですね」

 この景色を初めて目にするのは君だって同じで、君もまた感動しているのだろうけれど、僕と違うのは君は情報としてどのような景色を見せられるか知っていたということだ。

 知らなかった僕だって、間違えなく目的の景色だろうとわかるほどの絶景ではあるが。

「そうなんだと思います。ですが、……あぁ、ここまで心に来るとは思っていませんでした。喜んでもらうためには、中途半端なもので済ませる気はありませんでしたけれど、あたしまでここまでだとは思っていませんでした」

 僕と君の指は自然と絡んでいた。


 指先から伝わる君の温もりに、天国へ繋がるような見下ろすこの景色に、僕の胸は高鳴っていた。”生きている”そう訴えていた。

 この手を僕からも握り返せたなら。

 もう二度と離れないというように、僕たちの指は絡み合っているというのに、こんなに温かいというのに、僕の手に力は入っていないのか。

 このまま僕の腕を上げて、スッと君の頬を撫でられでもしたなら、深く僕の愛を伝えられたのだろうか。

 言葉よりも深く、僕の愛を伝えることができるのだろうか。


 そのまま僕の目は絶景に釘付けになっていた。

 そちらを向いてはいないのでわかりはしないけれど、きっと君も僕の方など見はせずに、この絶景に見惚れているのだろう。

 指先からは僕の気持ちは伝わっていなかったのだろうか。

 名残り惜しい、君は違うのかい、指から君の指が抜けていく。

「ぁっ」

 言葉もなく握り返したかった。

 それができないのだから、放さないでくれと言ったらよかったものを、小さく僕は声を漏らしただけだった。

 悔しくて、自分が憎かった。


 憎い。どれだけ願っても動かせないこの手が憎い。

 君の傍にいたい。君に触れたい。それだけが僕の望みだというのに、どれも僕の力では叶えられそうにはないのか。

 君の優しさで、君は僕の望みを叶えてくれる。

 それが君の望みでもあるからなのだろうけれど、自信の問題ではなくて君のことを信じているからそれは言い切れるのだけれど、僕の望みを叶えてくれるのは君の力であるのには違いない。

 この手を君へと伸ばすことすら、僕にはできないのだというのに……。


 僕は君に近付きたいんだ、ただ、君へと近付いていきたいんだ。

 言葉の上では傍にいるのに、歩み寄る足は持っていないということが、やはり僕は憎いよ。

 段々と、美しいおまえのことも憎く思えてくるものだよ。

「……これは、最後でしたね」

 君の呟きの意味はわからず、「はい」と僕は頷いた。


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