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 思い出したように君は言った。

「迷いますね。近付いてくる感動の景色を、あなたと一緒に待つことも、とても幸せなことに思えます。けれど、パッとサプライズでいきなり見せられた方が、幸せも感動も大きくなるのではないでしょうかとも思うのです。ですがそれはあたしにはできないことですから、同じ景色を楽しみたいあたしとしては、あなたがますます感動してくださることよりも、隣で目を開けていてくれることを希望してしまうのです」

 同じ景色を楽しみたい気持ちは僕もそうに決まっているのに、それを理解している上で、そのくせ君は何を言うのだろう。

 いくら君からの気持ちが嬉しいとは言っても、僕は君にもてなされたいのではない。ただ、君の隣にいたいのだ。

 僕の唯一の望みは、君の隣にいることだ。


 それは自意識過剰で可哀想な自惚れをしているのではなくて、君も僕の隣にいることだけを望んでくれている。

 たとえこの後そう長くないうちに、失う悲しみを無条件に味わされるとしても、短い時間を少しでも隣にいてくれようとしてくれるほどなのだ。

 憐れみでそれはできない。

 僕のことを想ってくれていないと、そんなことはできない。

「お互いに隣を見る、というのはいかがです? 同じように愛する人だけを見ていられますし、同じようにその景色というのはパッとしたところで見られるではありませんか」

「賛成です!」

 即答で君は賛成をしてくれた。


 前を向かないと危ないだろうというくらいに、本当にまっすぐ君は僕の方を向いている。

 首が痛いというくらいに、本当にまっすぐ僕も君の方を向こうとする。

 辛いところはあるけれども、首が回ってくれることが、僕にはありがたく嬉しい。

 手まで動かせたらいいのだけれど。

 願わくば、死期は今と変わらないとしても、体をきちんと動かせたらいいのだけれど。

 脳はこんなに動いているのに、いや、それをありがたがらなければいけないのか。

 たぶん、脳が狂ってしまっていたら、これほど僕が悩み苦しむようなことはなかっただろう。それでも君のことは今よりも悩ませ苦しませてしまっていたことだろう。


 どうだろうか。きちんとした会話ができてしまっているし、今の方がかえって君のことを苦しませてしまっているかもしれない。

 会話などできなければ、意識などなければ、そんなことを思いはしない。

 ……だとすると、神様に病を与えられてしまった中では、よっぽど僕はいい方なように考えられる。

「もうすぐ到着ですよ。到着。どうしましょう、あたしも目を瞑って行っちゃいましょうかね」

「あなたが目を瞑っていたら、危険ではありませんか」

「いえいえ、こんなに人がいるのですから、いくらだって導いていただけるでしょう」

「スイカ割りみたいにですか?」

「手を引いてもらうのです」

「駄目に決まっているじゃないですか!」

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