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 時計を持っているわけではないから、正確には、どれくらいの時間が経過していたのか僕にはわからない。

 相当、というくらいにしかわからなかった。

 けれど相当の時間が経ったとわかるのも日の傾きからであり、僕の感覚的な問題としては、ほとんど時間が経っていないようにすら感じられるのである。

 実際に時間を目で見ているわけではないから、太陽が焦ってしまっただけとでも思っているのだろう。

 それくらい、半日近くもの時間を過ごしたにしては、君との時間はあっという間だった。


 久々に車が止まり、夕飯の休憩かと思ったが、今度こそ到着であるらしい。

 食事、運転の交代、君のお手洗いなどの理由により、何度か車は止まっているけれど、車椅子を出してきたのだから到着なのだ。

 特殊部隊のように相変わらず僕の側に立ち、ひょいと軽々持ち上げて車椅子へと移動させてくれる。

 海は見えないけれど、波の音は聞こえた。

 この独特の匂い、話に聞いていた磯の香りというものだろうか、それとはまた違ったものなのだろうか。

 辛うじて音の情報まではどうにかなるにしても、匂いに関してはこの場所でしか知り得ない。どのような文献もテレビも僕にそれを示してはくれない。

 そのくせ、疑問は少しずつ僕の中で確信に変換されていった。


 砂浜というのは広いものなのだな。

 海が見えないほど遠くへまで続いているというのだから。

「……えっと、浜辺の方へは行かないのでしょうか。それとも、入り口がそちら側にあるだとか?」

 風に吹かれて既にやられそうになるくらい、近くにまで来ているのだというのに、そちらの方面へ向かう様子がなかったもので僕は尋ねた。

 耳やら鼻やらで海を感じられはするけれど、目に見えないんじゃあどうにも不思議と近くには感じられない。

 目を瞑っているか、映像を見せられているかしたらばまた違ったのだろうが。

「さすがに浜辺へは行けません。コンクリートの道を我慢してください。ですが、この先に絶景スポットがあることはリサーチ済みですので、その点はご心配なさらずに」


 もしかしたら、君だったら無理してくれるかもしれない、そのことを僕は期待していたに違いない。

 当然、君の判断は賢明なものだし、本来僕もそうするべきだと考えている正しさというものだ。

 しかし僕は心のどこかで、そうするべきを打ち破って、そうしたいを貫いてくれる君がいることを期待してしまっていたのだ。

 君が選んでくれた当然を携えて、微笑むつもりでいたのだ。

「散々ハードルを上げたのですから、がっかりさせるようなことはないようにするのですよ。君が選んでくださったものですから、そうしたものがありはしないだろうと、まさか疑うようなこともしておりませんけれど、君が言うので一応ね」

 手ずから車椅子を押してくれているので、後ろに立っている君の顔は見えない。



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