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説明を聞いていて、君の伝えたいその憧れのシチュエーションというものが、やっと僕にも共有されてきた。
実際がどの程度なのかは知らないが、海は風が強いというような話を聞く。
まして砂では、車椅子を押しづらいのではないだろうか。
なんとなくのイメージはあるのだけれど、進む道自体はコンクリートだと思っていいのだろうか。
大事なところで微妙に抜けている君だから、細かいことは想定していない可能性もあるから、そこは少しだけ不安だ。
憧れにより近付けることは大切だと思うが、君がそれに拘るとも思えないけれど。
僅かに完璧主義な君は、理想の景色を僕に見せようとしてくれるだろう。映画のように上手くそれは叶わないであろうが、喜んで見せるようなことほど君が嫌うものはないだろう。
今ばかりこんなことを考えてはいるが、それは完全なる理想の姿に至らないものだったとしても、僕としては知らない景色に違いない。
きっと、少なくとも、感動はするのだろう。
あえてそうしようと思っていなくとも、動かされる心を僕は持っているはずだ。
「楽しくありませんか? なぜ、黙りきりなのですか?」
本当はわかっていての悪戯なのではなく、本当にそう思っていての問い掛けに僕には見えた。
「いえまさか、どうしてこれを楽しまずにいられましょう。あんまりに幸せなものだから、僕は今、それを噛み締めているのですよ」
気持ちを言い表す的確な言葉が見つからず、照れた心で告げた。
答えてから、暫く君は口を閉ざした。
ずっと喋りきりだった君がめっきり口を開いてくれなかったのだ。
僕から話し掛けても、数分間、うんもすんも言ってくれなかった。
「幸せとは、どうにも罪深いことです。あなたの素敵なお言葉は、あたしを喜ばせてくれると同時に、それが悲しみに直結してしまう世界なのですから」
迷惑を掛けろと僕に言うからには、君の方も僕に遠慮してばかりではなかった。
だが、こうもまではっきりと気持ちを伝えられてしまうとは思わなくて、嬉しくはあるものののやはり心は痛んだ。
僕が最も嫌なことを、僕自身が引き起こしてしまわざるを得ないというのだから、当然だろう。
不満を全面に押し出して、僕は微笑んだ。
「はっきり言ってくれますね」
「大切な人に隠し事はしないことにしていますから。それに、下手な嘘であなたを傷付けてしまうよりは、傷付けてしまうことにはなるとしても、あたしの本心を受け止めてほしいのです。その方が、お互いに気持ちも楽だとあたしは思います」
「気持ちはわかります。万が一にも、君を信じられていないところが存在しているようなことはありえないのに、臆病な僕はそうもまではっきり言えませんね。尊敬しますよ、そういうところ」
「嫌味なようにも聞こえますが、あなたのことですから、素直かつ不器用なだけなのでしょうね」
素直かつ不器用という君からの評価に、思うところがないわけではなかった。
むしろ反論をしなかったのは、君から見える僕の姿が、僕から見える僕の姿と比べて、少なからず差を持っていたからだと言える。
重ならないから、君の声は愛おしかった。




